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それから寒月は襲って来た男達の身体を縛り、念入りに目隠しと耳栓をしていた。一応止血などもして、生かしておくらしい。集中していたようで、一通り作業を終えてからようやく調査を終えた空真に気付いたようだった。
「ひと段落ついたみたいですね、お疲れ様です」
「そっちこそお疲れ」
「いえ」
やはり彼女は淡々としていて、息一つ上がっていない。寒月は男達の持ち物を全て没収して放り出していた。そして転がされてる男達の近くには山積みの武器。空真は驚いて思わず心臓が跳ねた。
「コイツら、何なんだ?」
「あなたを調査局員と知って、あなたを狙った反社会的集団ですよ。簡単に言うと犯罪者です」
「調査局員を狙って?」
「多分昼間にあなたの逮捕劇を見ていた、露天商の仲間といったところですかね。ここまで付けてきたのかも。───あなたは竜が凶暴だからこの仕事が危険だと思っているようですが、本当に恐れるべきは人間なんです。竜を悪用して金儲けしようと、あなたの持つ生息地地図や書類、そしてあなた自身をも拉致して情報を吐かせるんです」
「な、なんだって!?」
大きな声で驚いてしまいハッとして口元を抑えた。けれども今度は怒られなかった。
「あなたは竜を調べる、私はあなたと調査局の情報を守る。その為に私は居る。だからどれだけ私を毛嫌いしても構いませんが、私を放って1人で行動することだけはやめて下さいね」
空真はギクリとして身体が硬直した。
「毛嫌いって・・・・・・」
「本当はこんな年端もいかない娘が案内役なんて頼りないって、思ってますよね」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「私がコネ使って調査局とコンサルタント契約してるのも気に入らないでしょう。顔に書いてます」
確かにそれは心の中で思っていた寒月に対する本音だった。
(返す言葉が見つからない)
どうやら彼女に嘘は通じない。あの、物事をよく観察する眼には空真のことなど全てお見通しなのだと気付く。
「別にコネを隠したりはしませんし、叔父の統括部長に無理言ってこの仕事を回してもらったのは事実です。だからあなたが何を考えようと自由ですし」
寒月はズバズバと思ったことを言ってくる。しかし空真にだって彼女に言いたいことがあった。
「・・・・・・でもそんな君だって、思ってることを全然話さないじゃないか」
「私が?」
(寒月が言うのはあくまで俺の考えてることであって、自分自身のことはずっと隠している)
「時々黙ってこっちを見て観察しては、君は何を考えてるのかさっぱり分からない」
「それはあなたもそうでしょう」
「え」
「黙って考え事してるのはあなただって同じです。私がたまたまあなたのことが分かるだけで、私もあなたも、自分からは己を話していない。・・・・・・ちゃんと仕事はこなします。だからそのことは気にしないで下さい」
「───いや、そうじゃない」
空真は納得出来ないことがあった。彼女は仕事をするということで一点履き違えてることがある。
「君がちゃんと仕事をこなせるのは知ってる。まさに今それを証明した。でもそうじゃない、俺達はこれから一緒に仕事をするんだ。それは君がさっき自分で言った言葉だろう?」
「ええ、それがなんです」
「仕事っていうのは業務をこなせばいいわけじゃない。ちゃんと仲間のことを理解して、自分のことも理解して貰う努力も要る。そうして助け合わなければならない。俺は今回の任務が不本意だったからそういう大切なことを失念してた。だから、ごめん」
「・・・・・・・・・・・・」
寒月はジッと空真の目を見ていた。
「俺はこれから思ったことは口にするようにする。だから君も遠慮せずに思ったことを口に出して欲しい。何を思ってどう考えたのか、話し合ってちゃんとお互いを理解しよう。それが一緒に仕事をする上で大切なことだと思う」