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3.広がる亀裂

「はぁ……陛下は何を考えておられるのか」

「うむ。亜人種を受け入れると決定された時もだが、先のことを考えているのか?」

「どうであろうな。聞けば此度の魔王軍には、亜人種も加わっているそうだぞ?」

「なんと! それではわが国も危うい。今一度陛下に進言をせねば」


 時折、貴族たちの会話が聞こえてきた。

 彼らはお父様を快く思っていない。

 亜人種のことも、人間に劣る下級種族としか考えていない。


 対してお父様の理想は、全ての人が助け合い自由に暮らせる国を作ること。

 そこには種族はもちろん、身分の差も関係ない。

 限りなく平等な国を、お父様は築こうとしていた。

 だから、お父様の理想を貴族たちは快く思っていない。

 権力者である彼らにとって、お父様の理想は己の身分を脅かす愚行でしかなかった。

 お父様もそのことを知っていたから、大きく政策を進められずにいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ガタガタと揺れる馬車に、私とお父様が乗っている。

 ここは王国の外で、隣国の領土内。


「すまないな、ユイノア。私の仕事に付き合わせてしまって」

「ううん。お父様のお手伝いなら、何でもしたいです」

「そうか。そう言ってくれると嬉しい」


 私たちを乗せた馬車は、隣国の王城を目指している。

 新たに得た情報によると、魔王軍は徐々に勢力を拡大し、近い国々から侵略を始めているそうだ。

 軍事強化には懐疑的だったお父様も、さすがに何もしないわけにはいかない。

 貴族たちとも話し合った結果、昨今の事情を踏まえ、隣国との連携を密にしていく方針を固めていた。

 それを実行するために、私たちは隣国の王様と謁見する。

 

「お父様。シャハル国王陛下は、私たちの話を聞いてくれるでしょうか?」

「心配いらないよ。以前から交流のある国だからね」


 そうお父様が言っていて、私も安心していた。

 だけど……


「申し訳ないが、貴国の提案には賛同しかねる」

「なっ、なぜです?」

「……こんなこと言いたくないのだが、貴国は亜人種の移民を多く受け入れているだろう? そのことを快く思わない者が、わが国には多いのだ」

「そ、そんな……」


 予想外の返答に、お父様は困惑していた。

 シャハル国王陛下とお父様は、十年来の付き合いらしい。

 隣国の王子だった者同士、自然と馬が合ったという話も聞いた。

 だけど、互いに国王になってからは交流も減っていたそうだ。


「魔王の話はそちらにも届いているのだろう? ならば、その軍勢に亜人種が加わっていることも知っているのではないか?」

「そ、それは……」

「これ以上は言わなくてもわかるだろう。私としても心苦しいが」

「……わかった。時間を取らせて申し訳ない」


 お父様が引き下がり、シャハル国王陛下との話は終わった。

 互いにやるせない気持ちがあるのは、端から見ていた私にもわかる。

 もしも王子の頃だったら、もっと気持ちを言葉に込めることが出来たのだろうか。

 大人を知らない私には、二人の気持ちがわからない。


「……」

「……」


 帰り道。

 無言のまま馬車は走る。

 お父様は悲しそうな表情で外を見つめていた。

 私は何か話したいと思いながら、何を言えば良いのかわからず、黙って下を向いている。

 こんな時、お母様なら何と声をかけるのだろうか。

 そんなことを考えている時だった。


 ガタン!


「な、なんだ!?」


 馬車が大きく揺れた。

 急停車して、お父様が御者に声をかける。


「何があった!」

「陛下! 賊が――っ」


 血を吹き出し倒れ込む御者。

 護衛の騎士たちが馬車を囲い、私たちを守ろうとしている。

 窓の外を見ると、武器を持った野蛮な男たちが、私たちの馬車を取り囲んでいた。


「エストワール王国のリチャード国王。隣は聖女のユイノア姫か」

「貴様たちは何者だ?」


 男たちは答えない。

 とは言え、見ての通りだから予想はつく。


「目的は何だ?」

「教えたら俺たちに良いことがあるのか?」

「……話す気はないか」

「当然だろ? まぁでも、これから殺す相手だからな。話してやってもいいが……そっちの女は生かして捕らえろって言われてるし、色々面倒だ」


 男の口ぶりから、誰かに雇われていることがわかる。

 誰かはわからないけど、お父様を殺し、私を捕まえたいらしい。


「陛下お下がりください!」

「待て! この人数ではお前たちでも」

「ご安心を。我々で隙を作ります。その間にお逃げくだされば――」


 会話の途中で矢が飛んでくる。

 騎士の一人が身を挺して庇い、お父様は無事だった。


「くっ……」

「そんな暇与えると思ったか? 状況を見ろよ」


 同行した騎士は五人。

 野盗の数は、ぱっと見渡しただけでも二十人はいる。

 圧倒的な人数差を前に、騎士たちは奮闘虚しく倒れていく。

 そして、残された私とお父様。


「さぁ、とっとと殺して終わらせるか」

「させません!」

「あぁ?」

「待てユイノア!」


 お父様を殺させない。

 私は光の精霊と契約した聖女。

 その力は癒すだけでなく、戦うこともできる。


「私が守ります! お父様は下がって!」

「駄目だユイノア! お前だけでも逃げてくれ」

「うるっせーな~ ちょっと黙ってろよ」

「っ……」

「ユイノア!」


 身体がしびれて動かない。

 上手く力も入らない。

 かすむ視界の先で、魔法陣が展開されているのが見える。


「こっちは殺せないからな~ まっ、でもちょっといたぶっても良いだろ? どうせ必要なのはお前じゃないしな」

「……」

「睨んでも無駄だぜ。そんじゃ先に、こっちを殺しとくか」


 そう言って、男はお父様に剣を向ける。

 私は必死に身体を動かそうとした。

 口も上手く動かなくて、フィーを呼ぶことすら難しい。

 このままじゃお父様が殺される。

 自分では何もできないから、祈ることしか出来ない。


 誰か――助けて。


 その祈りは天に――否、死神に届いていた。

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