14.冥界下り
「えーっと、こっちかな?」
ユーレアスを先頭にして、森の中を進んでいく。
放り出された森とは違う森で、木の感じも少しオレンジ色に見える。
「あの、ユーレアス様」
「ん?」
「どこへ向かっているんですか?」
「さっき聞いてた洞窟だよ?」
キョトンとした表情でそう答えるユーレアス。
質問の意図が、正しく伝わっていないようだった。
私は続けて質問をする。
「そうではなくて、えっと……洞窟に何かあるんですか?」
「いいや、洞窟には何もないよ。宿屋の人もそう言っていただろ?」
私とユーレアスの会話は、かみ合っているようでかみ合わない。
結局聞きたいことを知れぬまま、私は彼の後に続いた。
そうして森の中を歩いていくと、切り立った岩が並ぶ場所に出る。
「この辺りなんだけど」
「あれじゃないですか?」
先に見つけたのは私だった。
指さす方向には、岩と岩の間に穴がある。
大人が通れる程度の穴で、遠くからでは中が見えない。
「本当だ。じゃあ行こうか」
「え、あっはい」
ユーレアスは私の手を握って引っ張る。
私はふらつきながら、彼に手を引かれて洞窟へと入った。
中は当たり前だけど暗い。
地面も凸凹していて、気を付けないと躓いてしまいそうだ。
ユーレアスが手をかざす。
三つの青い炎の玉が浮かんで、周囲を怪しく照らす。
「これは?」
「冥界の炎だよ。これで足元がよく見える」
冥界なんて単語を平然と口にできるのは、ユーレアスだけだろう。
私にはイマイチぴんと来ない。
本当にそんな場所があるのかと思ってしまう。
そして、もしも本当にあるのなら、そこに行けば……とも考えてしまうから仕方がない。
「う~ん、本当に何もない洞窟だなぁ」
「そうですね」
「わかっていたけど、これじゃつまらないな」
ユーレアスは退屈そうにため息をつく。
つまらないと口にしながら、歩くペースは変えない。
真っすぐと奥深くへ進んでいく。
彼が一緒だから不安は少ないけど、洞窟なんて生まれて初めて来た。
色々な意味で、心が落ち着かない。
「ねぇユイノアちゃん、冥界ってどこにあるか知ってる?」
「えっ」
唐突に、ユーレアスから質問が飛んできた。
私は困惑して、しばらく答えられずに黙ってしまう。
すると、彼はニコリと微笑んで答えを口にする。
「冥界はね? この大地の深ーい底にあるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。神の住まう天界も同じで、空高くに存在している。どちらも別世界のように考える人が多いけど、実際は同じ世界の中にあるんだ」
ユーレアスの説明は難しい。
難しいけど、何となくわかるような気がする。
「要するに認識できないだけで、すぐ傍にあるんだよ」
そう言って、ユーレアスはピタリと歩みを止める。
目の前は行き止まり。
少しだけ天井が高くて開けた場所にたどり着いていた。
「よし! この辺りならいいかな」
ユーレアスは右手を前に突き出す。
次の瞬間、青い炎がその場を包み込む。
炎は燃え上がり、筆のように動いて線を描く。
描かれた線は四角く結ばれて、一つの門へと形を変えた。
唖然として呆ける私に、ユーレアスが教えてくれる。
「これは冥界への入り口だ」
「冥界の……入り口!?」
「そう。冥界と現世をつなげる門は、こういう地下じゃないと生成できなくてね」
彼は淡々と話を進めていく。
私だけが取り残されている感じがして、気づいた彼が言う。
「突然だけど、今から冥界へ遊びに行こうと思うんだ」
「え、えぇ!?」
さすがの私も、思わず声をあげてしまった。
遊びに行こうなんて、気軽に言える場所ではないと思うから。
「ど、どうして?」
「うん。それは君に会わせたい人たちがいるからだ」
「私に……! もしかして……」
二人の顔が脳裏に浮かぶ。
ユーレアスは優しく微笑み、頷いて答える。
「そうだとも。君の両親の魂は、まだ冥界に漂っているはずだ。今なら会話をすることも出来る」
「お父様とお母様に……」
「会えるよ。いいや、僕が会わせてあげるさ」
彼は門に手をかけ、ググっと音を立てて開く。
冥界への道が簡単につながるなんて、あり得ない光景を目の当たりにしている。
「さぁ行こう」
彼は私に手を差し伸べる。
門の先は暗くて、冷たい風が吹き抜ける。
ちょっぴり怖いと感じながら、私は彼の手を強く握った。
「はい!」
難しいことはわからない。
ただ一つ理解できるのは、二人と会えるかもしれないということ。
それだけわかれば、私の身体は動いてくれる。
冥界の門を潜ると、そこはまるで別世界だった。
迷路のように続く道と、藍色の空がある。
さっきまで地下にいたとは思えない。
明かりなんてほとんどないのに、周囲もちゃんと見えている。
「ここが冥界……」
「ウル」
「お呼びですか? 我が主よ」
ユーレアスの懐から光が飛び出し、大きな狼が姿を見せる。
前に私とお父様を守ってくれた黒い狼だ。
「すまないけど、案内してもらえるかな? 相変わらず迷路みたいで迷ってしまいそうだ」
「承った。が、僭越ながら忠告をしておく」
「言われなくてもわかるけど、聞いておこうかな」
ウルは私に目を向ける。
「いくら主とは言え、冥界に許可なく生者を連れてくることはお勧めしない」
「うん、だと思ったよ」
「王の怒りをかうかもしれぬ」
「それは大丈夫さ。彼女と僕はながーい付き合いだからね」
彼がそう言うと、ウルは私にもわかるくらい呆れた様子を見せる。
「我は知らぬぞ」
そう言い、ウルが先頭を歩く。
私はユーレアスに手を引かれ、冥界の道を進んでいく。
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