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「では早速ですが、空真さんは仮眠して下さい。交代で見張りをしましょう」


 確かに2人揃って寝てしまうことは安全面で推奨出来ない。


「それなら君が先に仮眠を取れ」

「え?」

「少なくとも今日一番働いたのは君だ。だから君が先に休むべきだ」


 寒月は一瞬迷ったようだが、コクリと頷く。


「ではありがたく先に休ませて貰います」

「ああ。ただ悪いが俺は全く戦えないから、何かあったら遠慮なく起こす」


 空真の情けない言葉に寒月はおかしそうに小さく笑っていた。


「構いませんよ。遠慮なく起こして下さい、それが仕事ですから」


 それから3時間ほどして、空真が眠る番になった。実はあの襲って来た男達が起きないかヒヤヒヤしていたが、どうやら寒月は何か薬品を使ったようで、男達は一向に目を覚ます気配はない。どこでそんな知識や戦闘経験を積んだのか気になったが、それは仮眠してから聞くことにした。とりあえず夜中なので眠くて仕方がない。


 空真はぐっすりと寝てしまったが、朝が来る前に寒月が起こしてくれた。そして空真は夕暮れに戻って来た数と、早朝に出て行く数が一致するか確かめる為、竜を数える。やはりノーマルしか生息しておらず、数もぴったり一致して今回の調査は終了した。


 空真と寒月を板に乗せて引っ張って行き、警備隊に引渡す。わざわざ運んで来たのは竜の生息地が警備隊に知られないようにする為だ。信用するしないではなく、任務で知り得たことはなるべく外部に知られるわけにはいかない。


 下りとはいえ、荷物やら男達やらを運べば身体はボロボロだった。知らぬ間に時間は昼に差し掛かっており、空腹も辛い。手際良く寒月が馬車を捕まえたので、宿まで少し足が休めることになった。


「あー疲れた」

「今日は1日休みにして、宿でゆっくりしましょう。勿論別々の部屋で」


 念を押すように寒月は言う。


「分かってるよ。でもそんなに体裁を気にしても、俺と2人で任務って時点である程度風評被害はあると思うけど?」


 テントの時もそうだが、彼女の貞操観念が強い。にも関わらずこの仕事はそれと矛盾している。例えばこれが組織からの命令で動くならまだしも、寒月は自らの意思で調査局とコンサルタント契約をしている。その理由が分からなかった。


「既成事実みたいなことを言われるってことでしょう?分かってます。それでもこっちの方が()()と叔父が判断したんですよ」

「統括部長が?どういうこと?いや、そもそも寒月はどうしてこんな仕事しているんだ」

「そうですねぇ、この話は長くて疲れるので、疲れてない時にします」

「ふーん」


 言いたくないわけではなさそうだ。それに空真も本当に疲れていたのでまた今度で構わないと思った。しかし宿まで時間があるのでもう一つだけ質問した。


「じゃあどうやって調査局とコンサルタント契約出来るほどの実力を身に付けたんだよ」


 寒月は目をぱちくりさせる。


「それも言ってませんでしたっけ?私、前は警備隊に所属してたんですよ」

「え!?まだ16だろ?」

「15で入隊しました。記録上最年少入隊ですね」

「じゃあ1年で除隊したのか?」

「ええ。自主的に」

「もしかして、首席入隊で辞める時も引き留められた?」

「そうです。どうして分かるんですか?」


 空真は苦笑した。


「それだけの実力があるからだよ」


 彼女は空真のように補欠合格でもないし、組織のお荷物ではなかった。彼女の立ち振る舞いを見ればなんとなく察せられる。堂々として迷いが無い。積み重ねた経験と研鑽が空真とは天と地ほども違うのだ。


「でも最年少って言葉あんまり好きじゃないので。だから空真さんにも使ったことないでしょう?」


 そう言われて空真はギョッとした。


「え!それ知ってたのか!?」

「はい。あなたが補欠合格ってことも知ってます」

「うわァァァ!」


 空真は恥ずかしさで頭を抱えた。情報とはどこまで広がっているのだろうか。


「他にもありますよ、歳の離れた弟が大好きとか、月単位の残業時間部署内で累計1位とか」

「やめろぉ!傷口に塩を塗るな!ちょっと待て、なんで知ってんだよ、喋ったの誰だ!殺す!!」


 寒月はニッコリ笑った。しかし目は笑っていない。


「調べたんですよ。私の情報網舐めないで下さい」

「本当末恐ろしいよこの同僚やだよもう」

「じゃあこれ二度と言わない代わりに、私の経歴も口に出さないで下さいね。私も過去の経歴のことをとやかく言われるのは好きじゃないので」

「了解デス」


 完全に手網よわみを握られた空真は従う他なかった。まさか彼女の初めて見るニッコリ顔がこんな状況だとは思わなかったし、目は全然笑ってなくて寒気がした。


(マジかこの女・・・・・・)


 昨日の不安が戻って来た、気がした。


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