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家に着いて父親を寝室に運ぶと、小春が紅茶と茶請けのクッキーを出してくれた。カップからは湯気が立ち上り、紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。
「ありがとうございました。本当にお見苦しい所をお見せしてしまって。こんなものしか出せませんが」
「いえ、お構いなく。この人はただのお節介なので」
寒月はそう答えるとティーカップに口をつけた。
「なんで君が答えるんだよ。えっと、小春さんでしたっけ。お父さん飲み過ぎたんですか?」
すると寒月は呆れた顔で空真を眺めた。
「わざわざ聞くなんてあなた本当に野暮ですね」
「いいんです。多分お2人はこの辺の方じゃないんですね。なら知らないと思いますが、うちの父は近所じゃ酔いどれで有名なんです。昼間っから飲んだくれて、皆さんに迷惑をかけて・・・・・・すみません今日会ったばかりの方に」
「いえ、こちらこそ立ち入ってしまってすみません。本当は見られたくなかったから、最初に空真さんの申し出も断ったんですよね」
寒月の言葉に驚いた顔をした。
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・本当に、どうしようもない父なんです。前からお酒が好きで、母が死んでからはより一層酷い飲み方をするようになってしまって」
小春の話を聞きながら寒月は目を伏せがちにそっと呟く。
「ままならないですね」
そして彼女はそそくさにお茶を飲んで立ち上がった。
「空真さん、そろそろ仕事に戻らないと」
「寒月?」
訝しむ空真には有無も言わさず、
「お邪魔しました」
そう言って完全に作り切った笑顔でおいとましたのだ。
外に出て、寒月は空真が口を開く前に理由を話し始める。
「あんまり長居したらきっと、彼女の尊厳まで傷付けてしまう」
「どういうこと?」
「彼女は必死で父親に耐えていました。それに横槍を入れて彼女の努力を無駄にしてはいけない。もうこんなことしてはいけませんよ」
空真はムッとした。
「それは君が決めることじゃない。あれは俺の意思でしたことだ」
きっとまたあの状態の小春に出会っても、自分は手を貸すだろう思った。しかしだ。
「なんとか出来ないのかな」
知っていて何も出来ないというのはあまりにも不憫だ。ただあの父親に話が通じるようにも思えなかった。
「難しいですね。アルコールというのは時に人を狂わせる。そしてその周りの人間すらも」
今度の寒月は言葉を選ぶように言った気がした。それにしても先程から寒月の顔が浮かなかった。まるで彼女にも何か思い当たる節があるかのように、彼女らしくない言動と複雑そうな表情がずっと続いていた。
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