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「うわーすっごい、竜のウロコってこんな高く売れるんだ」


 地方都市ストラの通りで、露天商の並べていた商品を見て空真くうまはそのデタラメな値段に感嘆した。それは皇都都市部の正規品の5倍の価格だった。


 竜のウロコは拳ほどの大きさで、薄い鋼のような材質に、太陽の光に当てると銀色の上に、薄らとエメラルドブルーの光沢が重なっている。そのウロコはネックレスのように加工されていた。とはいえ加工賃にしても高過ぎる値段だ。


「おっ、お兄さん興味ある?竜ウロコは値が張るんだ。竜は希少生物だからね」


 30代くらいの露天商の男がニヤリと笑う。

 しかし男は売ろうとする商売根性が邪魔して、物珍しそうに見ている少年が、買う、ではなく、売る、と言ったことに気付いていない。


「加工代込みだからこんな値段なのか?」

「いやいやほとんど原材料の価格だよ」


 あくまで竜のウロコに価値があると言いたいらしい。


「竜は人間が飼い馴らせるようになったのにこの値段?」

「それは観賞用の竜の話だろう。こうしてウロコを宝飾品に加工するには、それなりに苦労して手に入れなきゃならんのさ。まあつまるところ、ウロコを剥ぐわけだから殺さなきゃ取れない。しかし竜は希少性が高くて、殺傷は国が法律で厳しく管理してる。しかも見世物小屋の観賞用の竜は死体も竜統計調査局が回収するから、こんな風には出回らないよ」


 つまりは密猟というわけだ。空真はその言葉に頷いた。


「確かに竜にはそうそう出会えるもんじゃない。だから()()にこの値段が付いても需要はあるんだろうな」


 男はギクリとする。


「おいおい勘弁してくれよ、一体なんの冗談・・・・・・」


 空真は露天商の顔の前に身分証を差し出した。


「竜統計調査局だ。調査局権限でこの偽物は回収させて貰う。並びに詐欺罪で逮捕する」


 近くの見物客に紛れていた警備隊員が一斉に露天商を囲んだ。到底逃げられないと観念した露天商は、大人しくに確保され連行されて行ったのだった。



 ***



空真くうまさん、終わりましたか?」


ペンダント型の身分証をシャツの中に吊り下げ直し、待たせていた連れに振り向いた。


「ああ、お待たせ」


 そこには金髪ショートカットの少女が、薄い表情で佇んでいた。背は高くも低くもないが、空真よりは低い。顔立ちは整っているので多分笑ったら可愛いが、今のところ笑顔は見たことがない。


 実は空真が彼女について知ってることは今のところあまり無いので、本人には悪いが内面は見た目でしか判断出来ない。


「警備隊の人達は?」

「帰ったよ」


 警備隊は皇国で治安維持を司る組織だ。実は逮捕したのは空真ではなく正しくは彼らなのだが、一応場の流れで「逮捕する」と言ってしまった。


「まったく人使いの荒い連中だよ、竜のウロコが本物かどうか見極めろって言うから、忙しい中捜査に協力したのに。礼も言わず置いてかれたんだ」

「まあ彼らも自分の仕事をしたとしか思ってないんでしょう。あなたはそのプロセスの一部だっただけ」


 彼女の言葉には冷たさは無いが情も感じられない。ただ淡々と事実を述べるような話し方をするのが特徴的だった。


「俺にも仕事があるっての。初日からツイてないなぁ」


 今日は空真の地方回り任務の就任初日。だから目の前の少女とも実は会って三時間ほどの仲。さらにいえば、彼女に対しては正直良い印象とは言えない感情も少し持ち合わせていた。


「で、どんな代物しろもの売ってたんですか?」


 聞かれたので空真は押収品を彼女に見せる。


「これ。鋼で作った偽物。よく出来てるよな」


 目利きの彼女も微かに目を見張って、まじまじと押収品を眺めた。


「確かに。ただの露天商とは思えない出来ですね」

「それにしても随分な値段が上乗せされてた」

「竜関連は市場に出回ることが少ないからこそ、熱心なマニアが買い取ります。勿論マニアもバカではありませんが、これは本当に見慣れていないと分からないかと・・・・・・。しかし竜のウロコがここまで値がいくとは、勉強になります」


 その言葉に空真はギョッとした。


「えっ、真似するなよ?君ならこのくらい精密な偽物も作れそうだけど」


 ()()()に余計なことを教えてしまったと空真はやや後悔する。しかし彼女の口からはとんでもない言葉が繰り出される。


「詐欺なんてしませんよ。そんなにお金が欲しかったら調査局()()()()の叔父に仕事を回して貰いますから」


 サラリと強力なコネを露呈させる寒月。空真は思わず、


(うわ、いいな。これだから統括部長の姪って羨ましい。だからこんな歳下の女の子なのに仕事があるんだろうなぁ)


 と思ってしまった。


「・・・・・・・・・・・・」


 すると彼女はジッとこちらを眺めていた。


「え、何?」

「いえ別に」


 彼女はそっぽを向いてしまう。空真が寒月に良い印象を持てないのは、彼女が黙ってこちらを眺める癖があるからだ。何を考えているのか分からず、だからこそこちらの心を焦らせてくる。正直言って彼女は、


(やりづらい)


 その一言に尽きる。

 


 ***

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