4.新スキル
「・・・・・・森が浅くなってる?」
私はシャドウスケルトンの背中から降り、ようやく周囲の木々が小さくなっていることに気づいた。
今更だが、本当に怖かった。
スキルのことしか考えていなかったが、これで騎士を目指すなんて愚か者も良いところだ。
せめてもっと力をつけなければ。
騎士になりたくないとは思わない。むしろ、騎士への憧れは強くなっている。
だがそれ以前に、今の私には力が無い。
生き残ることが出来なければ、何も守ることなどできない。
ジョブやスキルは今から変えられるようなものでは無い。
だから、きちんと向き合って生きよう。
少し前向きになった私は、シャドウスケルトンを戻した。
歩き続けることにももう慣れてしまった。
生命の危機がある訳では無い。ただ退屈なだけ、それでも何かしら考えていれば多少は紛らわせることができる。
「しかし、どこに着くのだろうか。」
道からはずれ、迷い、戦い、また進んだ。
今向かっている方向がどこを向いているかも分からない。
太陽を見て方角を確かめたいが、生憎今日は曇り空だ。太陽は見えない。
少しするとお腹が鳴り始めた。
昼食をとり、一息ついたところで天啓が下った。
「もう何が来ても後悔しない。どんな力も私の力だ。」
声に出し覚悟を決める。
例え『裁縫』スキルだったりしても後悔なんてしない。
そんなスキルを得るようなことはしてないから大丈夫だとは思うが。
スキル『〜〜〜』
スキル『〜〜〜』
アビリティ『〜〜〜』
アビリティ『〜〜〜』
etc…
「・・・・・・なんで?」
1度の天啓でこんな数のスキルやアビリティを得ることは滅多にない。
人生最初の天啓が最も数が多いのが普通だ。
天啓の内容が多すぎて、一度に頭で理解出来ずに混乱してしまった。
それに、何故今この瞬間なのか。
特に何かを成した訳では無いのに。
「とにかく確認し直さないと。」
多すぎる情報を整理する。
レベル 29→33
ジョブ
〖死霊術師〗
〖地魔導師〗
スキル
《死霊術》
:『サモン』『ブースト』『エンチャント』『エボリューション』『サモンウェポン』
《霊操術》
:『霊眼』『霊魂支配』『憑依』
《地魔導》
:『大地掌握』『アースバインド』『アースウォール』『アースクエイク』『アースショット』
《無属性魔法》
《努力》
《根性》
《執念》
《持久》
:『持久力上昇(大)』『持久力強化(大)』
戦力
シャドウスケルトン:1
アサシンスケルトン:1
ブラックスケルトン:9
オーガスケルトン:9
あー、多分地面に埋めたアラクネが息絶えたんだろう。
たとえ魔物でも生物である限り空気が必要なことには変わりないのか。当たり前か。
そしてレベルが上がり、30という1つの壁を超えたと。
レベルは10ごとに必要な経験値が一気に増えるという話だったな。
それを考えればアラクネは相当な強者だったのだろう。
まあ、本来なら複数のパーティであたる魔物だ。しかも知能も高かったはずだ。
少なくとも人語を理解し使えるくらいには。
私は運が良かったのだろう。
もし私が騎士になれる近接戦闘系のジョブなら死んでいた。いや、例えそうならそもそもこの森に入ることもなかっただろう。
スキルの効果を一つ一つ確認し頭の中に定着させる。
いざと言う時適切な能力が使えるように。
今回の天啓はレベルアップの恩恵と見て間違いないだろう。
そして新しくできることが増えた。
「まずは、『サモンウェポン:スケルトン』!」
突き出した両手の掌に黒い光が集まり、その光は骨で出来た小盾と片手剣へ姿を変えた。
このアビリティは、それぞれのアンデッド専用の武具を召喚できる。
スケルトンの場合だと、このように骨の盾と剣だ。スケルトンウェポンとでも呼ぼうか。
スケルトンが使った時のみ発動できる専用アビリティもあるようだ。試してみよう。
スケルトンを新しく1体召喚し、スケルトンウェポンを持たせる。
専用アビリディを発動させるよう命じる。
するとスケルトンは、ものすごい勢いで地面に剣を振り下ろした。
地面が凹んだ。何回か繰り返せば簡単に落とし穴が作れそうだ。
効果時間は1分程度で切れた。
スケルトンウェポンは、攻撃上昇のバフ効果か。
サモンウェポンとサモンの発動に必要な魔力が同じことに少し不満があったが、これだけ強力な効果があるなら納得だ。
ブラックスケルトンの場合、黒い骨でできたスケルトンの時より大きい盾と剣だっだ。攻撃、速度が上昇。
シャドウスケルトンは身体の半分が簡単に隠れる盾と、私の身長くらいある剣だった。やはり黒い骨。防御、攻撃、速度が上昇。
オーガスケルトンは白骨の手甲と脚甲で、攻撃、防御が大きく上昇した。
アサシンスケルトンは斬れ味特化の白骨の短剣が10本。速度が信じられないくらい速くなった。
目で追いきれない速さだ。速すぎる。
全員の武器とアビリティの性能を確認したところで、『霊眼』を発動させる。
この辺りで命を落としたものの幽霊が見えた。
最初に見えた時背筋がヒュッ、となった。半透明の青白いのがあちこちを徘徊していたからだ。
人だけではなく動物や異形のモンスターも見える。
『霊魂支配』で近くにいた商人と思われる幽霊を支配下に置いた。ほんの少し抵抗があったので、無条件で支配下に置ける訳では無いのだろう。
支配下に置いた幽霊を、スケルトンウェポンに『憑依』させてみる。
すると、浮いた。
ひとりでに剣が飛び回るのだ。怖い。
つい「Oh」と声が漏れてしまった。でも仕方ないと思う。自分が操っているとはいえ怖すぎる。
とりあえず《霊操術》の使い道は思いつかなかった。
次に『アースクエイク』を発動させる。
指定したポイントを中心とした半径5メートルほどが激しく揺れた。何とか立つことはできるが、油断するとすぐコケてしまう。
ちなみに、『アースクエイク』は範囲を広げたり、逆に狭めたり出来た。広げると揺れは小さくなり、狭めると激しくなった。
試しに半径1メートル程で試したが、オーガスケルトンが宙を浮いて倒れる程揺れた。
傍から見れば一部の地面だけガクガクブルブルしてるように見える。
そして『アースライフル』、これがとても使い心地が良い。最高の遠距離攻撃手段だ。
『アースウォール』で出した分厚い壁を3枚ぶち抜いた。
《持久》スキルは分かりやすく、いくら走っても疲れにくくなった。
こんな感じになった。
能力の検証だけでもう辺りは暗くなってきた。
午後のほとんどの時間が潰れてしまったが、私は正直満足している。
サモンウェポンで出した手甲と脚甲を身に付ける。サイズは召喚する時に調整できた。
これが微妙に難しく手甲だけ召喚して練習したのだが、ブカブカだったりキツキツだったりする手甲が8組できた。
他の武具は全て魔法袋に仕舞っておいた。切れ味が良すぎるものもあるから外に出したままなのは危険だ。
そのあとはいつも通りに簡易テントを建て、スケルトン達を配置し眠りについた。
何故かこの夜、襲撃は起こらなかった。
〜 〜 〜
目が覚めたので簡易テントを解除する。よく寝た。
外を見た時、血の海を見ないで済む朝とはこんなにも気分が良いのかと驚いた。
最後の食料を頬張り、進んでいく。
出来れば今日中にこの森を出たい。水はまだ残っているが、もって明日までだろう。
〜 〜 〜
丸一日何も食べてない。口にしたのは水のみ。果実を取ろうにも果実なんてないし、口に出来そうなものは見つからなかった。
〜 〜 〜
水が尽きた。喉の乾きと空腹で死にそうだ。ツラい。
商人の幽霊を憑依させたスケルトンウェポンの剣を取り出す。
「お前商人だったんだろ。私が食べられるものを持ってきてくれよ。」
剣は宙をグルグル回るだけだった。
朝起きてから1歩も動けず、空腹に耐えきれなくなってきた。
いっそその辺の雑草でも食べるか?
一瞬そう思うが、飢えと渇きだけでもかなり辛いのに、さらに食中毒なんてことになったらシャレにならない。
「はぁ。もっとちゃんと考えながら動くべきだったな。」
目眩がし、気を失う直前。
あ、たしか『サバイバルの基本』みたいな本があったな。と、今更思い出した。
〜 〜 〜
地面に横たわる少年を見下ろす女が1人。
「少年を確保。今からそちらへ向かう。」
『了解した。だが確保とは? 誘導しろと言ったはずだが。』
イヤリング型の通信用魔道具からする女性にしては低い声。
その声からは、指令と違う行動をとった女への怒りが垣間見えた。
「少年がアラクネのフロスト種と交戦し『ブフォッ』勝利し『ゲホッウェッホ』逃走。危険があると判断し食糧不足で行動不能になるのを待ちました。」
『・・・・・・・・・』
通信先から返答が来なくなるが、構わず少年を担ぎあげる。傍に落ちている先程まで浮遊していた片手剣を拾い、通信先の人物がいる拠点へ走り出した。
スキル《持久》の『持久力上昇』と『持久力強化』には違いがあります。
『上昇』は、筋トレやレベルアップなどで増える持久力にボーナスがつく感じです。
『強化』は、現時点の持久力を底上げし増やします。
どちらも常時発動のパッシブです。