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追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~  作者: 日之影ソラ


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13/50

13.忘れられない光景

 燃え盛る炎。

 赤く染まった王城と街並みが、毎晩のように夢に出る気がする。

 今日も、きっと明日もそうだ。

 涙が枯れるまで泣いたけど、悲しみが消えたわけじゃない。

 ただ少し、心は軽くなった。

 今も隣にいる彼のお陰で――


「どうしたの?」

「……いえ、何でもありません」

「そう。歩き疲れてないかな?」

「はい。まだ大丈夫です」


 森へ転移した私を、ユーレアスが助けに来てくれた。

 一人で心細かったけど、彼が一緒だと安心する。


「フィー!」

「そうだね。フィーも一緒にいてくれたね」


 自分もいるぞと主張するように、光の精霊フィーが目の前に顔を出した。

 私と契約しているフィーは、どんな時でも傍にいる。

 もう一人の家族のような存在だったことを、今さら思い出す。

 

「おや? ようやく顔を出したんだね」


 ユーレアスがフィーに気付いた。

 普段フィーは霊体化して私の傍にいる。

 実体化し続けるのは、それだけで体力と魔力を消費してしまうから。

 契約者である私の心が不安定になると、霊体化すら保てなくなって一時的に私の魔力と混ざり合う。

 さっきまでは悲しみに苛まれていたから出て来れなかった。

 フィーが出てこられる程度には、私の心も落ち着いたということだ。

 だけど……


「まだ忘れられないって顔だね」

「えっ、あ、ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。昨日の今日で整理がつくほど簡単な出来事じゃなかったからね。そもそも忘れれるなんて無理なことだ」

「……はい」


 ユーレアスの言う通りだと思った。

 仮に一年、十年経とうとも、私はあの光景を忘れられない。

 二度と会えなくなった二人のことを、死ぬまで後悔し続けるだろう。

 今さら何を後悔した所で無駄だというのに。

 それでも私は……もし願いが叶うなら、もう一度だけ二人に会いたいと思ってしまう。

 会って話をしたい。

 くだらない話でもいいから、二人の声を聞いて、笑顔を見せてほしい。

 それが不可能なことくらい、子供の私でも理解できる。

 だからこそ、願わずにはいられない。


 私たちは森を抜けて、小さな町にたどり着いた。

 名前はカリナス。

 聞いたことのない名前の町だった。


「この辺りの土地は、どの国にも属していないからね。それにこんな小さな町なんて、見過ごされてもおかしくないよ」


 と、ユーレアスは教えてくれた。

 お父様の公務以外で遠出もしたことのない私には、外の世界はわからないことだらけだ。

 ユーレアスに連れられ、一件の宿屋に入る。


「今日はここで一泊しよう」

「はい」


 ずっと歩き通しだったから、両脚とも疲れている。

 ユーレアスが店主と話をして、二階の部屋を案内された。

 部屋は一つで、ベッドも一つしかない。

 案内してくれた店主が申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません、現在空室はここだけでして」

「う~ん、まぁ良いでしょう」


 その場で手続きを済ませて鍵を受け取る。

 店主だけが去っていき、私とユーレアスが残された。


「ベッドはユイノアちゃんが使っていいからね」

「え、ユーレアス様は?」

「僕はその辺の床で十分さ。旅は長いし、野宿にも慣れているからね」

「そんなの駄目です! お金の払ったのはユーレアス様なのに」

「構わないよ。君はもっと子供らしくあるべきだ」


 そう言って、ユーレアスは私の頭を優しく撫でてくれた。

 彼は私の服装を眺め、はっと気づいて言う。


「そうそう。王城を出るとき、いくつか服を持ってきたんだよ」

「服ですか?」

「うん。さすがにその恰好じゃ目立つだろうと思ってね」


 ユーレアスは魔法のカバンから服を取り出す。

 服の場所なんて誰に聞いたのだろう。


「なるべく地味目のを選んだつもりだけど、やっぱりお姫様の服は豪華だね」

「そう……ですね」


 お姫様という単語に反応してしまう。

 そう、私はお姫様だったけど、今はもう違う。

 違うということを思い出す度に、思い出したくないことまで一緒に浮かんでしまう。

 それに気づいたのか、ユーレアスは申し訳なさそうな顏をしていた。


「もう遅いし、シャワーだけ済ませて眠ろう」

「はい」


 言われた通りにシャワーを浴びて、私はベッドで横になった。

 自分でけベッドを使う申し訳なさよりも、疲れのほうが強かったらしい。

 横になった途端、私の意識は沈んでいく。


 夢を見る。

 楽しい毎日が続く夢。

 それが一瞬で砕け散り、絶望する所で終わる。

 悲しい夢だけど、不思議と心細さは感じなかった。

 誰かが私の手を握って、安心させてくれている気がする。


「ぅ……」

「おはよう、ユイノアちゃん」


 目が覚めて、その理由がわかった。

 ユーレアスが私の手をギュッと握ってくれている。

 心細くなかったのは、彼がいてくれたからだ。


「ありがとうございます」

「僕は何もしていないよ。さぁ、出発の準備をしよう」

「もう出るんですか?」

「うん。行きたい所が出来たからね」


 私たちは荷物を整理し、一階の受付に降りる。

 店主に鍵を返してから、ユーレアスが尋ねる。


「付かぬことを伺いますが、この辺りで地下へ続いている洞窟ってありませんか?」

「洞窟ですか? それなら西へ向かった先にありますが」

「ほう、それは運が良い。大まかに道を教えて頂けませんか?」

「構いませんが、あそこは特になにもありませんよ」


 店主はそう言ったけど、ユーレアスはそれでも良いと答えた。

 首を傾げながら店主は道を教える。

 紙に書かれた簡易的な地図を見ながら、私たちは町を出ていく。


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