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王国の追放貴族、帝国で闇黒騎士になる。  作者: チアキ
1.王国の闇と帝国の光
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8.巨大角兎

 バリバリと咀嚼しながらこちらをジッと見つめる大角兎。


 「来いグール。『サモンウェポン:グール』」


 私の数メートル先に骨の長槍と共にグールが5体現れる。

 すぐさま専用アビリティを発動させる。


 「『サモン:スケルトン』」


 そして今残っている魔力の半分を使い、通常スケルトン達を呼べるだけ呼び出す。

 それに紛れ込ませるようアサシンスケルトンを召喚する。


 3体のアサシンスケルトンにも『サモンウェポン』の武器を持たせる。


 呼び出せたスケルトンは11体。

 あとサモン5回分の魔力しか残ってない。

 頭がクラクラするし、少し目眩もする。


 それでも絶対に巨大角兎からは目を離さない。


 「グール、突撃しろ!」

 オオ、オオオオオ・・・!


 低い唸り声を上げながら猛スピードで巨大角兎に槍を向け突き進む5体のグール。


 巨大角兎の耳がピクリと動いた。


 次の瞬間、私の目の前に立ったその額の角に1体のグールが突き刺さっていた。

 目と鼻の先にいる巨大角兎のすぐ後ろには、胴体を引き裂かれた2体のグール。


 残った2体は、巨大角兎の高速移動の余波だけで吹き飛ばされ、半身が地面にめり込んでいた。


 私の周りにいたスケルトンは勿論粉々だ。

 何体かは無事だが、まともに動くことすらできていない。


 改めて目の前に佇む巨大角兎に視線を移す。


 巨大角兎は頭を軽く振り、角に刺さったグールをはるか遠くまで投げ捨てる。


 ゆっくり、のそのそと立ち上がる巨大角兎は、まだ血が滴り落ちる口を大きく開いた。

 後ずさりそうになるのを必死に堪え、歯を食いしばる。


 立ち上がると3メートルはある巨大角兎は、私の倍近くの大きさだ。


 バゴンッ!


 巨大角兎の両前足が振り下ろされた。

 私の両腕を凶悪な爪が掠め、皮膚が裂ける。

 地面を砕いた巨大角兎の顔が目の前に迫る。


 ジワジワと、恐怖で歪んだ私の顔を覗き込むように鼻先を近づける。


 今ピクリとでも動けば私は食い殺されるだろう。

 だから決して動かない。

 動かずに出来ることをやるだけだ。


 私が動けないのを見て、巨大角兎がニタァと笑う。


 ついに食われるという瞬間、私はその開かれた口の中に『霊を憑依させた片手剣』を呼び出した。


 「ピキッ、ピキャァァァアアアアア! ピギッ、ギッ、ッ・・・!」


 柔らかい口内を蹂躙するスケルトンウェポン。

 さらに、周囲に散らばった骨から飛び出すアサシンスケルトンの攻撃。


 切れ味抜群の短剣が投げられ喉元に幾つも突き刺さり、3体のアサシンスケルトンはそれらを掴み飛びついた勢いで、連続で喉を掻き切る。


 スケルトンウェポンの片手剣ではあの毛皮を突破することは出来ないと思った。

 だからこその奇襲だ。


 血を撒き散らし息絶えた巨大角兎。

 レベルが上がったのと、天啓が降りいくつかスキル等を得たことが分かったが、それは後回しにする。


 巨大角兎が現れた時、咄嗟に思いついたほとんど賭けの作戦。

 自分自身を餌にし、スケルトンたちを砕かれる前提で呼び出した。

 まさか真っ先に突っ込んでくるとは思っていなかったが。


 専用アビリティを発動させたグール達が一瞬で殺られたのも想定外だった。

 足止めさせている間に、アサシンスケルトンをもう少し離れさせるつもりだったのに、スケルトン達が壊滅した時は正直かなーり焦った。

 本当に焦った。


 「何はともあれ、生きれてよかった。」


 いやもうホントに。


 やっぱり騎士だとか以前に強くないと。

 出来れば自分一人でレベリングができるくらいに。


 「アアア、アウアア。」


 余波だけで吹き飛ばされてしまったグールが戻ってきた。

 しょぼんとしているように見えるのは気の所為だろうか。


 「気にするな、あれは仕方ない。次は頼んだぞ。」


 自己満足でそういったつもりだったが、顔を上げたグール達はなんか嬉しそうだった。


 生き残ったアンデッド達を戻し、今度こそ地下拠点へ帰る。


 「すいません、遅くなりました。」


 「いやいや、ホントにあのチャージホーンを倒したんです。事実です。」

 「さすがに嘘だね。あれはレベル50位ないと逆に狩られるよ。」

 「その通りだ。いくら私が見込んだとはいえ、まだ無理だろう。お、少年、帰ったか。」


 何やら話をしていたようだ。

 チャージホーンという名前に聞き覚えは無いので、私とは関係の無い話だろう。


 「今日狩った獲物です。3号さん、どうぞ。」

 「ああ、ついておいで。」


 いつも集まっている部屋の向かい側にある2つの扉。その左側が3号さん、右側が2号さんの仕事部屋だ。

 2号さんの部屋には知らない方が幸せな情報が腐るほどあるそうなので決して入らないようにしている。


 「さて、君のお手並み拝見と行こうか。私はまだ君がどれだけ強いのか具体的には知らないからね。」

 「ええ。こんな感じです。」


 魔法袋から狩ってきた角兎を次々と取り出す。

 3号さんの部屋の真ん中にある大きな作業台なら、巨大角兎も含めて全部乗るだろう。多分。


 「へーなかなか狩ってきたんだねぇ。」

 「ちょっと無理しすぎてるんじゃない?」

 「・・・まだあるのかい?」

 「・・・・・・ナニコレ。」


 角兎を積み上げていくにつれて、3号さんの反応が変わっていくのが面白かった。

 巨大角兎を出した時には片言になるほどだ。


 「コイツはホントに怖かったです。死ぬかと思いました。」

 「いや思いました、じゃなくてね? 普通は死ぬからね? 死んじゃう、って思った次の瞬間には普通死んでるからね?」

 「そうなんですか。」


 やっぱりコイツ強かったのか。

 まあ、仲間を殺されまくって、私をジワジワ恐怖で染めようとしていたからだろう。

 そのおかげで生き残れた。

 運が良かっただけだな。


 今後はもっと魔力に余裕を持った状態を維持しておこう。

 また今日みたいなことが起こったらホントに死んじゃう。


 「ただのホーンラビットもかなりの数だし、亜種や上位種、キングまでいるじゃないか。ホントよく死なずに帰ってこれたね。」


 3号さんが呆れながらそう言う。


 「ちなみに。この1番でかいヤツなんて言うんですか?」

 「それはチャージホーン・ラビットキング。ホーンラビットのキングだよ。」


 キング?

 一体どういう意味なのだろうか。


 「キングっていうのは、通常種に比べて体が大きいんだ。倒すとその個体の特徴に応じたスキルが得られるんだけど、強いしスキルが微妙すぎて普通誰も手を出さない。割に合わないんだよね。」


 まあ確かに。

 そのスキルが自分に合っているかも分からない上に、命懸けで戦った報酬がスキルなのは不釣り合いだ。

 普通に努力して新しいスキルを得た方が効率的だ。


 私は得られなかったが。


 「それで、どんなスキルを得たんだい?」

 「まだ確認してませんでしたね。」


 頭に新しいスキルを思い浮かべる。


 《突撃無双》

  :『ストレートチャージ』『ターンチャージ』『衝撃耐性(中)』


 あー、巨大角兎らしい感じだな。

 『ストレートチャージ』は、あの鳥に食らいついたり、私の目の前に現れた時のだろうか。

 『ターンチャージ』はあんまり分からないな。

 『衝撃耐性(中)』は、文字通りだろう。


 何に使えるんだろうか。

 また明日検証してみるとするか。


 「あ、アルキリア君。来週には依頼されてたもの、完成するから楽しみにしててね。チャージホーンの素材も存分に使わせてもらうよ。」

 「ええ、楽しみにしてます。」


 3号さんの部屋を出ると、扉の前で聞き耳を立てる2号さんとタイタニスさんがいた。

 苦々しい表情のタイタニスさんと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる2号さん。


 ああ、さっき言っていたチャージホーンは私が倒した巨大角兎のことだったのか。

 あれ、そしたら2号さんは私を監視していたのか?

 だったら助けてくれたって良かったのに。


 「ほらどうですか。私は嘘つきません。そんなだから行き遅r「ドルァ!」オ゛ブッ・・・。」


 また余計なことを言いかけて痛い目を見る2号さんを白い目で見ながら、割り当てられた自分の部屋へ向かう。

 昨日第1部隊長になれ、という話を聞かされたあと、空いていた部屋を1つ、自由に使っていいと言われた。


 とりあえず程々に広さの部屋にベッドを用意してもらい、そこで昨晩夜を過ごした。


 1つのベッドしかないガランとした部屋に入り、柔らかい毛布の上に体を投げ出す。

 レベルが37に上がっているのを確認し、他にもアビリティとか増えてないかを確認しようとしたのだが、知らぬ間に睡魔に負けてしまっていた。


 その夜、口が裂けて舌が異様に長い兎の集団に追いかけ回される悪夢を見た。

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