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それからまた数日経った。寒月には宿から支部までの護衛を頼みながら通りを行き来して、書類整理に追われる毎日。
時々本局からも仕事が来るので、相変わらず仕事の出来ない空真はヘトヘトになっていた。そしてその日は偶然定時で上がれたので明るい時刻に寒月と通りを歩いていると、小春がまた父親を探してるところを偶然見かけた。
すると彼女の近所の住人とおぼわしき中年の女性2人が噂しているのを耳にした。
「小春ちゃん可哀想にねぇ。あんなのが父親だなんて」
「でも結婚が決まったらしいわよ」
「うそっ、本当に?よかったわねぇ」
「でも父親があんなだから、嫁ぎ先の親に随分反対されたらしいわ」
「あらぁ、じゃあ旦那さんが頑張ったのね」
「でも小春ちゃんが居なくなったら、あの父親はどうなるのかしら」
「私らじゃ手に負えないわよ」
「ほんとよね。迷惑だわ」
空真は思わず拳を握り締める。女性2人は空真と寒月には気付かず家に帰って行った。
「空真さん」
「分かってるよ。単に怒りが湧いただけ。でもあの人達は、小春さんが困っているのに手も貸さない卑怯者だ」
「・・・・・・・・・・・・」
寒月は少し黙ってから、
「また助けるんですか?」
と尋ねてきた。
「あんなこと言われてるのに、見て見ぬふりは出来ない」
「今手伝っても、私達はいつかこの街を出ます。その時また1人で対応しないといけない。その方が不憫じゃありませんか」
「でも目の前で困っているのに放っておくのは薄情だ」
寒月はやや目を見張って、目を逸らす。
「・・・・・・そうですね」
そして2人で路地裏を探すと、やはり父親は泥酔して眠りこけていた。父親を担いで小春を見つけると、彼女は心底驚いた顔をした。
「あなた方は・・・・・・」
「たまたまです。すみません、今日もこの人の筋トレに付き合って下さい」
***
例のごとく紅茶を入れてもらって、ふと小春の指に銀色に光る指輪がはめられているのが見えて、空真はあることを思い出した。
「ご結婚されるんですね」
「ええ、1週間後に。婚約者とこの街を出ていきます」
その言葉があまりにも冷たくて、空真は驚いた。
「お父さんを置いて?」
するとより一層小春の言葉にトゲが増す。
「連れて行けるわけないじゃないですか。その様子だと、父の噂も聞いたんでしょう」
小春は忌々しそうに寝室のドアを眺める。
「恥ずかしい、みっともない。この人のせいで私の評判までガタ落ちだわ。正直、私が出て行ってから父がどうなろうと構いません。むしろ二度と顔を見ずに済んで清々する。・・・・・・でも、これ以上は母の名には泥を塗らないで欲しい。母の名誉を傷付けるくらいならいっそ、もう死んで欲しいくらい・・・・・・」
空真はその言葉に思わず立ち上がった。
「いくら酷いからって、父親にそんなこと言うものじゃないですよ」
すると小春は目を見開き、眉尻を上げて声を荒らげた。
「あなたに何が分かるんです。私達は普通の家族じゃない、何も知らないのに綺麗事言わないで下さい!!」
怒りと言うよりも悲痛な叫びに、空真は言葉が出てこなかった。彼女のような人間に出会ったことがない。この家のような環境を見たことがない。
そう、自分は何も知らないのだ。
すると寒月も立ち上がって、ぺこりと小さく頭を下げた。
「すみません、小春さん。空真さんの非礼は私がお詫びします。確かに部外者が容易に口に出すべきことじゃありませんでした。でもこの人は本当に悪気なく言ったんです。決して、あなたを否定したわけではなく、自分の価値観を示しただけということは分かってあげて下さい」
小春は自分を抱き締めるようにして下を向いていた。
「・・・・・・ええ、分かっています」
「ありがとうございます。婚約、おめでとうございます。幸せになって下さいね」
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