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 その時、顔に動揺が走ったのは光弥ではなく桔花の方だった。動きからして彼女は竜殺しではないはずだが、動揺したのは確かに彼女で、その理由は分からない。

 光弥は空真に尋ねる。


「竜殺しを知っているのか?」

「調査局なので」

「なるほど。じゃあもしも、俺達は竜を殺してないと言ったら?」


 空真は光弥を見据えて静かに答えた。光弥のその顔からは何を考えているのか読めなかった。


「今のところ状況証拠だけは揃っています。それに調査局権限で『拘束』するのは平和的ではないと思ったから『聴取』と言わせて頂きました。もしも、という仮定の話をされるとややこしくなるので、素直に話して貰えると助かります」

「歳下に見えるが、お前が調査局員ということには変わりはないということか。ではありのまま話そう。俺達は竜を殺した。しかしそれは密猟という定義とは少し違う。何故なら俺達は竜に襲われて()()()()応戦した正当防衛だからだ」


 竜殺しの一族である光弥の理屈に、「うーん」と空真は唸った。ただ殺しているとは思っていなかったが、そんな話をされるとは思わなかったのだ。


「正当防衛、ですか。正直なところ竜を殺せるという前提が無いから、密猟と正当防衛の区別が難しいというのが現状です。というか前例が無い」


 殺すのは密猟する為。襲われて反撃するなんて状況はまずない。普通の人間は反撃が出来ないのだ。今までの資料からしても、竜殺しの一族が滅びているとされているだけあって、今回の話のような事例は聞いたことがない。


「でも俺達は竜のウロコも内臓も持っていない。つまり竜を殺して死体はそのまま捨て置いているということだ。それなら横から拾って再利用した人間が居ることになる。そいつらを摘発したら無実と証明出来るか?」


 しかし空真の依然として表情は固い。寒月は、チラッと空真のその冷や汗を見やる。


「前代未聞の案件ですか。空真さんの実力では荷が重いですね」

「知ってる、あえて言ってくれなくて結構。えっとじゃあ、まずあなた達の名前を知りたい。多分これから長い付き合いになりそうなんで・・・・・・」


 男の方は光弥・ウォード、21歳。女は桔花・マーフィー、17歳。そして空真は18歳で、寒月は16歳。妙に年齢が若い集団なので、はたから見てもイマイチ重要な話をしているように見えない。周りに人は居ないが。


「で、どうしてあなた達は竜に襲われるんだ。竜殺しの一族が竜に狙われるわけじゃないんだろ」


 ここまで素直に話してくれていたのに、何故かこの質問には二人はずっと黙っていた。見かねた寒月が代わりに口火を切る。


「もしかして桔花さんは、『呪われた一族』なんじゃないですか」

「何?どういうこと寒月」


 空真は寒月の方を向こうとして、桔花の顔色がさっき竜から逃げ切った時と同じくらい青ざめていることに気付き驚いた。自らの腕を握っている手も震えていた。それだけで何となく彼女の事情の重さを感じた。

 震える桔花に構わず寒月は空真に説明する。


「竜殺しの一族は、ある特殊な戦い方をしていました。それは人を囮にして竜を引き付け、自分達から敵意を逸らしている間に竜を殺すという戦い方です」

「敵意を逸らすってどうやって」

「呪ったんですよ、とある一族とその子孫全員。それは竜を引き付ける特殊な呪いで、火竜の討伐にも対応出来るように熱に耐性を持たせる。そしてその効果から、目に炎の光が当たると反応して目が赤く染まるんです。だから呪われた一族の別名は、『炎の目の一族』というんです」


 桔花は目を見開いて、寒月を何か鬼を見ているような恐怖した顔で呟く。


「あ、あなた・・・・・・どうしてその名を・・・・・・」

「私の父は竜の研究者なんです。竜だけでなく、竜と人との関わりも調べてきました。だからそうだと思っただけです。桔花さん、あなたは炎の目の一族ですね」


 光弥は一歩前に出て、桔花を背に隠すように立った。


「竜殺しの一族だけならまだしも、炎の目の一族を知る者は限られている。何故ならそれは一族間でのみ共有され、秘匿された事柄だからだ。お前の父親は竜の研究者と言ったが、単に調べた程度では出てこないはず。その話は一体()から聞いた?」


 光弥の鋭い視線に、寒月も負けじと見上げて睨み付ける。


「それは父に聞いて下さい」


 この二人絶対相性悪いなと思ったが口には出さなかった。


「睨み合わなくとも、調査局は情報を守る。だから寒月の情報源も言えないし、2人が竜殺しと炎の目であることは口外しない」


 すると桔花は少しだけホッとしていた。


「でも今までの話が本当なら、竜にまとわりつかれるってことだろう。ここ最近ミラルディで、どこから来たのか分からない竜が現れたり、この街で竜が大量死したのは、君が引き付けた竜を彼が殺したからか?」


 すると桔花が口を開く。


「一応そうなるわ。でも絶対に密猟じゃないのよ。仕方なかったことなの」

「なるほど・・・・・・」


 この先どう対処するか空真が考え込むと、ふと寒月が見計らって別の話を切り出した。


「桔花さん、賢竜について何かご存知ありませんか?」


 桔花は首を傾げた。


「賢竜?それっておとぎ話の?」

「はい。竜に関わるあなた方なら賢竜の情報を持っていないかと思って」


 桔花と光弥は目を合わせ、首を横に振った。


「いいえ、悪いけど知らないわ」

「俺もだ」

「でも賢竜が現れてから竜殺しの一族が消えたんです」

「そうなの?」

「正確には、存在が消え始めた、ですが」


 しかし二人には思い当たる節がなさそうだった。空真は寒月を制した。


「寒月、あくまでも俺達の仕事は竜に関連する事件の調査だ。賢竜じゃない」

「すみません・・・・・・」


 空真がそう言うと、寒月はそれ以上2人に聞くことはなかった。彼女の気持ちは分かるが、それは調査局の仕事ではない。酷ではあっても、今解決すべきことは親友の死ではないことは自覚してもらわなければならない。



 ***


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