17.二人旅
窓から差し込む光が、ちょうど顔にかかって目が覚める。
小鳥のさえずりと、優しい風の音が聞こえて、ふぅと息をはく。
寝起きの身体はとても重い。
ぐーっと背伸びをして、半分寝ている身体に起きろとメッセージを送ってから、私はベッドから降りる。
窓の近くにある机の上で、光の精霊がちょこんと座っていた。
「おはよう、フィー」
フィーの頭を撫でたら、嬉しそうに喉を鳴らしていた。
昨日の夜に出発の準備は済ませてある。
あとは寝癖をとかし、服を着替えるだけだ。
私は部屋の入り口にある大きな鏡の前に歩み寄って、自分の身なりを整える。
そして、自分の顔と身体を見て、しみじみと感じる。
「もう五年か」
そう。
私が国を出てから、ちょうど五年の月日が経過していた。
十歳の子供だった私も、今では十五歳になっている。
エストワール王国では十五歳を成人として扱っているから、一応もう大人という扱いだ。
身長もちょっとは伸びたし、顔つきも大人っぽくなったと思う。
明るく長かった髪も、今では黒く染めて短く切っていた。
いいや、本当は真っ黒に染めたつもりだったのだけど、元々の明るさと混ざり合った所為で黒に近い濃いめの緑色になっている。
最初は中途半端で嫌だなと思いながら、何だかんだで慣れてからは気に入っている。
服を着替える。
昨日の夜に用意した服は、地味で普通な男物っぽいズボンと上着。
今の容姿でこれを着てしまえば、私は男の子に見えるだろう。
もちろん敢えてやっていることだ。
「よし」
出発の準備は出来た。
次にやることも決まっている。
「フィー、おいで」
フィーが私の肩にちょこんと乗る。
部屋も綺麗に片づけて、お世話になりましたと一礼しておく。
そのまま部屋を出て、隣の部屋の前に移動した。
私はトントントンとノックをして声をかける。
「ユーレアス」
中からの返事はない。
私は小さくため息をもらして、預かっていた鍵で勝手に扉を開ける。
室内は私の部屋と同じ間取りで、ベッドが奥に一つある。
そのベッドでスヤスヤ眠るのは、かつて世界を救った英雄の一人にして、永劫の時を生きる冥界の契約者。
「ユーレアス、もう朝だよ」
「ぅ、う~ん……おや? もうそんな時間なのかい?」
「そうだよ。外見て」
「本当だ。清々しい空だね」
むっくりと起き上がった彼は、枕の横にあった髪留めで長い銀色の髪を結ぶ。
ニコッと微笑むその表情は、五年間変わらない。
「おはよう、ノア」
「うん、おはよう、ユーレアス」
あの日から五年間。
私は彼と一緒に世界中を旅して回っている。
お父様とお母様の想いを胸に、幼かった頃の夢を叶えるため。
「着替えはここに置いておくね」
「あいがとう。いつもすまないね」
旅は新しい発見が多い。
世界のこともそうだけど、ユーレアスのことも色々知れた。
意外と朝が苦手で、準備とか片付けもテキトーだったり。
料理はとっても上手い。
王国のシェフよりも、個人的には上なんじゃないかと思うほどだ。
ユーレアスが身支度を整え終わり、荷物を持って部屋を出ようとした。
途中の大きな鏡をチラッと見る。
彼の前だと、自分の容姿が気になってしまう。
それに気づいた彼が、私に向けて言う。
「君の男装もすっかり板についてきたね」
「それはもちろん。もう五年も経っているからね」
「五年か。僕にとっては、ついこの間の出来事に思えるけど」
私の男装と髪色は、どちらも旅での余計なトラブルを防ぐためだ。
女の子の旅は色々と危険が多いと聞く。
私は身体も小さくて、元の髪色は金色だから目立ってしまう。
人さらいの標的にされたりとか、変なおじさんの目線を浴びたりとか、最初の頃は大変だったよ。
そういうことが続いて、ユーレアスから男装を提案された。
髪色は自分で変えると決めて、話し方とか作法も少しずつ男性に合わせている。
モデルはユーレアスだから、所々で被ることが多いかもしれない。
「以前は小さなお姫様だったけど、今は誰もが振り向く美少年だね」
「はははっ、ユーレアスは変わらないね」
「それが僕だからね」
「うん。でも、私だって変わらないよ? 見た目は変わっても、ちゃんと女の子だからね?」
と、意味深な視線を向けて言った。
ユーレアスは表情一つ変えず、普段通りに答える。
「もちろんわかっているさ。姿を変えても、性別までは変わらないからね」
「……はぁ」
「おや? どうしてここでため息?」
「何でもないよ……鈍感」
彼には聞こえない小さな声で呟いた。
五年間ずっと変わらない想い。
私はユーレアスのことが大好きだ。
口で、態度でそれを伝えても、彼にはちゃんと伝わらない。
まだ子供だと思われているみたいで悲しい。
「負けないからね」
「ん? 何と戦っているんだい?」
こんな感じだけど、彼との旅はとても楽しい。
新鮮で、愉快で、刺激的な毎日。
時には怖いこともあるし、のんびり過ごすこともある。
全てにおいて自由で奔放な日々を、私たちは送っていた。
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