1.野営《一》
「さて、この死体をどうするか」
地面に倒れふす死体達を眺めながら頭を悩ませていた。
しばらく考えてようやく気づく。
私は地魔導師だ、大地を操るくらいなら息をする程簡単にできる。
地面に掌をつけ、魔力を浸透させていく。
私の魔力が浸透した地面を、私が立っている場所以外全て沼のような性質へ変化させる。
この程度なら魔法でなくてもできる。
・・・・・・何度も思うが、どうして私は魔法が得意なのだろうか。
このくらい簡単に剣を振って戦う力が身につけば良かったのにな。
そう思っているうちに、死体はズブズブと地面に沈みきったようだ。
スケルトン達は私の魔力で呼び出したモンスターなので、沈まず立っている。
さて、次はこのスケルトン達だ。
アンデッドを呼び出す『サモン』というアビリティはあっても、送り返すようなアビリティは無い。
カラカラと音を鳴らしながら、周囲にいたスケルトン達が私の元に集まってきた。
まだ少年と言うべき年齢の私と比べ、大柄な成人男性程の身長のスケルトンがゆっくり迫ってくるのは、なかなか恐怖を煽った。
「どうした?」
「マ、マリョ、ク」
マリョク? 魔力がどうしたというのだろうか。
いや待て、その前に、コイツ今喋ったよな? スケルトンがどうして喋るんだ?
舌なんてないはず。骨100%だよな。
「・・・・・・魔力が欲しい、ということか?」
カラン、と頷くスケルトン達。
理由は分からないが、支配下にあるコイツらが私に危害を加えることは無いだろう。
あまりに扱いが酷すぎると反乱を起こすらしいが、今まで呼び出したことなど片手で数えられる程度だ。
スケルトン達が跪き頭を垂れる。
溜息を一つはいてスケルトンの頭に手を置く。
ひとまずスケルトンが耐えられる限界まで注いでみるか。
どうなるかは分からないが、悪いようにはならないだろう。・・・・・・多分。
魔力を送り込み、スケルトンの魔力を受け取れる限界が近づいてくると止め、別のスケルトンの頭に手を乗せまた魔力を送る。
それを10回ほど繰り返す。
それだけで、私の全魔力の4分の1ほどを消費した。
魔力を受け取ったスケルトン達は微動だにせず跪く。
それを見ていると、突然天啓が下った。
アビリティ『エボリューション』
支配下にあるモンスターが一定以上の経験値を得た時、魔力を与えることで進化する。
進化後の能力は与えた魔力の量に比例する。
こんな簡単に天啓が下って良いものなのか。
やはりジョブに合ったスキルやアビリティは身につきやすいようだ。
・・・・・・つまり、今コイツらは進化している真っ最中だということか。
確かに、先程までただの骨だった体を、黒に近い紫のような色をした魔力を纏い始めている。
先頭にいるスケルトンは他のスケルトンと比べて濃い魔力を纏っていた。
その魔力に端から染め上げられていくように骨の色が纏っている魔力と同じような色へ変わっていく。
2分程だろうか。
体に纏っていた魔力が消え、変わりに頭を上げるスケルトン達。
「アリガタ、キ、シアワセ」
「・・・そうか。これからは事前に詳しく言ってほしい。」
コクリと頷くスケルトン。
今回のように訳も分からず魔力を寄越せと言われても、何が起こるのか分からないのは少々危険だ。
まあ過ぎたことは置いておこう。
問題はこれからどうするかだ。
「お前達をどうするべきか・・・・・・」
「アルジノ、メイレイガ、アレバ、モドレル」
コイツ優秀だな。
そういえば、喋ってるのは全部先頭にいるこいつだけだ。
戻れ、と口にすると、進化したスケルトン達は跡形もなく消えた。
ただ、魔力の消費無しで呼び出せるブラックスケルトンが9体と、シャドウスケルトンが1体いるというのが頭の中で分かった。
恐らく先頭にいたスケルトンがシャドウスケルトンだろう。他はブラックスケルトンか。
今後何時でも呼び出せる強化されたスケルトンが10体確保出来たのは、魔力が少なくなった時とか頼りになるかもしれない。
そんなことを考えながら、また歩を進める。
まだ次の町まで距離がある。
私が生まれ育ったのは領主がいる領地の中心だけあってかなり大きく、街を取り囲む壁や堀があった。
今目指している町には壁はあっても堀はないだろうな。
終わりそうにない長い道程を思い浮かべ思考に耽ける。
また先程のように襲撃があるかもしれない。
そう思うと、自分の今できることがちゃんと把握できていないことに危機感を覚えた。
・・・・・・人を殺してもレベルは上がるのだろうか。
能力確認とともにレベルも確かめ、頭の中でまとめていく。
レベル 7
ジョブ
〖死霊術師〗
〖地魔導師〗
スキル
《死霊術》
:『サモン』『ブースト』『エンチャント』『エボリューション』
《地魔導》
:『大地掌握』『アースバインド』『アースウォール』
《無属性魔法》
:『身体強化』『部分強化』
《努力》
:『経験値補正(小)』
《根性》
:『精神増強(大)』
《執念》
:『魔力強化(感情)』
こんな感じか。
どうやら人を殺してもレベルは上がるようだ。
それにしても、私の6年間の努力が見たことも無いスキル3つとは。
天啓が下ると効果も分かるから良いものの、今まで聞いたことも無いスキルだったな。
両親が数え切れない数の書物を漁って詳しい情報を探していたなぁ。
結局、過去に数人このスキルを得た者がいた、という事しか分からなかったんだよな。
感傷に浸りながらスキルやアビリティの効果を確認していく。
『努力』『根性』『執念』の3つのスキルは、常時発動されるパッシブスキルだ。
どんな時でも発動される効果で、強力な効果を持つものは少なく、変わりに魔力を消費しない。。
対して、『死霊術』『地魔導』は任意で発動させるアクティブスキルだ。
こちらは、主に魔力を消費することで発動させるものだ。
歩き続けるうちに日が落ちてきた。
周囲はまだ木々が立ち並んでいる。最初に足を休めた場所と比べ、気は高く、森のようだった。
いや、ここはとっくに森だろう。
確かここから3日程で森を抜け、そのあとはすぐに街に着くはずだ。
そろそろ寝る場所を確保しなければならない、しかし、この辺りには野宿に適した場所は見当たらない。
だが、すぐに自分のジョブがなんだったのかを思い出す。
どうやらまだ私は、自分は騎士でありたいと心の底で思っているようだった。
いや、魔法使いに向いている、という現実から目を逸らしたいだけか?
どちらにせよなんて未練がましいのだろうか。自分のことが情けなくなってくる。
道をはずれ、道がどこにあるのか目視できる範囲で少しでも開けている場所がないかを探す。
木が立ち並ぶこの場所では木の根が邪魔で地中に穴を掘ることも出来ない。
私は地面に穴を掘り、地中に簡易の部屋のようなものを作り、底で一晩明かすつもりだった。
地中なら夜行性の動物、魔物、モンスターにま見つかりにくく安全性が高い。
しかし、現実はそう上手くいかないようにできているらしい。
開けた場所どころか道すら見つけられなくなってしまった。
少しぐらいなら大丈夫だと思って離れすぎた。道があった方向をわすれてしまい、もうどうしようもなくなってしまった。
アビリティ『大地掌握』はとても詳しく地形や地質を知ることが出来るが、広範囲を調べるのには向いていない。
情報量が多すぎて脳が耐えられない上に、自分の周囲だけを範囲にしても消費する魔力が、毎秒死霊術の『サモン』と同程度、という効率の悪さだ。
地魔導師が最上位のジョブなのに日の当たる所になかなか顔を出さないのはこういった効率の悪さからだろう。
私の場合はダブルということもあり、ジョブが相互作用でも起こしているのか、魔力の量が多いため効率が悪くともある程度平気で使える。
しかし、これはもうどうしようもない。
あたりはもうほぼ真っ暗だ。
仕方ない、地上に建てることになるが、暗闇のなか無闇に動き回るよりよっぽどマシだろう。
せめて強度は限界まで上げておこう。
地面に両親から受け取った魔法袋の中にあったシートを敷き、ピラミッド型に壁を『アースウォール』で作り上げる。
四隅には穴を開け空気が出入りできるようにする。
ピラミッド型の簡易テント(?)の周りに進化したスケルトン達を配置する。
そのままだと他に見つけた人が襲ってくるかもしれないので、地中に潜らせる。
追加でもう20体の普通のスケルトンも地中に待機させる。
もし獣などが襲ってきたら殺して、また地面に潜って待機するよう命令しておく。
シャドウスケルトンには、簡易テント(?)の中で私の護衛をしてもらう。
外にいるスケルトン達でどうにも出来なさそうな時は遠慮せず起こすよう命じた。
モンスターに気遣う心があるのかどうかは知らないが、万が一遠慮されている間にテントが崩され死んでしまったりすれば、死んでも死にきれないだろう。
とりあえず、自分なりに万全は期したはずだ。
硬いパンと塩漬けの乾燥した肉を齧って寝袋に入る。
どうか無事に朝日を拝めますように。
レベルが上がると生命力、魔力、体力、耐久力、持久力など、基本的に自身の全ての能力が上昇します。
ただし、人によってそれぞれの上昇率に偏りがあります。
例:魔力、知力が大きく上昇しやすい魔法使いタイプ
:体力、持久力が大きく上昇しやすい壁役タイプ