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29.彼らの邪魔はさせない

 王都の裏手には山がある。

 その山を越えた先の荒れ地は、王国が管理す墓地だ。

 ただの墓地ではなく、罪人を埋葬するために設けられたもの。

 管理という管理が行き届いているわけでもなく、丁寧な埋葬なんて何の話?

 罪人の死体なんて、適当に埋めてしまえばいいという考え方。

 間違いではないと思っていたけど、まさかもまさか……


 自分が埋められるなんて、夢にも思わないだろ?


「うんしょっと。あーやだやだ……せめて棺桶に入れてから埋めてほしいな」


 土の中からむっくりと出てきた僕は、体中についた泥を払い落としていた。

 何があったのか、自分の頭で状況だけ整理しよう。

 昨日の夜だと思うけど、僕の食事には毒が盛られていた。

 即死するレベルの毒ではなくて、一時的に体の自由を奪うタイプのものだ。

 気付けなかった僕は普通に食べて、気を失っている間に首を斬られたらしい。

 らしいというのは、意識がなかったから覚えていない。


「まったくもう、面倒なことをしてくれるね」


 僕の身体は、冥王と契約した折に不死身となった。

 老いはなく、傷ついても再生する。

 仮にバラバラにされたとしても、時間をかければ再生できる。

 僕を殺した彼らも、そのことを知っているはずなんだけど。


 魔王の言葉が脳裏によぎる。

 僕は呆れて笑ってしまいながら、ぼそりと呟く。


「残念ながらその通りだったようだね」


 僕を殺したのは貴族たちだ。

 彼らは自分たちの地位と権力を何より大切にしている。

 崩壊しかけて世界でも、根っこの部分は変わらない。

 英雄と言えど、部外者の僕たちにでかい顔をされるのは嫌だったのだろう。

 悲劇の最後でも適当にでっち上げて、利権だけは奪ってしまおうと考えたのか。

 

「だとすると、みんなも危険かな」


 僕を排除したと思っているなら、次にアイラたちを狙うはずだ。

 彼女たちもお人よしだからな。

 方法はいくらでもある。

 そうなる前に、僕が何とかするべきだろう。

 あと、これはついでだ。


「無実の罪で命を落とした者たちか。どうや冥界で安らかに、次なる生に期待しておくれ」


 墓地には無数の魂が漂っていた。

 ここは罪人の墓地だと聞いていたけど、浮かんでいるのは青い魂ばかり。

 無念から冥界へ下る機会を失ってしまったのだろう。

 彼らの魂を導くのも、契約者たる僕の役割だ。


「さて、それじゃ報復にいくとしよう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 王城の一室で、貴族たちが話し合っている。

 内容は聞くまでもなく、残された英雄たちの処遇。

 男の一人が提案する。


「刺客を送るより、ただ訪問する方法が最適だろう」

「うむ。彼らは我々が裏切るなどみじんも思っていないだろうからな」

「先のユーレアスといい、英雄は情に弱くて助かるぞ」


 会話の内容は酷いものだ。

 世界を救った者たちへの敬意なんて感じられない。

 彼らの脳内にあるのは、自分たちが得をする未来だけ。

 それ以外は考えてもいない。


 だが、彼らは見誤っていた。


「残念だけど、そう簡単にはいかないよ?」

「なっ……ユーレアス?」


 英雄という存在は、いつだって常識外の場所に立っていることを。


「やあやあ皆さん! 元気いっぱいに企んでいるみたいだね」

「ば、馬鹿な……なぜ生きている?」

「なぜって、前に説明したはずだよ? 僕の身体は特別製なんだよ。魂が害されない限り、老いることも朽ちることもない。文字通りの不死身さ」


 貴族たちは後ずさる。

 逃げようとしているのが丸わかりだ。

 そうはさせないと、僕は魂の下僕を召喚して、彼らの退路を断つ。


「くっ……」

「まぁそうは言っても、不死身なのは僕だけでさ。他のみんなは優しいから、きっと騙されちゃう。それはとても困るんだ。彼らには幸せな最後を迎える権利があるからね」

「ま、待て!」

「待たないよ。人一人殺したんだ。残念だけど、君たちの魂はもう濁ってしまっている」


 真っ赤に染まっていないのが微妙だな。

 これじゃあ地獄には落とせない。


「わ、我々を殺せばこの国はまとまらん! 王国が滅ぶかもしれんぞ!」

「ん~ 別に良いんじゃないかな?」

「なっ……」

「勘違いしているみたいだけど、僕は別に王国を救いたくて戦ったわけじゃないよ」


 他のみんなはそうだったと思う。

 だけど、僕はそこまで人間が好きじゃないんだ。


「な、ならばなぜ……」

「単純な理由さ」


 僕は大鎌を振り上げ――


「暇つぶしだよ」


 彼らの魂を刈り取った。


「ふぅ、さてどうしようかな」


 彼らの安全は、一先ずこれで保障されただろう。

 この国がどうなるかはさておき、英雄としての役目は本当に終わったようだ。

 グレイスに話した通り、また旅人に戻るとしよう。

 旅の途中で彼らともう一度会いたい。

 人間の一生は短いから、生きている間に再会したいものだ。


「アイラは元気にしているかな?」


 特に、彼女とは話したいことがある。

 次に会った時、何かを伝えてくれるそうだからね。

 ちょっと期待しながら、僕は王都を旅立った。


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少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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