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王国の追放貴族、帝国で闇黒騎士になる。  作者: チアキ
1.王国の闇と帝国の光
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5.帝国《一》

 「ただいま帰還致しました。」

 「・・・・・・例の少年は?」


 森の端にある木の根元に隠されたをくぐり、地下へと降りていった先に待ち構える長身の女性が1人。

 後ろで一つにまとめられた飲み込まれそうな程黒い髪。銀の瞳はその三白眼と相まって射殺されそうな視線をかもし出していた。


 「はっ。先程『3番』に預けました。」

 「3番ならいいか。ああ、少年について報告を。」

 「はっ。先日・・・・・・・・・・・・・。」


 奥へと向かい、報告を聞きながら幾つもある扉の1つを開き中に進む。

 書類が積まれた机と椅子だけがある部屋だ。

 報告を聞く黒髪銀眼の女は、だんだんと眉間のシワを深くしていった。


 「・・・なんだ、つまり。アラクネの亜種を生き埋めにし、スケルトンとその亜種を自由に召喚して、更には大地を操れると? 頼むから見間違いだと言ってくれないか?」

 「報告は全て事実です。現実を見てください。」


 機械のように淡々と報告を終える軽装の女。

 地下にあるこの場所は、帝国と王国に隣接する魔境の1つに数えられる『冥府の入口』の端に位置する。


 魔境とは、最低でもD級以上の魔物、モンスターが蔓延り、A級以上の魔物、モンスターが確認されている地を指す。


 『冥府の入口』は、かつて貴族の自殺志願者が入り、それがきっかけで自殺の名所となった。

 魔境の条件を満たしていることが判明し、自殺者が多数確認されることからこの名がついた。


 「失礼、お話中だったかい?」

 「いや、大丈夫だ。3号、何かあったか?」


 扉を開き入ってきたのは、白衣を着たスキンヘッドの糸目の若い男。

 毛の無い頭を掻きながら難しい顔をする。


 「あの少年の持ち物を調べたんだがね、魔法袋を持っていたよ。中からは、悪意しか感じないデタラメまみれの(・・・・・・・・)本の数々と、魔香入りの水、外見だけマトモな粗悪品の剣、偽の地図。あと、信じられないほど頑丈な骨製の武具がいくつか。」


 一息つく3号と呼ばれたスキンヘッド。


 「悪意を感じるものは今調べてもらってるよ。それ以外の、少年自身の物っぽいのは魔法袋に戻しておいた。正直、個人的にあの武具は調べたくて堪らないが、勝手に調べるのはやめといたよ。」

 「片手剣はどうでしたか?」


 3番は首を横に振り、呆れたように軽装の女に答える。


 「宙に浮く片手剣だったっけ? あれはただの頑丈な質のいい骨剣だよ。何の骨を使ってるのかは非常に、ひっじょーに興味あるけどね。」

 「魔香入りの水と言ったな。つまり、あの少年はそんなものをあんなところで飲みながら奥に進んでいたということか?」


 眉間のシワをこれ以上ないくらい深くし、頭を抑える黒髪銀眼の女。


 「そうなるね。」


 軽く答えるスキンヘッド。


 「あの剣が飛んでいるところを私はハッキリとみました。もう一度調べてください。」


 ムッとした顔の軽装の女。


 「・・・あの、ここは何処ですか?」


 一部始終を見ていた私。


 「「「ん?」」」


 今の私にとって、この3人が誰なのかより、途中から聞いていた話の内容より、空腹をどうにかすることの方が重要だった。


   〜 〜 〜


 目の前に並ぶ保存食を片っ端から胃袋にかき込んでいく。


 お世辞にも美味いとは言えないものだが、スープ、パン、肉、サラダという、ちゃんとした食事が私の心と胃袋を満たした。

 あらかた胃に収めたところで、こちらをじっと眺める3人の視線に気がついた。


 「あ、ありがとうございます。食料を分けてもらって。」

 「いや、構わない。(・・・こちらのせいでもあるしな)」


 ここは地下のはずだが、まるで普通の室内のような内装をしている。

 壁も床も天井も、窓がないこと以外は普通の家だ。


 横にいる黒い革の軽装の女性をチラ見する黒髪銀眼の女性。

 軽装の彼女は至って普通だった。髪、瞳、顔立ち、スタイルの全てが普通としか言いようのない、逆に珍しいと感じる人だった。

 黒髪銀眼の女性は、父が着ていた服から可能な限り無駄をなくしたような、軍隊の長官を連想する黒の服を着ていた。

 見た目はまあ、すごい美人。

 とてもスマートなシュッとしたスタイルで、キツそうなイメージを抱いてしまう。


 そんな2人を1歩下がったところから微笑を携えて眺めているスキンヘッドの若い男。

 白衣を着て、時折チラチラと私の方を見ている。


 何がしたいのだろうか。


 「さて、一応聞いておこう。どこまで聞いていた?」

 「片手剣の話あたりからです。」


 ガチャガチャという音と空腹で目覚めた時、白衣のハゲ頭が扉から出ていくのが見えた。

 数日ぶりの自分以外の人に思わずついて行ってしまった。


 「剣は飛んでいましたよね?」


 軽装の女性が同意を求めてくるが、他の2人は信じていないようだったので、首を横に振って否定する。


 「この少年は嘘つきです。」


 拗ねた表情で部屋を出る軽装の人。

 それを見送った私たちだが、すぐに話をふってきた。


 「先に言っておくが、ここは帝国の領土の端だ。」


 突然の言葉に頭が真っ白になった。


 ここが帝国?

 たしか野蛮人の集まりだとか異端者だらけの異常な国だったはず。


 「君が王国から来ている者だということは分かってるんだ。王国の密偵に軽く調べてもらったんだが、君はミルバ家の4男だね? しかも数日前に追放された。」

 「な、なんでそのことを?」


 真っ白になった頭ではろくな思考もできない。

 ぼんやりとした頭に入ってくる言葉に生返事をした。


 「君の持ち物を調べさせてもらった。この魔法袋の中身を君に渡したのは君の両親だと聞いているが、君を殺す気満々のようだぞ。」

 「そんなわけない・・・!」


 思わず声を荒らげる。

 私の様子に哀れみの目を向ける2人。

 それがどうしようもないほど癪に触った。


 「ならどうして君はこの帝国にたどり着いたと思う? 君がいた領土は、『冥府の入口』と隣接しているの知っているだろう。その反対側に至って普通の森があることも。」


 だからどうしたというのだ。

 確かにミルバ領は2つの森に挟まれている。

 『冥府の入口』のことはミルバ領に住むものならみんな知っている。稀ではあるが魔物などが森から出てくることもあった。


 「君が持っていた地図は偽物だ。他にもあらゆる生物を興奮させ引き寄せる魔香入りの水もだ。本も殺意を感じるほどデタラメだ。」

 「そんなわけが、ないって言ってるだろう!!」


 まるで両親が私を殺そうとしているかのような言い草に怒りが沸いた。

 そして、その怒りに反応するかのように、スケルトンウェポンが木の扉を突き破ってきた。

 それは黒髪の女性に真っ直ぐ飛んで行った。


 「こら、危ないだろう。しかし、本当に飛んだな。」

 「まさか、2号の言っていたことが本当だとは。後で謝らないといけませんね」


 キャッチボールをするように軽く片手剣を手で受け止める黒髪銀眼の女性。

 穴の空いた扉をバーン! と開きながら意気揚々と軽装の女性が入ってきた。


 「ほら見たでしょう! その剣は飛ぶんです!」


 胸を張って堂々と言い放つのをなんとも言えない顔で見つめる2人。


 「信じなくて悪かったな。」

 「ごめんね。」


 腰に手を当て仁王立ちしていた軽装の女性に突撃する。

 本当にここが帝国なわけが無い。それを確認するには外に出るしか無かった。


 「おっと。」


 ひらりと躱され体勢を崩すが、構わず走る。

 扉を無視し、階段をかけ登り地上へ飛び出す。


 「嘘だ。嘘だ嘘だ。」


 ここから王国と帝国を見分けるのは簡単だった。

 帝国の空に空中城塞があることは世界的に有名だ。


 帝国の領土は王国ほど広くはない。

 その上、帝国の首都は『冥府の入口』に近いので、ここが本当に帝国ならそれが見える。


 私の目には、空に浮かぶ巨大な城が映っていた。


 そうだ。きっと私は空腹で倒れ悪い夢でも見ているのだろう。そうだ、そうに違いない。

 そうでなければいけない。

 そうじゃなければ私は、私は何のために努力をし続けたというのだろうか。


 両親がずっと支えてくれていた。だから頑張ることが出来た。両親のためにも騎士になろうと思った。大切な家族を守れるようになりたかった。


 黒髪銀眼の女性が後ろから歩いてきた。


 「・・・・・・ここは帝国だ。そして、王国の法では一度帝国へ渡った者は二度と帰れない。違うか?」


 知っているとも。

 王国と帝国は長年戦争を続けている。

 ここ数十年は戦争の気配はしないが、いつまた戦争が怒ってもおかしくない程、仲が悪いのだ。


 そのため王国では王国のことよりも先に帝国のことを学ぶ。

 帝国は悪で、王国が正義だと教えられるのだ。


 私もそう教えられたし、それを疑ったことなどなかった。


 涙は流れなかった。

 心に大きな穴が開空き、大切な何かが零れていくような気がした。


   〜 〜 〜


 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」


 先程までいた部屋へ戻らされた後も、私は項垂れたままだった。


 「だから言ったじゃないですか。こんなやり方じゃ絶対こうなるって。」

 「そうですよ。そんなんだから1度も恋人が出来たことないんですよ。」

 「それは今関係ないだろっ。私も罪悪感ぐらいあるっ。」


 小声で何かを言い合っているが、私はそれどころではなかった。

 今までのことを思い返してみた。


 ここが帝国ということは、まず確実に私が通ったのは『冥府の入口』だろう。

 道を間違えたということもないだろう。

 道を正しく進んだ自身はあるし、標識があった場所も地図の通りだった。

 毎晩襲撃があったのも魔香のせいだろう。


 魔香は魔物やモンスターから取れる人外専用の興奮剤だ。

 人からすれば無味無臭のただの液体だが、人外にとっては理性を揺らがすほど食欲を暴走させる成分と匂いらしい。


 魔香が仕込まれていたのは水だけでなく食料にもだろう。

 アラクネが「美味しそう」と言ったのも、魔香のせいか。


 今になって考えると、母がくれた本は読まなくて正解だったかもしれない。

 この人達もデタラメばかり書いてあると言っていた。

 おそらく本当のことだろう。


 両親が私を殺そうとしていたと考える方がスジが通る。


 私は、何か間違えてしまったのだろうか。

 王国、帝国、『冥府の入口』の位置関係はこのようになっています。


   \ 冥府の入口 /

    \     /

 王国  \_____/  帝国

       │

       │


 王国、帝国、冥府の入口は三つ巴のようになっています。


 ちなみに、王国の首都は領土の中心に位置します。

 帝国の首都は『冥府の入口』から目視できる程度には『冥府の入口』に近いです。

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