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警備隊を呼んできて連行させる寒月を見ながら、空真はある考えが脳裏をよぎる。
(サラッと聞き流したが、なんで入局試験の内容知ってるんだ?機密情報のはずなのに)
空真自身のことについても調べたと言っていたが、果たしてどうやって調べたのか。
手際の良さと持っている情報網、また扱う道具の特殊性。警備隊の養成学校の期間は1年。いくら最年少入隊したとはいえ養成学校を卒業しただけでここまでの技術を得られるとは考えられない。
(前から思ってたけど、寒月ってもしかして警備隊の中でも特殊部隊の養成訓練を受けてたんじゃ)
その結論に至ってからというもの、そうとしか考えられない。
「行きましょう」
寒月に誘われ、空真はまた宿へと歩き始めた。今その疑問を彼女にぶつけても、外では話づらいことかもしれないので、そっと心にしまっておくことにした。
2人はそのまま路地裏を歩いていると、誰かの痴話喧嘩が聞こえてきた。
「ん?」
細い通りを覗くと、男が1人道に座り込んでいて、彼の娘らしき人物が腕を引っ張っていた。
2人を見て寒月は眉をひそめる。
「酔っ払いですね」
どうやら娘は父親を家に帰らせようとしていたようで、父親は中々立ち上がらない。空真は足を踏み出そうとした時、寒月に腕を握られ止められた。
「どうして止めるんだよ」
「ああいうのは関わらないのが吉です」
「でもほっとけないだろ」
空真は腕を振り払って2人の元へ向かった。
「・・・・・・違いますって」
後ろで寒月が何か呟いたのが聞こえ、空真は軽く振り返ると何故か彼女は複雑そうな顔をしていた。
「お父さんっ!」
「おぉー小春」
「なんでこんな所で酔い潰れてんのよ!」
「酔ってねぇよぉ」
さっきからずっとこんな押し問答が続いている。小春は座り込んだ腕を引っ張りながら涙目になった。
「ねえほら、家帰るから立ってよ、お願いだから」
すると父は突然苛立って小春を押し返した。
「るっせぇ触んな!」
「きゃあ!」
地面に転がる、そう思ったが、誰かに抱き止められて転ばなかった。見ると自分より5つは若そうな少年だった。
「だ、大丈夫ですか」
飛んできた小春を空真は間一髪で支えることが出来た。美しい化粧を顔に施していた彼女は小春と呼ばれて、空真よりも歳上だった。小春は一瞬驚いた顔をして、次いでハッとしたように空真から離れた。
「すみません、父はすぐに連れて帰りますから!もう警備隊の方は帰って頂いて大丈夫です」
「え?」
彼女の言った意味が理解出来ずポカンとすると、彼女も自分の勘違いに気付いたようだった。
「え?あ・・・・・・警備隊の方じゃないんですね」
「お手伝いしましょうか?」
空真はそう申し出たが、小春は首を横に振る。
「いいえ、これ以上家の恥を晒すわけにはいきませんので。ほら、お父さん!早く立って!」
すると今度こそ父親は激昂して立ち上がった。
「触んなっつってだろうがぁっ!!」
その時父親が彼女に腕を振りかざしかけて、空真は思わず身を固くするが、
「───っ!?」
父親の背後に寒月が回って、例の薬品を嗅がせて気絶させる。いつ寒月がこちらに来たのかすら空真と小春は気付いていなかった。
「お、お父さん!?」
小春は目を見開いて驚くが、正直空真は寒月が来てくれて助かったと内心ホッとしていた。
「ただの眠り薬です。これで担ぎやすくなったと思いますよ、空真さん」
「え、俺?」
とぼけた声を出した空真を寒月はギロリと睨んだ。
「手出したからには最後までやり抜いて下さい」
仕方ない、と空真は倒れた父親を背に乗せておぶさった。50過ぎで少し肥満体型ののオジさんを担ぐのは容易ではなかったが、寒月が乗せるのを手伝ってくれた。父親からは酒気が漂い、空真は思わず顔をしかめる。
「そんな悪いです、これはうちの問題ですから!」
困った顔をした小春に、寒月は少し笑って、
「この人もたまには筋トレしないといけないので気にしないで下さい。さ、空真さん頑張って下さい」
そう言うと小春も黙った。
「クソっ、歳下のくせに指図するなよ」
「歳上のくせにそんな非力で恥ずかしくないんですか」
「恥ずかしいですスミマセン」
そういえばさっき彼女への言動を気を付けようと決めたばかりだったのに、思わず口が滑ってしまっていた。
「すみませんこの人体力無いので早目に家に案内して貰ってもよろしいですか?」
「あ、はい!」
そうして空真は小春の家まで父親を運んだ。家まではそう遠くなかったが、明日は筋肉痛が辛そうだ。




