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追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~  作者: 日之影ソラ


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11.美しき魂との約束

 僕には人の魂が見える。

 魂には色があって、基本的には蒼く炎のように揺らいでいる。

 罪を犯した者は濁り、重い罪なら赤く染まる。

 反対に清らかな魂は無色透明だ。

 この世に生を受けてから、七百年以上が経っている。

 色々な魂を見てきた。

 中には罪を重ねすぎて、赤どころか真っ黒に染まった魂もあったよ。

 そんな中で、久々だったと思う。

 

 辺境の小さな国の聖女。

 名前はユイノアちゃん、まだ十歳の女の子。


 こんなにも澄んだ魂を見たのは。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、えっと……お母さんは、身体が弱くて」

「そうか。じゃあ面会は出来そうにないね」


 彼女のお母さんは病で寝込んでいるらしい。

 そんな話を聞いた後、気になった僕は一人でこっそり部屋を探した。

 別に会うつもりはなかった。

 あわよくば、窓からでも覗き込めればと思った程度だ。

 だけど……


「こんばんは、王妃様」

「どなたですか?」


 僕は彼女の部屋へ入っていた。

 声を出されるかと思ったけど、王妃様は冷静で、僕に名前を尋ねてきた。


「夜分遅く、加えて美女の寝室を汚すなど不届き極まりないが、どうか許して頂きたい。僕はユーレアスという旅人だ」

「ユーレアス……そう、貴方がユイノアちゃんの言っていた人なのね」

「おや? 彼女から聞いていたのか」

「ええ。とっても楽しそうに話してくれたわ。ついさっきまで一緒にいたのよ?」


 なるほど。

 運よく鉢合わせなかったのか。

 我ながら自分の強運が恐ろしい。

 それと僕のことが伝わっているなら話が早い。

 手早く用件だけ済ませておこう。


「それで今夜は何の御用ですか?」

「おほんっ! 単刀直入に言わせてもらうと、貴女はもうじき死を迎える」


 ズバリ言い切った。

 君は死ぬと。


「そう……ですか」

「驚きだね。もっと動揺すると思っていたのに」


 彼女は冷静だった。

 まるで知っていたかのように、落ち着いて僕の言葉に耳を傾けていた。


「事実なのですね」

「うん、間違いないね。魂が揺らいでいる。その揺らぎは、肉体の終わりが近いことの前触れだからね」


 何度も見てきた。

 寿命で、病で、怪我で死んでいく人の魂を。

 それらと同じ揺らぎ方をしている。

 僕が彼女と会うことにしたのは、扉越しでもその揺らぎが感じ取れたからだ。


「言わなくていいのかい? ユイノアちゃんや王様に」


 僕がそう尋ねると、彼女は首を横に振った。


「まぁそうだね。言ったところで結末は変わらないし」

「どのくらいもちますか?」

「う~ん、何ともいえないな。数日から一月くらい?」


 個人差があるし、ハッキリはわからない。

 とは言え、あまり長くないのは事実だ。

 それを知って尚、彼女は動じない。


「本当にすごいね。貴方も、ユイノアちゃんも」

「ユイノアちゃん?」

「うん。彼女の魂はとても綺麗だ。あんなに綺麗な魂は久しぶりに見る。それこそ数百年ぶりだね」


 よく似ている。

 かつて僕たちと一緒に魔王と戦った英雄。

 僕らの光……勇者の魂と。


「その理由がわかったよ。貴女の魂も綺麗だから。きっと貴女のお陰だ」

「私の……ふふっ、だったら嬉しいですね」


 笑い方も似ている。

 やっぱり親子なのだと実感させられる。


「あの、一つだけお願いを聞いていただけませんか?」

「もちろんだとも! 元よりそのつもりで来た所もある。一つと言わず、二つくらいなら聞いてあげられるよ」

「いえ、一つだけ。私が死んだ後、娘と夫を守ってあげてください」


 死を迎える人の最後の願い。

 それは大抵、自分以外の誰かに向けられる想いだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時は過ぎ、場所も変わる。

 暗く淀んだ空気と、ボコボコに穴の開いた大地。

 立ち昇る土煙が晴れ、二人の姿が見える。


「はぁ……くそがっ!」

「中々頑張ったようだけど、そろそろ限界かな」


 ボロボロの悪魔と相対する僕は、傷一つなく余裕の表情を見せている。

 周りには共に戦った人の身体が転がっている。

 大丈夫、まだ死んでいるわけじゃない。

 ほとんどが気を失っているだけだ。


「なぜ俺が……こうまで……」

「うん。確かに君は強かったよ。そこら辺の悪魔とは違う。それでも魔王には遠く及んでいない」

「何だと? なぜそう言い切れる!」

「もちろん知っているからだよ。本物の魔王の恐ろしさと、それを超える存在をね」

「なっ……」


 驚き目を丸くする悪魔。

 僕は大鎌を構える。


「この武器はソウルイーターと言ってね? 魂を刈り取ることが出来る。冥王から貰ったとっても大事な鎌なんだよ」

「冥王……だと? 何なんだ……何者だ貴様ぁ!」


 僕は大鎌を振り下ろす。

 切り裂くのは肉体ではなく、そのうちに宿る魂のみ。


「それを知る必要はないよ」


 悪しき魂を刈り取り地獄へ送る。

 冥界の王と契約を交わした僕だけが、この世でただ一人その権限を持つ。

 

「さて、急いで戻ろうか」


 思った以上に時間が経ってしまった。

 おそらくもう、王妃様は亡くなっている頃だろう。

 ちゃんと冥界に魂が行けていれば良いけど……


「出来ることなら、僕がお見送りしてあげたかったな」


 そう呟きながら帰路につく。

 手柄はいらないし、転がっている人たちに譲ろう。

 約束を果たすため、僕は東の辺境へと向かう。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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