23.愛の女神は微笑む
三女神の祭りは三つのエリアに分かれている。
それぞれの司る対象の違いから、一つにまとめるのは罰当たりだと、最初の開催者が決めたそうだ。
エリアは三人の女神像が建てられた場所を基準に決められている。
平和の女神エイレーネの像は街の中央。
癒しの女神パナケイアの像は街の東側に。
そして、私の目当てである愛の女神アプロディーテの像は、街の西側にある。
「像の足元には特別な結晶が埋まっているんです。そこに手をかざすと、女神さまの加護が受けられると言われています。結晶が光るのが目印で、より強く光るほど加護が強いってことなんですよ」
と、受付嬢は真摯に教えてくれた。
ちなみに愛の女神アプロディーテ像の足元にある結晶は、一人だと光らせられないそうだ。
ある意味相性占いに近いだろう。
私とユーレアスが触れて、盛大に光ってくれれば嬉しい。
それをきっかけに、彼が私のことを意識してくれると、もっと嬉しい。
と思うのだけど……
「うーん、やっぱり癒しか平和のほうが良くないかな? これからの旅にぜーったい必要になるのはこっちだと思うなぁ」
部屋に入ってから、ユーレアスがそう呟いていた。
相変わらずの鈍感さに、もはやため息すら出なくなる。
いいかげん伝わってほしいけど、五年間ずっとこんな感じだ。
「ねぇユーレアス」
「ん?」
「私はユーレアスが好きだよ」
「知っているよ。僕だってノアが大好きだからね」
「……」
見ての通り、直接伝えても効果は薄い。
彼にとって私は子供で、守るべき対象だから。
私が伝える好きは、好意であっても愛ではないと思っている。
否定して、説明しても、笑って誤魔化されるだけ。
このままじゃいつまで経っても、私の保護者という認識から脱せられない。
「明日……覚悟しておいてよ」
「え、えぇ? な、何だいそれ……ちょっとお兄さん怖いんだけど」
動揺するユーレアスをしり目に、私の心はメラメラと燃えている。
そうして翌日。
祭りの日は、朝からとても賑やかだった。
外に出た途端に伝わる熱気。
昨日までなかった屋台が立ち並び、大勢の人が押し寄せている。
「うわ……さすがに多いな」
ユーレアスも引くぐらいの人数が集まっていた。
受付嬢の話だと、加護を受ける儀式は大人気で、それを目的に来る人も多い。
だから早くから並ばないと、順番が回ってこないとか。
「この人混みに流されるのは嫌だな~」
「そんなこと言わないで! ほら行こう!」
「えぇ、うおっと。やれやれ、ノアはいつになく元気だなぁ~」
当然だよ。
だって大切なことだもの。
私にとっては、世界を巡ること以上に。
愛の女神のエリアまで、どの道を進んでも混雑している。
露店の行列と、道行く人の列が交差し、気を緩めればぶつかって倒れそうだ。
昨日とは変わって先導する私には、みんな身長が高すぎて困る。
何とかかき分けながら前へと進み、女神像に向う。
「おやおや。これは凄い列だな」
「……もうこんなに」
女神像へ続く列は、広間を超えて街頭まで伸びていた。
人数は数えられないほど。
まだ祭りが始まって一時間も経っていないのに。
とりあえず私たちは、列の最後尾に並んだ。
「本当にすごい人……」
「他の女神像も同じなのか?」
そう言いながら、ユーレアスは女神像の足元を見ている。
男女で仲良さげに触れ合い、結晶が桃色に光っていた。
「なるほど、そういう仕組みか」
「ユーレアス?」
「えーっとね、ノア。ガッカリさせるようで申し訳ないけど、あの結晶に加護を与える力なんてないよ」
ユーレアスから衝撃の真実が告げられる。
いや、衝撃というほど驚いてはいない。
そんなに都合の良い物はないと、薄々察してはいたから。
どうやらあの結晶は、触れることで魔力を吸収するらしい。
吸収される量はわずかで、ほとんどの人間は気付かない。
その魔力が結晶を光らせているだけという事実に、一体何人が感づいているのか。
ちなみに愛の女神像だけ、光らせるのに二人必要というのは、単に必要量が多いからだそうだ。
「意図的に魔力を流せば一人でも光るよ。自然に流れる魔力の量は、結晶との相性で変わるから、あるとすればその違いかな」
光が強いほうが良い。
という話も、流す魔力の量を増やせば再現できる。
説明を終えたユーレアスが、ちょっぴり申し訳なさそうに尋ねてくる。
「どうする? このまま並ぶ?」
「……うん」
「そうか。ならば付き合おう」
仕掛けが何だろうと別に良い。
私はただ、彼に少しでも意識してもらえればいいから。
ちょっとしたきっかけがほしい。
そう思いながら順番を待つ。
二時間後――
思ったよりも早く順番が回ってきた。
そもそも勘違いしていたが、列が長いのは当然だった。
他の二か所と違って、ここだけは二人以上であることが必須だから。
並んでいるのは夫婦やカップルがほとんど。
最低でも二人ずつ移動していくお陰で、列の回転も速い。
「ここに手を当てればいいんだね」
「そうだと思う」
私とユーレアスは結晶に触れる。
たぶん、このまま桃色に光るだろう。
それだけじゃ足りないから、私は直接彼に言う。
「ユーレアスが好き。ずっと……ずっと一緒にいてほしい」
「知っているとも」
返事は変わらない。
結晶が桃色に光る。
綺麗な色だけど、それで終わらない。
どんどん光は強くなって、辺り一面を照らすほど濃くなっていく。
「な、なんだこれ!」
「こんなの初めて見たわ」
集まった人たちの声が聞こえる。
私は彼が言っていたことを思い出していた。
意図的に魔力を流せば……
私は流そうとしていない。
ということは、つまり彼が――
「さすがに僕だって、そこまで好意に疎くないさ」
「ユーレアス?」
私には聞こえない小さな声で、彼が何かを呟いていた。
ふいに見上げた彼の顔が、どこか照れているように見えたのは、目の錯覚なのだろうか。
そうだとしても、少しだけ前進した気がする。
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