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支部で報告書を提出し終え、外に出ると丁度日が傾いてきた頃だった。空真と寒月は支部から出て大きな通りを歩いていると、書類仕事で詰まっていた息を吐き出せた。
「この街の周辺調査はどうしますか?」
「一応目撃証言に共通性は無くて、この街の近くには竜の巣も見つかってないらしいから、まずしばらくは支部局で資料まとめが主な仕事かな。それで目撃証言が出たらその都度調べていく、と」
ふと空真はあることを思いついてニヤリと笑う。
「あれ、じゃあしばらく君にやることは無いかも?動かないなら案内は不要ってことなんだし」
「思ったことを言い合おうとは聞きましたが、失礼なことを言っていいと許した覚えはありませんよ。あ、そこ左に曲がって下さい」
寒月にグイッと腕を引かれて強引に曲がらされる。
「ん?宿は真っ直ぐじゃ」
「本当に仕事が無いか教えてあげますよ」
「おいどこに行った!」
「クソ、巻かれたか」
フードを被った男2人は辺りを見渡して、悔しさを滲ませる。
「うっ・・・・・・」
突如1人が妙な声を挙げて気絶した。
「なっ」
残った男は驚き、そして背後に気配を感じる。
「あなたはこの方より強いみたいですね」
「っ!」
振り返るとそこには不敵な笑みを浮かべる金髪の女が鞘に入ったままの剣を構えていた。
寒月は珍しく自分に対応した男と剣撃を交えていた。もとより気絶させるつもりなので、刀身を鞘に入れっぱなしだ。その分彼女は普段より動きが鈍るし、男は容赦なく剣を抜いて切り込んでくる。
今回は相手を捕縛しなければならないので殺してはならない。そしてほどほどに生きておいてもらわなければ困る。寒月の手からするっと剣が放される。剣は男の顔に直撃し「あ゛ァ!!」と顔面を抑えて倒れ込む。そして終いにはその手をどけさせ、薬品を染み込ませた布を男の口元に押さえつけた。
「しばらく眠ってて下さい」
数秒後男は完全に沈黙した。横から呑気に拍手が聞こえてくる。
「俺と仕事する時より笑顔でビックリしたよ」
ちなみに空真は渋い顔をしていた。付けられていたことに気付いておらず、『しばらくやること無い』発言に気まずくなったらしい。
「笑っていたつもりは無いんですが」
「無意識なのが怖い。てかサラッと薬品嗅がすの何、犯罪慣れ?」
「人聞き悪いです。単にこっちの方が早いだけです。それより空真さん、気付いてますか?」
「うん、君は敵に回したくないので二度とあんなこと言いません」
「それは素晴らしい心がけです。でも私が言いたいのは、あなたは最近狙われているということです」
空真は目を見張る。
「俺が?誰に?」
しかし寒月は肩をすくめる。
「さぁ」
「はい?」
残念ながら空真を狙うのが誰かは、寒月もよく分かっていなかった。
「勘です。最近付けられてるし、しかもローテーションまで組まれてる。組織的な犯行に思われます」
「それは俺が調査局員だからか?」
「それもありますし、あと空真さんが若いからちょっと揺すればなんでも話すとか思っているんじゃないですかね」
「舐められてる!?」
「ハッキリいえばそうです。でもこの人達は知らないんですね、あなたがどんな試練を潜り抜けて竜統計調査局に配属されたのか」
実は竜統計調査局に入局する前に特殊な試験が課される。だから空真の口の堅さは信用出来るのだが、事情を知らない人間からしたら揺するのに好都合な人物に見えるだろう。
「はぁ〜まったく迷惑な・・・・・・」
確かにこれは寒月からも迷惑だと思った。
「さ、とりあえずこのストーカーを捕まえて貰う為に警備隊を呼びましょうか」
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