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拾余漆:対価

「というわけなんですが、どうすればいいんでしょうか……」

「いやなんでボクに聴くかなぁそれ……」

 あれから一晩中、棗の行動についてずっと自分の塒で考えていたけども、結局答えは出なくて。

「貴女に聴いた理由は特にありません。強いて言うなら、ちょうど暇そうにしていたので」

「そういう理由で……」

 ボクだって年中ヒマなわけじゃないんだけどな、と軽く文句をこぼす塩瀬さんをまぁまぁとなだめすかして、

「して、なにか策はないでしょうか」

「そうは言われてもねぇ。ボクも君たち二人のことはあんまよく知らないしさ。第一さ、一番近しいはずの当人ですらわからない感情をどうして他人がわかると言うんだい?」

「まぁそれは確かに」

 と、なると手詰まりですね……どう考えても棗がなんであんな感情を差し向けたのかがわからない。

「でも司ちゃんにわざわざ時間をかけてカレーを作らせたってあたりに、なんかありそうな気もするけどね」

「ふむ……」

 時間を、手間をかけさせるのが目的……はて。棗はボクに普段から手間をかけさせっぱなしですし、今更手間を増やされたところでどうってことないんですけどね。それでも、

「棗の手間は少し減ってくれると助かるんですがね。部屋の片づけとか食事の用意とか……あとは食べたゴミの片づけと洗濯物の仕分けとか」

「……あれ、なんだろう、今ちょっとボクが責められてるような気がしたぞ?」

「?」

 はて、どうして塩瀬さんが胸を押さえてるのでしょうか。

「それは置いとくとして……相手の手間を増やすってのは、それだけ相手に自分を注目させたいってのもあるんじゃないかな」

「どういうことです?」

「ほら、『手がかかるけどかわいい』ってのあるじゃない?もしかしたら棗ちゃんは……司ちゃんに自分のことを見てほしいのかもね」

 自分のことをって……私は棗を無視した覚えは無いんですが……

「司ちゃん、いまいち腑に落ちてない感じかな?」

「ええ、別に私は棗を無視したりした覚えは無いですし……ちょっとウザったいなとは思ったことありますけども」

「……そうか、司ちゃんって意外と鈍感なのか、それとも当たり前しか知らないのか……」

「え?」

「司ちゃんはさぁ、横に棗ちゃんがいるのが当たり前って思ってないかな?」

「え、えっと……」

 ハッとして急に視界がクリアになる。それだけで塩瀬さんが何を言いたいのか、ボクにも分かった。

「ボクは……その『あたりまえじゃないこと』にいつの間にか慣れてたんですかね」

「かもね、こういうのって失わないと気づかないものだし。……ボクだって……いや、なんでもない」

 塩瀬さんがふと遠くを見つめ、スカートの上で握りしめた手を微かに震わせる。

「……それに、迷惑とか手間をかけさせることで相手を自分に依存させたり、その逆で自分が依存したりして心の安定を図る人も居るんだ。もしかしたら……司ちゃんのことを、縛っときたいのかな、棗ちゃんは」

「それは嫌ですね」

 即座に切り返す。確かにぼくたちは一心同体とはいえ、ずっと棗と不可分なまま生きてくのは……いや、ボクが「司」じゃなくなることだけは、絶対に嫌。ボクは棗の代役じゃない、「司」という名前がちゃんとあるんだ。

「……ともかく、棗にその辺のことを問いただしてみようと思います。このままでは埒も明かないですし、何より僕自身このままでは居心地が悪いので」

 さて、棗をどう攻めるか…とプランを立てようと顔を上げれば、

「おっと司ちゃん、ボクがタダで話を聞くと思う?」

「対価を、ってことですか」

 なかなか強かですね、まぁ確かに何かを無償でしてもらうことほどうまい話は無いですが……

「分かりました、それではいつが空いてますか?あと料金はいくらですかね」

「えっと、次の日曜が……って、なんで司ちゃんボクの行きたいところ知ってるのさ!?」

「……塩瀬さん、机の上にチラシ出しといてその反応はどうかと思いますが」

 教科書とノートで隠されてはいるけど、そこには紅茶尽くしカフェの開店チラシが置かれていて。

「大方、迷子になりそうだから道案内が欲しかったんでしょう?ほんとに方向音痴なんですね」

「うっさいなぁ…」

 微かに頬を染めてそっぽを向く塩瀬さん。ボクはやられっぱなしで終わるのは嫌なのです。



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