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 次の日の朝、外の店で朝食のホットサンドを注文して待っている時、どこからか喧騒が響いてきた。


「なんか騒がしくないか」


 空真は見渡して声の出どころを探る。寒月はハッとして一点の方角を見つめた。


「関門の辺りですね」


 各街には街を囲う外壁と関門という門があり、朝から夕刻までは門は開いている。あまり問題の起こる時間帯ではないはずだが、確かに騒がしい。そして突如警報の鐘が鳴らされた。



「竜だー!竜が出たぞー!」


 響いた声に二人はホットサンドを受け取らずに門へ走った。



「きゃぁぁぁ!」「うわぁあ!」「まずいこっちへ来ている!」


 悲鳴と共に逃げ惑う人々の流れに逆らって門に向かうのは一苦労で、突然の混乱に馬車も動けず御者が苦悩していた。


 そして門から背を向けていた人々とは違い、空真と寒月はハッキリと竜の姿を捉えた。大きな翼を広げて門の上に降り立ち、鋭い視線と牙で街を眺めている。


「そんな、こんな大きな街に出るなんて!」


 寒月が驚くのも無理はない。何故なら竜が街に現れるのは、一年に一度あるかないかぐらいの頻度だからだ。それに今居るこの街は人口も多く、竜は人気の多い場所には現れない。


 よく見るとその竜は10メートルもの大きさで、普通種にしても特大サイズだった。ならばなおさら人には干渉しないはずなのだが。


「いやでも確かにここ数ヶ月目撃証言自体はあった。くそ、しくじった!やっぱり書類仕事より調査を優先させるべきだったのか!」


 しかしあんな大きさの竜ならもっと目撃証言があってもおかしくはない。目撃されたのは本当に遠目からで大きさも分からず、数も一匹の話だと聞いていた。だから空真も軽視してしまったのだ。


「確かに一匹だけどあれは反則だろ!」

「いえそれにしても、何か様子がおかしいです・・・・・・」


 寒月はじっと目を凝らした。竜は頭を左右に振って様々な地点に睨みをきかせる。


「あの竜、何かを探してる?」


 突如竜は翼をはためかせ、飛び立ったと思えばある二人組を追いかけ始めた。身長からして男と女、男は女の手を引いて竜から逃げていた。


「空真さん!」

「ああ追うぞ!」


 竜は空を飛び、二人を襲おうとしては地を駆けていた。


 空真は丁度放置された馬車を見つけ、勝手にそこから馬を拝借して手網を引っ張ったのだが、馬が竜を嫌がって逃げてしまった。


「クソっ、あの馬竜にビビったな!」

「捕食対象なんだから逃げるに決まってるじゃないですか!」

「こうなったら回り込むしかない!」

「左の道を行きましょう!」


 二人組を追いかける竜に空真はある疑問を抱かざるを得ない。


「どうしてあの二人は追われているんだ?」


 竜の巣を荒らしたのか、だとしてもこの付近に見つかっている巣は無い。見つかっている巣は遠く、そこからここまで追いかけるほど執念深いとしても、そもそもここに至るまで逃げられるのだろうか。


「おい、誰か竜にねられたぞ!」

「「!」」


 どこかで早くも犠牲者が出てしまった。先を走る寒月は振り返って、


「空真さん、私は竜を追います!あなたは先に怪我人の手当を!」

「分かった、深追いはするな!危険なら逃げろ!」

「はい!」


 声の方に空真が走ると、そこには大きな血溜まりが出来ていた。何人か留まって血を流す男に声をかけているがそれ見て空真は直感した。多分男はもう死んでいる。


 しかし竜に関する事故で死んだ場合は、すべからく竜統計調査局の管轄となる。なので普段は警備隊に任せる空真も、この時はそのまま倒れる男に駆け寄って身元を確認した。


「すみませんどいて下さい、竜統計調査局です!」


 うつ伏せに倒れた男をひっくり返し、その顔を見て空真は息を呑む。


「この人は・・・・・・!」




***


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