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『初めまして、寒月かんげつ・エッジワースです。よろしくお願いします』


 そう言った彼女の目には何か強い意志が宿っていた。齢16歳とは思えない凛とした雰囲気と大人びた雰囲気に、空真は思わず圧倒された。竜の調査に慣れているからか、体力があるからか。何故か空真より、寒月の方がこの任務に強い思い入れがあるように思われた。


(まあ警備隊出身なら、あの雰囲気も頷ける)


 ストラから少し東へ移動した地方都市ミラルディの竜統計調査局ミラルディ支部。空真は書類に『寒月』の名前を書いて、少し首を捻った。


「寒月って字これで合ってたっけ?」


 隣に居た寒月は書類を覗き込む。


「ええ、合ってますよ」

「よかった」


 空真は残りの『Edgeworth』を書き込む。


 時々地方都市には調査局の支部が存在し、そこに立ち寄って調査資料をまとめたり、支部に保存されている資料を整理するのも空真の仕事だった。


「なーんで大昔に使ってた『漢字』なんて使うんだろう。アルファベットでいいのに」

「昔話の通りですよ」



 むかしむかし、このメルカラナ皇国が世界を統一するよりもずっと昔、世界の人々が使う言葉や文字は1種類でした。ある時、仲の良かった世界の人々は力を合わせて、天にまで届く塔を建てようとしました。


 その塔を知って神は大層お怒りになられました。人ごときが天に手をかけようとは、なんと恐れ多く無礼な・・・・・・と。そして神は人々に複数の言語と文字を与えて分断しました。そうすることで二度と力を合わせないようにしたのです。


 それから言葉の通じない民族同士で世界は紛争に溢れ、秩序は乱されました。そうして混沌に陥った世界をもう一度統合したのは、メルカラナ皇国初代皇帝。世界は全て皇帝の名のもとに、再び世界には平和と安寧が訪れました。



「───しかし再び言葉を統一したことが神に悟られ、怒りに触れないよう、名前には漢字を使って複数の言語があるかのように見せるという風習が残ったと言われています」


 相変わらず博識だなぁ、と思いながら空真は肩を回した。


「そういやそんな話だったねそれ。でも普段使わない分大変だよ」

「私は漢字好きですけどね。漢字には一文字ずつ意味がある。空真さんは親に名前の由来を聞いたことがありますか?」

「確か、広く晴れ渡った青い空、そして嘘偽りのない真実、だったかな」

「綺麗な名前ですね」


 率直に褒められてしまい若干照れる。寒月はあまり恥ずかしげなく人を褒める。


「親父が考えたんだって。寒月は?」

「寒月というのは、冬の夜に見える冴え渡った月という意味です。冬に生まれたからですって。そのまんまですけどね」

「いいじゃん、それっぽい」

「そこは似合ってると言って下さい。にしても、その書類1枚に何時間かけるつもりですか」

「うっ・・・・・・」


 彼女は褒めるのも貶すのも率直だ。空真は仕事が出来るタイプではないので、書類仕事にもいちいち時間がかかってしまう。


「そ、そういえば、この街で竜の目撃証言があるらしい」


 空真は話題を逸らした。寒月もそれは分かっていたが、話の内容的に眉をひそめる。


「この辺りは生息分布に入っていないのに?」

「そう。もしかしたら新しい巣を作ったのかもしれない」

「へぇ・・・・・・竜が好みそうな地形じゃないんですけどね」

「ま、ミラルディに行けってことは、それを調べろってことなんだろうな」



 ***



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