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王国の追放貴族、帝国で闇黒騎士になる。  作者: チアキ
1.王国の闇と帝国の光
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3.アラクネ

 「はぁ。この森でかすぎないか?」


 やっぱり森は浅くなる気配はない。

 昨日の夜も襲撃はあったが、だんだんスケルトン達もやられなくなってきた。


 通常のスケルトンは7体も生き残った。

 最初は2体しか生き残らなかったことを思えば、戦力が安定してきていると思っていいのだろうか。


 私の今の戦力はスケルトンのみだ。

 サモンで呼び出せるのは他にもいるが、スケルトンが1番使い勝手がいい。


 ゾンビは力が強く、低確率で殺した相手をゾンビにできるが、遅い上に臭い。

 ゴーストは魔法が使えるが、少し強めの魔法の余波だけで消えてしまう。私が自分で魔法を使う方が効率がいい。


 そんな訳でスケルトンしか出していないのだが、皆進化し、優秀な戦力になった。


 先日と同じようにスケルトン達を周囲に配置し警戒しながら進んでいく。

 歩くだけの時間に飽きた精神を紛らわせる為、能力確認と戦力確認をする。


 レベル 29

 ジョブ

 〖死霊術師〗

 〖地魔導師〗

 スキル

 《死霊術》

 《地魔導》

 《無属性魔法》

 《努力》

 《根性》

 《執念》


 戦力

  シャドウスケルトン:1

  アサシンスケルトン:1

  ブラックスケルトン:9

  オーガスケルトン:14


 レベルがかなり上がっている。

 私が直接戦った訳では無いが、支配下のスケルトン達が戦うと私にも経験値が入るのだろう。

 卑怯な方法でレベルを上げるあげている気がする。


 それにしても、ここまでレベルが上がったのなら、天啓が下って新しいスキルやアビリティを得てもおかしくないと思うのだが。


 この世界は、レベルが上がるにつれて能力が上昇する。

 そして、その能力に見合う新たなスキルを得ることができる。

 だが、ジョブを2つ持つダブルは、性質上レベルが上がりやすい。

 その分、レベルの上昇によるスキルの取得が難しいとされている。


 そんな事を私が知っている訳もなく、無駄に頭を悩ませるとこに時間を費やしてしまった。


 「「アルジ!」」

 「グエッ」


 突然シャドウスケルトンとアサシンスケルトンが私を突き飛ばした。

 私は奇妙な声を出しながらしりもちを着いてしまう。


 ふと顔をあげると、さっきまで私がいた場所に突き刺さる腕と同じくらいの太さの氷の槍。

 長さは私の身長ほどある。


 もしスケルトン達が気づかなかったら。

 そう考えると背筋が凍りつきそうになるほどの恐怖が襲ってきた。


 『うふふ、いい匂い。怖くて怖くてたまらないっていう、良〜い匂いがする。』


 頭上から声がする。

 反射的に視線を向けてしまった。


 そこに居たのは、下半身が蜘蛛、上半身が人の女性の魔物。アラクネがいた。

 冷気を纏い、上半身には空色に薄く光る刺青がある。


 氷を飛ばしてきたのはこいつで間違いないだろう。

 ただのアラクネでもかなり厄介なのだが、こいつは明らかに亜種だ。

 確か氷や冷気を操るのはフロスト種と呼ばれるんだったか。


 ふとアラクネの後ろ側にあるものが目に止まった。

 それは、大きな木々の間に張られた巨大な蜘蛛の巣だった。

 鳥や狼、熊、他にも魔物やモンスターも捕らえられているのが見えた。


 『そこの骨達は美味しくなさそう。でもあなたは美味しそう。とてもとてもいい匂いがする。』


 巣にぶら下がるように降りてくるアラクネが楽しそうに笑った。

 近づくにつれて細部まではっきりと見えてくる。


 下半身は馬車ほどの巨大な蜘蛛だ。目も8つついている。

 蜘蛛の頭部から生えるように上半身がある。人型をしているがあくまで蜘蛛。

 両腕は毛の生えた甲殻に覆われているし、人の顔には目が4つある。

 そのどれもが蜘蛛のような目ではなく、人間の目なのだから気味悪さが半端ではない。

 下半身が蜘蛛で目が4つあり腕が毛むくじゃらなことを除けば、若々しい妖艶な美女だ。

 服なんてものは着ていない。


 もしこのアラクネがただの人であったならば赤面し顔を逸らしたであろうが、生憎魔物だ。

 顔は赤くなるどころか青白くなるだけだった。


 アラクネのランクはC級下位だった気がする。

 亜種はC級上位だったような。


 ランクとは、魔物やモンスターを総合的な強さで分けたもので、AAA〜Eまである。

 AAAは複数の国家が協力して討伐するレベル。

 AAは1つの国家が、Aは1つの都市が、Bは1つの街が、Cは複数のパーティが、Dは1つのパーティが、Eは個人で討伐するのが一般的である。


 もちろん優秀なパーティなら、1つのパーティでB級やC級を討伐することもある。


 このアラクネは私が覚えている限りではC級上位。

 1個人でどうにかなるものでは無い。


 しかし、私は死霊術師だ。

 万全の状態だったなら数の問題はどうにかなるが、なんの準備もなしで襲われている状況で、数でどうにかできるとは思わない。


 『うふふ。あははは。ねえねえ、どうしてそんなに美味しそうなの? ねえどうして? なんでなんで?』


 アラクネが何か言っているがあまり頭に入ってこない。

 恐怖が諦めとなり、一周まわって冷静になった。


 氷や冷気による攻撃はどうする。

 恐らく防御にも転用できるだろう。

 糸で妨害や罠もあるかもしれない。

 捕まってしまったらどうしようか。

 あの巣に捕えられればアウトだろう。


 今できることを考える。


 今の私にできること。

 アンデッドの召喚、強化。

 大地の魔法。

 身体強化。

 あと何がある?


 何が使えるものは。


 剣が1本、食料が2食、水が4リットルほど、地図、布、書物、あと何が・・・・・・。


 『ねえねえ答えて? 答えてくれないの? ・・・・・・じゃあ、身体に直接聞いてあげる!』

 「っ!!」


 木の幹に太い蜘蛛の足をつけ、上から見下ろしていたアラクネは、返事をしない私に攻撃を始めた。


 真っ直ぐに飛んでくる4本の氷の槍。

 必死に飛び退き何とかかわしたが、魔法袋のヒモに掠り落としてしまった。

 当然取りに行く時間など無く、次々と飛んでくる氷の槍を何とか避け続ける。


 遠距離攻撃ができるようなスケルトンはいない。

 逃げようにもそんな隙はないし、逃げたとしてもすぐに捕まってしまうだろう。


 だったら最初から倒す気でいた方がいい。

 希望的観測は捨てよう。

 きっと上手くいく、そう思って失敗したら立ち直せない。

 私はアラクネとは違って身を守る甲殻なんてものは無い。


 『ほら、ほら、避けないと死んじゃうよー? ほらほらぁ!』


 楽しそうに氷の槍を打ち続けるアラクネに怒りを感じつつも、木の陰を利用して逃げ回る。

 身体強化と脚に集中させた部分強化を重ねがけすることで、ほんの少しだけ余裕を持っているの避けることができている。


 スケルトン達は一旦戻した。

 下手に攻撃され数を減らされると困ってしまう。

 私が召喚できる数には限界がある。無駄にはできない。


 まずアラクネを地面に降ろさせないと、私の攻撃が届かない。

 私が使える魔法は無属性魔法と地魔導だけだ。

 どうすればいいだろうか。


 『あーもう。いい加減に、して!』


 アラクネが痺れを切らし、糸を飛ばしてきた。

 これには絶対に捕まってはならない。捕まったらそこで終了、ゲームオーバーだ。


 これも避けることが出来たが、気に当たった糸はベチャッ、と音を立て気に張り付いた。

 その上、ゆっくりとではあるがジワジワ気の表面を溶かしていた。


 あの糸に捕まりたくない理由が1つ増えたな。


 『ばぁ!』


 糸に気を取られた隙に急接近してきたアラクネが、気の陰から飛び出してきた。

 思わず面食らってしまうが、すぐにチャンスだと気づく。


 「『アースバインド』『アースウォール』!」


 咄嗟に魔法で動きを封じる。

 8本の脚のうち5本に絡みつき、簡易テントと同じ要領でアラクネを閉じ込める。


 「すまない、オーガスケルトン!」


 ダメ押しで中に直接オーガスケルトンを5体出し、突撃させる。

 数歩下がり、様子を伺う。


 グチャッ バキン ドスッ ガシャン 


 中から色々な音が聞こえてくる。

 オーガスケルトンが攻撃する音と、アラクネが反撃する音。


 大地掌握で中の様子を確認できないか試して見た。

 魔力の消費が激しいので数秒だけにとどめたが、大体は把握出来た。


 オーガスケルトンが圧倒的に押されている。

 中はほとんど隙間がなくぎゅうぎゅうになっている上に、脚を拘束しているのだが、それでもオーガスケルトンはボロボロだ。


 地面に手を着く。

 魔力を浸透させ、アラクネがいる辺りの地面を私の魔力で支配下に置く。

 十分に魔力が行き渡ったところで、地面を大きく陥没させる。


 3メートルほど沈め、更に魔力を込め次は埋め立てていく。

 例え中から出てきても、地中ならば逃げ場は無い。


 少なくとも逃げる時間はできる。


 埋め終わり、すぐさま魔法袋を取りに走る。

 そのままその場を逃げ出した。


 自分でも格好悪いと思う。

 せめて決着くらいつけるべきなのかもしれないが、死んでしまっては元も子もない。


 一瞬、騎士として恥ずかしいと、そう思った。


 私の信じる騎士とは、大切な物のために身体を張って守るものだと思っている。

 しかし、今の私に守り切らなければならないものなんてない。強いて言うならば自分の命だろう。

 それに、私は騎士になれなかった。


 言い訳を探していることに気付き、さらに情けないと感じる。


 それでも足は止まらなかった。

 生まれて初めて体感した命のやり取りが、こんなにも恐ろしいとは考えていなかった。


 だから私は逃げ出した。

 恥も外聞も知らず逃げ出した。


 ついに足が止まってしまうが、シャドウスケルトンを出し、背負って貰いながら走らせる。

 硬く黒い骨の背中がとても頼りに思い、少しだけ心に余裕ができた。


 その後、ようやく死の恐怖から遠ざかり、安心した時、私はみっともなく涙を流した。


 あとから考えると正直、誰もいない森の中でよかったと思うった。

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