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竜統計調査局員と古の呪い  作者: 藤宮ゆず
4、一番の不幸
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 その後光弥の殺した竜を警備隊がしっかり回収したことを確認し、空真は後始末と報告書の作成を行う。報告書を作成するのに1週間もかかってしまったあたりで、本当に自分の仕事の出来なさを痛感していた。


 今回の報告書ではあの伝説的な存在である竜殺しの一族に触れ、更に竜への正当防衛まで証明しなければならなかった。いくら調査局員の目撃があったとはいえ、どう判断するかは課長もとい統括部長、そして竜統計調査局局長の判断に委ねられる。


 ひとまず書き終えた報告書を調査局直属の伝令に預け、空真は荷物を背負った。


「さあ、久しぶりの統計調査だぞ寒月!」


 カラ元気で声を振り絞る空真。そして寒月は露骨にやる気が無さそうだった。


「なんかこの作業って必要あるのかなって思い始めました」


 彼女がこう言うのも仕方が無い。何故ならこの辺り一帯の管理があまりにも杜撰ずさんなので、たかが空真ひとりの統計調査では労多くして功少なしなのだ。


「確かにそれは俺も思ってたけど、こうした小さな努力もいつかは功を奏するんだよ。まあ最近例外的な仕事が多過ぎたからこれが本業って忘れそうになるけど」

「捜査だったり竜の検死だったり。役人ってだけでなんでも仕事押し付けられて大変ですね」


 空真は肩をすくめる。


「全くだ。君の叔父さんの統括部長に仕事量減らすように言ってくれよ」

「空真さんの名義でならいいですよ」

「俺の名前にいくらの価値があるんだよ。寒月が統括部長の姪の寒月だから意味があるんだろ」

「この前までコネだのなんだの言ってたのに、本当に都合のいい手のひら返しです」

「人間は開き直るんだ」

「そこまできたら人生何も怖くなさそうですね」


 全くだな、と空真は笑う。寒月は褒めてませんと渋い顔をした。




 ***




 それから3日ほど経った。空真は地図を眺めながらバツ印を付けていく。これは生息しているとして記されていた所だが、そこには空の巣が並んでいた。しばらく戻って来た様子はない。


「既存の報告書とだいぶズレていますね。新しい巣も増えてる・・・・・・」

「本当に調査が杜撰ずさんだな。課長に人員増員要請を出さないと。ったく、こんな新人に文句言われるなんて情けない」

「本当ですね」

「そこは肯定するなって」


 それから2人はテントを畳んで下山する。3日も山にこもるとかなり疲れる。相変わらず空真は体力が無いが、寒月と同じ量の荷物は持てるようになった。


「多少の誤差ならともかく、これは異常だ。・・・・・・ちょっと思ってたんだが、もしかしてこれって桔花の体質のせいなんじゃないのかって」


 寒月は目を見張る。


「彼女を竜を引き寄せた為に、生息地も変わってきたと?」


 空真は頷いた。いくら地方の支部とはいえ、竜の統計調査は地方が主だ。皇都に竜は居ない。ここまで報告書とズレがあるのは、むしろ何か外部的な要因があったと考えるのが筋だ。


「もしそうなら桔花さんの処遇をどうにかしないと。空真さん、報告書には炎の目の一族を書いてないんですよね?」


 空真は唸った。相変わらず痛い所を突いてくる。


「書いてない」

「ちょっとした誤魔化しが、意外な所で響いてきましたね」


 空真は寒月が怒っているのかと思ったが、彼女はむしろ困った顔をしている。


「桔花さんの体質を書類上無にした現在、簡単に調査局の権限も使えない。四面楚歌です」

「んんんっ、なんでそんな痛い所容赦無く突くんだよ!!」

「私は単にツケが回ってきましたねって話をしてるだけです」


 確かに。空真は肩を落とす。


「そうなんだよな、世の中どうしてもプラマイゼロになるんだよな」


 ふと寒月はその言葉に目に憂いを滲ませる。


「・・・・・・呪いなんてものがどうして存在したんでしょうね。そんなものがなければ、きっと、あの人は自由な人生を送れたはずなのに」


 寒月は常に誰かの不幸を憂う癖がある。それは同情、哀れみ、そして、何か空真の知らない感情。

不意に崖の上での桔花の言葉が脳裏をよぎる。


『憎かった、私の人生めちゃくちゃにして、身体も傷だらけになって、もうまともに生きられない』


「彼女の人生が今マイナスなら、プラスになる日は来るのでしょうか?」


 寒月の言葉に、空真は首を捻ることしか出来ない。


「分からない。でも俺達は目の前の仕事を片付けなければならない」


 ただそれだけが今空真に出来ることであり、すでに桔花にやってやれることは空真と寒月にはもう無い。




 ***

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