26.四人の英雄
亡くなった者たちの魂が、思い出になって残っている。
光は魂じゃなくて、その想いでの形。
これこそ奇跡と呼ぶにふさわしい光景だ。
僕はこの都が健在だったころから生きている。
そんな僕でも、初めて見る光景が、最近はたくさん見られて幸せだ。
既視感。
でも、なんでだろう?
初めて見るはずなのに、妙な懐かしさがあるんだ。
懐かしさと一緒に、切なさも感じている。
絶景を眺めながら、漠然とした疑問を抱いていた。
「――今」
一瞬だけ、記憶と景色が重なった。
そうだ。
ようやく思い出したぞ。
僕はこの景色を知っている。
この景色に近い光景を、以前に見たことがある。
一緒に見たのは……
「そうか。だから懐かしいのか」
「ユーレアス?」
今隣にいる彼女が、僕の名前を呼んだ。
徐に目を合わせたら、彼女たちの魂が重なって見える。
懐かしさの正体。
その理由の一つは、彼女の魂にもあった。
「思い出したんだ。懐かしさのワケを……この都とトレントの街は似ているんだ。七百年前、僕らが募った街に」
「それって……」
「うん。そういえば、ノアには話してなかったね」
聞かれなかったから?
いいや、単に話すことを避けていたんだ。
あの物語を好きでいてくれる人には、あまり聞かせたくない話だから。
だけど、彼女だって成長している。
今の彼女になら、話していいのかもしれない。
「せっかくの機会だ。君を根強いファンと見込んで特別に語ろう」
「ブレイブ物語の?」
「そうさ。あの物語の続き、本当のエピローグを」
それは英雄譚の終わり。
輝かしいフィナーレではなく、欲に溺れた者たちによって汚されてしまった想い。
生きる意味を見失い、それでも生き続けると決めた男の物語だ。
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大陸の西の果てには、太陽が昇らない場所がある。
特殊な気候が生み出す結界によって、一日を通して夜が続く。
普通の草木は育たず、特別な植物や動物しか生存できない環境。
そこに彼らは……魔族たちは城を建てた。
亜人種の中でも優れた魔法適性を持ち、魔王と呼ばれる長は無尽蔵に近い魔力を持っていた。
その起源は地獄の主たる悪魔と人間の混血。
本質的に破壊と殺戮を好む彼らが、人類に牙を向けることは……もはや必然だった。
当時世界中には百を超える国があった。
その八割が人間の国で、残りは亜人種が住まう国。
人間と亜人種は主義主張の違いから、あまり仲が良くない。
だが、この時ばかりは協力せざるを得なかった。
世界各地で魔王軍の侵略が始まった。
彼らは特殊な魔道具を使い、魔王城から大量の魔物を送り込んでくる。
戦いを挑んだ人間たちだったが、数の暴力には敵わなかった。
あっという間に国は滅ぼされ、一年足らずで半数が消え去る。
このままでは人類は滅びてしまう。
そう考えた者たちが協力し合い、残された国で連合軍を結成した。
数だけなら魔王軍を上回っている。
これなら勝てると戦いを挑んだが……
「ガハハハッ! 人間は脆いな~ ちょっと力を込めただけで粉々だ!」
「くそっ、こんなはずでは……」
「は? 何言ってやがるんだよ。お前たち人間は所詮何の力もないゴミだ。この世で最も偉大な種族は、俺たち魔族様なんだよ!」
結果は惨敗だった。
魔族たちの才能は、人間のそれを遥かに上回っていた。
獣人族、エルフ族、ドワーフ族……数々の亜人種も加わっていたが、悉く蹂躙されてしまう。
そして、さらに半年後。
たくさんあった人類の国は、最後の一つとなっていた。
「どうするのだ?」
「どうするもない。降伏すべきだ」
「馬鹿なことを! 奴らが我々を生かすと思っているのか?」
「ならば戦うというのか? 残された戦力は……」
人類最後の国――ドラゴテール王国。
残された土地は、王都たった一つ。
王家の人間や民間人を含めても、人口は二千人に満たない。
戦える者など数える程度。
「もはやこれまでか……」
そう、誰もが諦めかけていた時。
天から四つの光が降り注いだ。
それは天命だった。
お前たちが戦え、人類を救えという。
「今の声……」
僕は確かに、神の声を聞いたと思う。
そうして天命の元、四人の戦士が王都に集まった。
「初めまして! 私はアイラ!」
赤髪の女剣士アイラ。
天命と共に聖剣を授かった勇者だ。
彼女が育った小さな村は、幸運にも魔王軍の侵攻を受けていなかった。
魔王軍が標的としていたのは、国や大きな集落のみ。
国々は滅んでも、大陸でひっそいりと生きる者たちもいたんだ。
「わたしはリューラ。見ての通りエルフよ」
「俺はグレイスだ。魔法なら得意だぞ」
この二人もそうだ。
リューラはエルフの隠れ里で住んでいた。
弓と様々な道具を扱うレンジャー。
ローブを纏ったグレイスは変わり者で、辺境の森の奥で魔法の研究をしていたらしい。
天命を受けるまで、世界がこんなことになっているとは知らなかったと笑っていた。
そして――
「僕はユーレアス。死霊使いさ」
最後の一人が僕だった。
こうして募った四人が、後の英雄として語られる。
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