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 空真は目を見張った。何故なら冷静で現実主義の寒月という人間から、賢竜という言葉は最も遠くかけ離れた存在だと思ったからだ。


「賢竜って、空想の存在だろ」

「いいえ、賢竜は存在します」

「なっ・・・・・・」


 確固たる自信を持って断言した寒月にまた驚く。


「父は賢竜を見つけてから、竜の研究をやめてしまったんです」

賢竜については誰もが知っている。それはおとぎ話に出てくる有名な名前だからだ。



 むかしむかし、竜は獰猛で人を食べる恐ろしい獣で、人々にとって忌避すべき存在でした。


 しかしある時、言葉を理解出来る竜が現れました。言葉はその竜の獣としての本能から解き放ち、賢竜は理性と知、そして個の世界を手に入れさせました。


 そして賢竜に導かれた竜達はやがて人を襲わなくなりました。やがて賢竜と呼ばれたその竜は、獣と人智を超えた特別な存在となり、今もどこかでこの世界を見つめているのです。



「叡智をそなえた賢竜には願いを叶えられる力があると言われています」

「まさか・・・・・・。だって賢竜なんて調査局の資料にも伝説程度の言い伝えしか残っていない」

「何故居ないと言いきれますか?少し前の時代には呪いと魔術がはびこっていたのに。願いを叶えるなんて容易いはずです」


 確かにこの世には魔術という不思議な力が存在し、そして道具を使えば誰でも呪いを付与出来る。今はそれを扱える人間は少ないが、存在するのは事実だ。


「じゃあ君は賢竜を探す為に警備隊を辞めたのか」

「そうです。私には特殊部隊への推薦が決まっていましたが、梨沙の命に比べればそんなもの、なんの価値も無かった」


 やはり彼女は特殊部隊の訓練を受けていたのだ。空真は寒月の身体能力等の合点がいく。


「じゃあ君は、賢竜を探してどうしたいんだ?」

「───梨沙を生き返らせたい。それだけです」


 齢16の少女が何故こんな過酷な旅に同行するのか。空真は初めて理解した。彼女は梨沙の命を取り戻す為に戦っていたのだ。仕事や給料ではなく、勿論空真の安全の為でもない。彼女は探しても永遠に見つからない、すでに亡き者を探している。


「しかし私の父は賢竜を探すことを反対しました」

「そりゃ竜の生息地はどこも危険だ。普通種のノーマルはともかく、火竜は火山に、水竜は滝つぼに住む。だから俺も課長に同行を反対したんだ」

「あなたが反対したのは初耳ですが、父は竜がどこに住んでいようと関係無く私を連れて調査してました。そして何より父自身が賢竜の研究に熱心だった。───なのに突然やめてしまったんです。理由は教えてくれませんでした。だからあの父が研究をやめるなら、その理由は賢竜にしか無いと思うんです」


 しかし空真はどうしても腑に落ちない。この国は竜の全てを竜統計調査局で管理している。調査局が知らないことは少ない。勿論人間が携わる分完璧ではない、所詮は人の統計だからだ。未知の部分も多い。でも解明されたことも多く、竜は()という認識だ。人のように言葉を操り、特殊な力を持つことが出来るものか。


「賢竜を探すと言って旅をすると決めた私に、統括部長の叔父が心配してこの仕事を紹介してくれました。警備隊養成学校は卒業してましたし、竜にも詳しく、無理矢理ですが契約条件は合致しました。まあそれに女が一人で何かあるより、既成事実が生まれて何も無い方がマシだろうという考えらしいですが」


 前半はともかく後半の理論はなんなんだ。


「なーんかズレてるだろそれ。俺が君を襲ったらどうするんだよ」


 舐められていることの腹いせに冗談を言っただけのつもりだったが、次いで寒月の凍てつくような眼差しに震えた。


「へぇ、私にそんな度胸があるんですか?」

「アリマセン」

「まあ何かあったら相応の手段を取りますが」

「相応ってどんな!?」

「そういうよこしまな感情を抱いても私が対処出来そうかどうかも含めて人選したらしいです。ついでに女に手を出さなさそうな大人しそうに見えたのが良かったんですかね」

「勝手に草食系判定されてる。待てよ、じゃあ俺の実力不足の左遷ではなかったってことか!?」

「いえ、都合良く左遷する理由も見つかったと言ってました」

「聞きたくなかった!!」


 微かな希望は絶望で倍返しにされた。ここで判明したのは空真が上層部から能力も無く寒月にも負かされそうな丁度いい人材として扱われているという、多分寒月が居なければ知るはずも知る必要もない情報だけだった。

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