30.運命の再会と、さようなら
王都を出た僕は、気ままに旅を続けていた。
元より親もなく、帰る家もない僕にとって、旅をすることだけが唯一の生きがい。
いいや、それ以外にやることがなかったんだ。
成り行きで始めた旅だったけど、それなりに刺激的だった。
旅の途中で偶然にも冥界に迷い込んだり、冥界の女王に気に入られて、変な力をもらったり。
不老不死になったと気づいたときは、どうしたものかと悩んだりもした。
そして、皆との冒険の旅路。
何年経とうと、彼女たちのことは忘れないだろう。
「ん? ここって……」
偶然だった。
何気なく、ただ歩いて巡っていた途中で、僕はたどり着いたんだ。
「ユース?」
「やっぱりそうか。久しぶりだね、アイラ」
彼女がいる村へ。
意図せず僕らは再会を果たした。
アイラは僕を見た途端、飼い主の呼びかけに答える犬みたいに、全速力で駆け寄って来た。
「ユースー! 会いたかったよ!」
「うん、僕も会いたかっ――うおっと」
勢いよく抱き着いてきたアイラを受け止めきれず、僕は尻もちをついた。
ぎゅっと力いっぱい抱きしめてくる彼女は、満面の笑みを見せる。
「元気そうだね」
「うん! ユースも元気だった?」
「見ての通りさ。髪、伸ばしたんだね」
「えへへ、似合うかな?」
以前は短い赤髪だったけど、今は肩を超えるロングヘア。
戦いが終わって、髪を伸ばす余裕が出来たのだろう。
「すごく似合っているよ」
「嬉しいなぁ。ユースは私に会いに来てくれたの?」
「う~ん、正直に言うと偶然かな? 気まぐれな旅をしていたら、偶々ここにたどり着いたんだ」
「それって……」
ガッカリさせてしまったか?
という不安は、彼女の笑顔で吹き飛ばされた。
「それってもう運命だよ!」
「う、運命?」
「私もね? ずっと会いたいと思ってたの。それで昨日の夜に会える夢を見て、もっと会いたくなって。そしたら会えたんだよ? もう運命って思うしかないよ」
彼女は興奮気味に、僕の手を握りしめる。
うっとりとした視線を向けながら、彼女は言う。
「ユース、私ね? ユースのことが好き」
「それが伝えたかったことかい?」
「うん」
「そうか」
「ユースは?」
「もちろん。僕もアイラが大好きさ」
わかっていた。
分かり合っていた。
僕たちはずっと一緒に旅をして、互いに惹かれあい、支え合った仲だ。
きっとリューラとグレイスも同じだろう。
「ユースの旅に私もついていっていいかな?」
「いいとも。僕も君と一緒にいたい」
そうして、僕の一人旅は、彼女との二人旅に変わった。
やることは変わらない。
世界各地を巡って、漂える魂を回収する。
道中に立ち寄った村や街では、復興の作業を手伝ったりした。
魔王軍の残党が悪さをしていた時に、リューラとグレイスにも再会できた。
二人の子供はワンパクで、将来有望だと感じたよ。
「私たちも子供がほしくなっちゃったね」
「うん。どこか落ち着ける場所を見つけたらかな?」
「ふふっ、そうだね」
幸せだ。
きっとアイラも同じ気持ちだっただろう。
あまり人間が好きではない僕だけど、アイラと仲間たちは特別だった。
彼女や皆と過ごした時間は、一人でいる時よりも楽しい。
僕にとっての宝物で、永遠に色あせることのない思い出だ。
だけど、僕と彼らは生きる時間が違う。
いずれお別れの時はやってくる。
まだ先だと。
ずっと一緒にいたいと思っていた。
「ごほっ」
「アイラ!?」
幸せの終わりは、突然やってきた。
旅の途中で、アイラは重い病を患ってしまったんだ。
天から加護を受けていた彼女は、これまで病にかかったことがない。
しかし、役目を終えたことで、加護の一部は消失していた。
軽い風邪すらかかったことのない彼女は、自力で病に抗う力が育っていない。
いくつもの病を併発し、絡み合ってどうしようもなくなる。
「ごめんね……ユース」
「どうして君が謝るんだい?」
「だって、ユースを一人にしちゃう」
弱々しい声で言う。
辛いのは自分なのに、こんな時まで他人の心配をするのか。
「ユースは他人じゃないよ。私の大切な……世界で一番大好きな人だもん」
「僕もだよ。君が何より大切で……」
涙が溢れ出た。
生まれて初めてだったよ。
悲しくて涙を流したことなんて、一度もなかったんだ。
離れたくない。
どうせ一人に戻るなら、いっそ死んでしまいたいと思う。
だけど、僕にはそれが許されない。
「ねぇユース……私からお願い聞いてくれる?」
「何だい?」
「私たちが守った世界を見守っていてほしいの」
そんな僕に、彼女は優しくて辛いお願いを口にした。
君がいない世界で、僕に生きろと言っている。
なんて残酷なんだ。
それでも彼女は、僕に生きていてほしいと願っている。
「わかった」
だったら、僕の答えは一つだ。
最愛の人の願いを無下にするなんて、僕らしくないから。
「ありがとう」
「どう……いたしまして」
「大丈夫だよ。きっと誰かが、代わりに君を笑顔にしてくれるから」
「無理だよ。そんな人は現れない。君しかいない……こんなにも綺麗な魂をもった人は、君だけしかいないよ」
「なら、私がまた会いに行くよ。生まれ変わっても、必ず君の傍に……」
それが最後の言葉で、果たされない約束を交わした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
七百年の月日が流れ、僕は旅を続けていた。
その果てに出会ったんだ。
彼女と同じ魂の美しさを持つ人。
「それが君なんだよ。ノア――あれ?」
トンと肩に頭があたる。
横を見ると、ノアがスヤスヤと寝息をたてていた。
いつの間にか眠っていたのか。
夜も遅いし仕方がないな。
「君がそうなのかはわからない。でも、彼女は約束してくれたからね」
生まれ変わっても会いに行く。
彼女はそう言ってくれた。
僕は信じている。
運命はあるのだと。
「おやすみ、アイラ」
思えば僕の旅は、君を探すためのものだったんだ。
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