32.アンデッド退治
アンデッド。
死した朽ちかけの肉体が、半死半生の状態で魔物と化した存在。
というのが、一般的に知られているアンデッドの知識だ。
原理に関しては研究段階らしく、あまり詳しいことはわかっていない。
「一週間くらい前かしら? ここから北へ向かった先に集団墓地があるの。夜になると大量のアンデッドが現れて、この街を目指して侵攻してくるようになったのよ」
「この街をですか?」
「そう。元々その墓地に埋葬されているのって、この街にいた冒険者が多いのよね。その関係じゃないかって言われているけど」
私もその辺りは詳しくない。
だから、詳しそうな人に視線を向ける。
彼は依頼書を眺めながら、私たちの視線に気づいて口を開く。
「それで間違っていないよ。アンデッドは、生前にゆかりのあった場所や、遺恨を残した土地へ向かう習性がある。彼らに残されているのは負の感情だけだからね」
そう語るユーレアスの表情は、今までにないほど真剣だった。
魂に触れ、魂を狩る力を持つ彼にとって、アンデッドは縁ある存在なのだろう。
少なくともその縁は、あまり良いものではなさそうだ。
「うん、これを受けよう」
「いいの?」
「これは僕に相応しい依頼だ。いいや、僕が解決すべき案件だよ」
「じゃあ決まりだね。私もついていくよ」
「頼むよ」
依頼書が受理され、さっそく私たちは問題の墓地へ向かうことに。
徒歩でも行ける距離らしいから、馬車は街に置いていく。
道中、私はアンデッドについてユーレアスに尋ねた。
「ユーレアスはどこまで知っているの?」
「お察しの通りさ。僕はアンデッドについてなら全部しっている。何せ専門分野だからね」
「やっぱりそうなんだ」
「うん」
「じゃあ、アンデッドって結局なんなの?」
私がそう尋ねると、彼は眉をひそめて言う。
「あれは冥界に下りそこなった魂の怪物だよ」
ユーレアスが説明を続ける。
本来、死した魂は冥界へ下るのがルールだ。
ただし、様々な理由から冥界へ下るタイミングを失い、現世に留まっている魂がある。
アンデッドのそのうちの一つで、極めて特殊なケースだという。
「通常、死ねば魂は肉体から抜け落ちる。ただ稀に、強力な負の感情を抱いて死んだ魂は、肉体へ執着するんだ。たとえそれが朽ちた肉体でもね」
魂は奇跡を起こすことがある。
廃都で見た光景も、魂が残した奇跡の光だった。
今回に関しては、悪い奇跡が起こした悲劇ということらしい。
「墓地のアンデッドも、街に恨みを残してるのかな?」
「それはどうだろう」
「どうって?」
「今回の一件で重要なのは、最近になってアンデッドが現れた点だよ。本来なら、アンデッド化するのは死した直後なんだ」
「え? じゃあ……」
ユーレアスが頷く。
「そう。何年も経過して、今さらアンデッドになることはない。普通ならね」
「その言い方……方法があるんだ」
「うん。僕の本職は死霊使いだ。ネクロマンサーには、死体をゾンビとして復活させるスキルがある」
「そうなの? ユーレアスにも?」
「もちろんあるよ」
ただし、彼の場合は特殊だという。
ネクロマンサーのスキルでは、ゾンビ化の際に魂をでっちあげて入れ込む。
生前の記憶はなく、殺戮衝動だけを呼び起こす。
ユーレアスの場合は、魂をストックする力があって、魂をでっちあげる必要がない。
彼がよく扱う従僕も、ストックした魔物の魂を冥界の炎で肉付けしたものだ。
「つまり、今回の場合はネクロマンサーの仕業ってことでいいの?」
「確実に人為的だよ。まぁ、ネクロマンサーだったら話はまとまるんだけど」
意味深な発言を残し、私たちは墓地に到着していた。
時間はまだ早い。
アンデッドが出現するのは、午後八時を超えた辺りという話だった。
「どうするの?」
「一通り調査をしておこう。おそらく無理だけど、残っている魂は処理しておきたいからね」
「わかった」
私はフィーを肩に乗せて進む。
昼間だから襲われる心配はなさそうだけど、念のための警戒だ。
そうして調査を終え、特に目立った問題も見つからず、私たちは夜を待った。
懐中時計を見つめる。
時計の針が、午後八時を指示した。
「ユーレアス!」
「うん。気を抜かないでね」
墓地全域に冷たい霧が発生していく。
ただの霧ではなく微弱な魔力を帯びていた。
ユーレアスの話によれば、人為的に造られたアンデッドは、作成者のスキルで自由に出し入れが可能らしい。
おそらく今回も、誰かがここにアンデッドを召喚している。
「わかっていると思うけど、深追いは禁物だよ。僕たちの目的は、原因を見つけることだ」
「うん、大丈夫だよ」
「よーし! じゃあさっそく、目の前の哀れな魂たちを救済しようか」
現れた冒険者のゾンビたち。
当然ながら生気はなく、目もくりぬかれている。
見えているのではない。
魔力による感知で、生者を殺そうと歩み寄ってくる。
「フィー! いくよ!」
フィーが高らかに鳴く。
アンデッドに通常の攻撃は効果がない。
弱点となるのは炎、日光、それからフィーのような光精霊だ。
戦いは久しぶりだけど、ユーレアスの足を引っ張らないように頑張ろう。
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