弐拾漆:解キ放ツ
「司ちゃーん」
つーん。
「つ、司ちゃんってばっ」
「なんですか天塩さん」
「そ、そんなに冷たくしないで」
「そうしたのは貴女ですよね??」
「そうだけど――」
ここは私たち二人だけの保健室。だから誰かに聞かれる心配なんてしなくてもいい。だからお互い名前で呼ぼうと誰も聞いてない。だけど――
「てしおさ―」
「こ・ぞ・め」
「こ、こぞめ――」
「はい、よくできました」
は、恥ずかしい……
「というか、なんで私頭をなでられてるんですかね――」
ふるふると頭を振って天塩さんを振り払う。
「ほら、それだけ元気なんだから教室戻りますよ」
「やーだー」
またこれですか。さっきから何回目ですかこのやり取り。
「ダダこねないでくださいよ…いつまでもここに居るわけにはいかないんですよ?」
「そうだけどさぁ」
「そう思うならさっさと行きましょうよ」
と催促しても、根っこが生えたように椅子から動こうとしない天塩さん。
「何してるんです?置いてきますよ?」
「へぇ、いいの?」
何故かニヤニヤしてる。
「言いふらそうかなぁ?司ちゃんに襲われたって」
「な゛っ――」
そんなことされたら私はっ――
「ね?だからさ、もうちょっとここに居よ?」
い、いつの間にそんな小細工を覚えたんですか――でも、このまま天塩さんにやられっぱなしというのもなんだか性に合いませんね。――試してみましょうか。
「――ふぅん?天塩さんはそんなこと言っちゃうんですね? なら――本当に襲っちゃいましょうか」
ぎしり、と長椅子を軋ませて詰め寄ればすぐに降参するだろう――なんて目論んで顔を近づけてみるけども一向に顔色は変わらない。な、なら、そのまま押し倒して――いや、そんなことしたら頭が椅子から落ちて首を痛めそうだし――ええい、ままよっ。
肩を突いて長椅子に背を押し付けると、覆い被さるようにして天塩さんを見下ろす。
「どうです? 姉程では無いにしろ、私にだってこれぐらいは、できるんですからね?」
――ウソ。本当はこの後どうしていいかわかんなくて、頭の中がエラーでいっぱい。得意のポーカーフェイスですら貫き通す自信がない。けど悟られないように――
「司ちゃん、顔真っ赤だよ?」
ダメだしっかりバレてた。
「うるさいですね、まずはその口から封じてしまいましょうか」
そうして段々と顔を近づけて―――あと20余センチ残してギブアップ。
「―――あぁもう止めましょうこんなのっ!!」
やってられませんよこんなのっ!?
「あれ、もう終わり?」
「終わりですよこんなのっ」
あぁ、恥ずかしかった――。ここに奈落があったら今すぐ逃げこみたい――。
「わかった、分かりましたよ―――私の負けです。でも、ここに居るのはもうちょっとだけですよ?」
「えー?」
「えー、じゃないですよ。もうじき授業も終わりますし」
一緒に出ていくところは誰にも見られたくないですし、というか誰かに見られた時点で直に姉の耳へと入るでしょうし。
「じゃぁさ――それまで話してよ、さっきのこと」
「――そうですね、これは僕から話さないといけませんね」
中編になりました。




