27.魔王は笑う
俺を含む四人は、全員が特別な力を持っていた。
アイラは聖剣と、聖剣を使うための加護を持ち、あらゆる毒や魔法に対して耐性がある。
リューラは風の精霊王の契約者で、大気の全てを自在に操れる。
グレイスの魔眼は、魔力の流れと術式を見抜き、相手に魔法を封殺する。
僕は魂を見る眼を持ち、冥界の女王との契約で、魂を使役する力と刈り取る武器を与えられた。
残された人類にとって、僕たちは希望以外の何者でもなかった。
そうして、魔王を倒すための旅が始まった。
侵略を続ける魔王軍を蹴散らし、幹部を退け、生き残った同胞たちを救っていく。
一週間、一月、一年が経過してようやくたどり着いた魔王の領地。
「くっらいねー」
「太陽が届かない場所だもの」
「面白い気候だな。終わったら調査したい」
「みんな悠長だな~ そんなことしてると――」
ドタドタと足音が聞こえる。
現れたのは魔王直属の部下たち。
「いたぞ!」
「ほら、敵が集まってきちゃったじゃないか」
「大っ丈夫!」
アイラが聖剣を古い、悪魔たちを蹴散らす。
「全部倒していくから問題なし!」
「はははっ、さすがアイラ」
彼女の笑顔はキラキラしている。
太陽のないこの大地で、彼女の笑顔は眩しすぎる。
今まで見た中で一番綺麗な魂も魅力的だ。
「もっと増えてきたぞ」
「冷静に言ってないで杖を持ちなさいよ」
「わかってる。怒られるのは嫌だから、俺だって真面目にやるさ」
リューラが弓を、グレイスが杖を構える。
「ユース! 私たちも頑張るよ!」
「仰せのままに」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「っち、さすがに強いな」
「舐めるな勇者ども! 我々は魔王様直属の配下だ!」
魔王城の敷地内で戦う僕たちは、次々に現れる魔族に苦戦していた。
一人ずつ相手にすれば問題ないけど、倒してもキリがないほど出てくる。
このまま戦っていると、魔王にたどり着く前に疲弊してしまいそうだ。
同じことを考えていたリューラとグレイスが、僕とアイラに言う。
「アイラ! 先に行って!」
「ユース、お前も一緒に行ってこい」
「え、僕も?」
「当然でしょ! 魔王を倒せるのはアイラの聖剣と、あんたのソウルイーターだけなんだから!」
戦いの最中、二人からの提案。
「二人は?」
「俺たちは雑魚を片付けておくよ」
「こっちの心配なんていらないわ。一番大変なのはそっちよ」
アイラが僕を見つめる。
確認を求めている視線だ。
「アイラが良いなら、僕は構わないよ」
「……わかった! 二人ともここは任せたよ」
「了解した」
「任されたわ」
二人が残り、僕とアイラが先へ進む。
別れ際、残った二人が声を揃えて叫ぶ。
「「また後で!」」
それに僕とアイラが答える。
「「約束だ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔王城の最上階。
玉座の間で、彼らの王は待っていた。
護衛もつけず、たった一人で堂々と、僕たちが来ることを予知していた。
魔王が並び立つ僕らを見て言う。
「聖剣に選ばれた勇者と、冥界の女王に遣わされた死神か。何とも愉快なコンビだな」
「失礼だな~ 名コンビと訂正してもらおうか」
そう言って僕は大鎌を構える。
アイラも聖剣を召喚し、魔王はゴキゴキと手を鳴らす。
互いに戦闘準備は万全。
「ユース」
「何だい?」
「勝つよ」
「もちろんさ」
「良いだろう――来い」
人類の存亡をかけた戦いが始まる。
魔王の力は、これまで戦ってきた魔族を遥かに上回っていた。
全力を出しても足りない。
仮に一人で戦っていたなら、僕もアイラも破れていただろう。
それほど魔王は恐ろしく、強い存在だった。
魔王は理を超越している。
地上に存在する力では、魔王を傷つけることも出来ない。
故に、天から下った聖剣と、冥界から授かった大鎌だけが、彼を殺せる唯一の力だった。
戦いはし烈さを増していく。
僕も手持ちの魂を全て使い果たすほど。
アイラも限界を超え続け、魔王の余力を削っていった。
「クッ――」
「ユース!」
「おうとも!」
そうして遂に隙を突き、聖剣と大鎌が魔王に届いた。
聖剣が肉体を浄化し、大鎌が魂を斬り裂く。
「ぐおっ……まさかこれ程とは……」
「私たちの勝ちだよ」
「そうだ。そのようだな……ふふふっ、はっははははははは!」
倒れ込んだ魔王は高らかに笑っていた。
不気味な笑い声に思わずぞっとしたのを覚えている。
肉体は消滅が始まり、魂も冥界へ下ろうとしているのに、なぜ笑えるのかと疑問だった。
「見くびっていたようだ。よもや人間がここまでやれるなど……いいや、お前たちが異常なだけか」
「どういう意味かな?」
アイラが尋ねると、魔王はニヤリと笑う。
「勇者、死神。お前たちは人間の愚かさを知らない。断言しよう。お前たちはいずれ、救った人間に裏切られる」
「何を言って――」
「絶望するだろう! その瞬間を見れないことが、何より悲しいぞ」
魔王は笑う。
死に際ですら、僕たちに不和をもたらそうとする。
肉体が完全に消滅し、魂が冥界へ下ったとき、ようやく僕らは安堵した。
「終わったんだね」
「うん」
僕たちの戦いは……長い長い旅は終点を迎えた。
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