弍ツ 部屋に戻ると
「た、ただいまぁ…………」
「あ、おかえりこーちゃん」
机に向かっていたコーちゃんーー神居古丹がヘッドホンを外して振り向く。
「コーちゃんもお疲れ。勉強? 」
「うん。でもこーちゃん帰ってきたし終わりにする」
シャーペンをノートにぽすんと投げだして大きく伸びをするコーちゃん。
「ごめんね、なんか邪魔しちゃって」
「ううん、いいのいいの。ちょうどキリのいいとこだったから」
外したヘッドホンからシャカシャカと流行りの曲が漏れて、すぐに次の曲に移り変わる。
「あれ、それ誰の曲? 」
「んーこれ? これはね、今売り出してるバンドの曲。ほら、天珠の新しいシャンプーの」
「あぁ」
そう言われればこんな感じのメロディだったような。
「あっそうだ、ねーねーこーちゃんこれ見て」
「ん? 」
コーちゃんが見せてきた画面の奥には、フリフリの黒いドレスに身を包んだ子が居て。
「これ可愛いと思わない? 最近見つけたイゼリアって子なんだけどさー」
「うーん、確かに可愛いと思うけど…………コーちゃん、また私にこういうの着せようとしてないよね? 」
「えー、なんでバレたの? それにこーちゃんが着たらけっこう可愛いし似合うと思うよ?」
「ヤダよそういうの、ちっちゃいからみんな可愛いってわけじゃないんだよ?」
「ちぇー」
そんな顔されても着ないものは着ないからね?
「あ、そだ。こーちゃん、ご飯とお風呂だったら先どっちがいい? 」
「うーんとねー、ごはんかな? 」
「りょーかい。っと、その前にこーちゃんも早く着替えちゃいなよ」
「あっ、そうだった」
学校終わってすぐ司ちゃんの部屋に誘われたから、制服のまんまだった。
下のベッドにもぐりこんで、ベッドの上に散らばった部屋着をひとつひとつ拾い集めて、一番下に転がってるハンガーを拾って上着をかける。…………朝遅刻しそうだったからってこんな散らかし方してたら、家だったら怒られちゃうだろうな。それに引きかえ、古丹ちゃんはけっこうズボラで脱いだ服も散らかしっぱなしが多い。この前なんか、上のベッドの手すりの隙間からブラジャーがヒラヒラしてて…………って、思い出しちゃった。
「着替えた? 」
「あ、うん、終わった」
ハンガーに一式かけて終わると、コーちゃんがかけた制服の隣に私も吊るす。やっぱりコーちゃんの制服の方がおっきいなぁ。同じ1年生なのに。
「なにしてんのこーちゃん? 」
「いや、コーちゃんの制服ってやっぱおっきいなって」
「ん? それはそうでしょ。だって、」
ずいっ。いや近寄んなくていいから。大きいのは分かってるから。
「こんなに差があるもん」
と、私の頭のてっぺんをなでなでする。
「くすぐったいからやめてよぉ」
「へへっ、やーめない。これが高身長の特権だからな〜」
「むぅ……何センチあるんだっけ……」
「174だったかな?」
「おっきい…………いいなぁコーちゃん。私もそれぐらいおっきくなりたい」
背も、お胸も。コーちゃんのはぷるぷるしてふもん。
「いい事ばっかしでもないよ? 寝てて起き上がると天井に頭ぶつけるし」
「だから私がベッドは上行くって言ったのに」
「下のベッドの方が余計狭いんだよ、その点こーちゃんはちっちゃいから大丈夫でしょ」
「むー! またちっちゃいって、」
「はいはい分かってるって、こーちゃんはそのうちもっと大きくなるよ」
「むぅ…………」
コーちゃんにしろ、泉見ちゃん達ーー司ちゃんと棗ちゃんにしろ、どうして身長の高い人たちはこうも意地悪なんだろう。
「こーちゃん、ご飯食べに行かないの?」
「今行くからっ」
あーもう、私ももっと大きくなりたいっ!!