拾余参:彷徨ヒ
さて、ホームルームも終わりましたね。
ボクは机に軽く突っ伏して大きく伸びをする。
…………え? 体育はどうしたのかって? それはそれ、司は何も語りませんよ。塩瀬さんにお聞きください、彼女も話さないとは思いますがね。
「司ちゃん、この後どうする? 」
みんな各々散っていく中、塩瀬さんが今度はボクの席に来る。
「そうですね…………やはり活動を見せてもらえますか? 」
「あ、ほんとに来るんだ」
一瞬、呆気に取られた顔を浮かべる塩瀬さん。
「…………なんでそんなに意外そうな顔をするのです? 」
「いや、なんか司ちゃんは撮る方より撮られる方っぽいからさ」
「失礼ですねぇ…………」
確かに生まれてこの方、人に撮られてばかりなのは否定できませんが…………
「私はついて回るだけですよ。ちょうど次回の台本に行き詰まっていましてね、何か新しいアイデアが見つけられないかと思いまして」
「ふぅん」
まぁいいけど、とさらっと答えた塩瀬さん。
「でも司ちゃん大丈夫? ボク写真撮り始めると周り見ないし地面に寝そべったりし始めるよ? 」
「…………ぼくもやるとは言ってませんよ? 」
そんなばっちぃことはごめん願いたい。けどもーー彼女と同じ視線になってみたら、また違う世界が見れそうですね。そうすれば何か解決策が見つかるかもしれません。
ーー棗のことも、彼女のことも。
「ところで塩瀬さん、ひとつ……いや、色々と聞きたいことはあるのだけど」
「だいたい予想は付くけど……なにかな? 」
「その1、写真を撮りに中庭に出たのになんでボク達はニアマートに居るんですかね」
「…………なんとなく? 」
こてんっと首を傾げる塩瀬さん。その手には早速パンが握られていて。
「その2、どうせお腹空かすなら、お昼をサラダ以外のものにするという選択肢は無いのですかね」
「ちょうど来たからいいかなって」
「その3……多分これが一番の謎なのですが…………彼女はなにをしてるのですか? 」
「あー…………」
その視線の先には、さっきから猫缶と睨めっこする子の姿が。というかこのニアマートなんでこんなに猫関連のものが多いんですかね。
「猫山さん、まだ悩んでるの? 」
「むむむー…………どっちだろう、どっちがいいんだろう」
「どっちも同じじゃないの?」
「違うよっ、こっちは量が入っててみんな好きだけど、こっちはこだわりの材料でプレミアムなの。うーん、山田さんの好みはどっちだろう? 」
「山田さん? 」
「星花の中庭のボス猫。猫山さんのお気に入りの被写体なんだ」
僕の呟きにすぐさま塩瀬さんがフォローを入れる。
「気合いはいってるねぇ猫山さん」
「うんっ、今度こそ山田さんの最高傑作を撮るんだっ」
凄いですね…………ひとつのことに打ち込む情熱、と言うんでしょうか。私達にとっての演技、のようなものですかね。
「あーなっちゃうと猫山さんは止まらないからね……ほっといてボクたちだけで行こうか」
「ですね」
じっと戸棚と睨めっこする子を置いてニアマートを出ると、さっそくパンの封を切ってかじろうとする塩瀬さん。
「あ、半分食べる? 」
「結構です」
やんわりと断ってそのまま歩き出す。塩瀬さんはパンをかじりながらうろうろと歩き出して、それを追いかけて歩いていく。…………へぇ、こんな所があるのですね。
「ところで塩瀬さん」
「んー? 」
「どこに向かってるのですか? あとここはどこですかね」
「んーと…………学校の敷地かな。…………多分」
「多分って…………」
「あはは……」
ボクは自分の中のノートの塩瀬さんの欄に【方向音痴】と密かに書き加えた…………。




