13.戦力
師匠と出会って早十日。
この過酷な修行にも慣れてしまった。
「遅い。もっと速く。」
「うごっ、ぶへっ!」
胴体にクリーンヒットした木の枝は、そのまま流れるように横っ面をシバいた。
ただの木の棒が鋼鉄の棍棒に見えてきた。
剣で受け止めようとすれば剣ごとぶっ飛ばされ、避けようとすれば足を引っ掛けられ、攻めようとすれば手痛い反撃を受ける。
剣を合わせて分かったのだが、私がかつてしてきた努力はほとんど意味が無かったようだ。
こんな実践的な剣は1度も教えて貰っていない。
「アル集中。」
「・・・・・・つ!」
顔に穴を開ける気かと思うほど鋭い突きを間一髪で避ける。
鎧は着けていないので、攻撃が当たるととんでもなく痛い。当たり前か。
ちなみに、本名ではなくアルと名乗っているのは念の為だ。
私は帝国ではなく王国の出。
その上、帝国の暗部と関わっている。かなり深く関わっている。
つまり、下手に正体が漏れれば第1部隊長以前に始末されるかもしれない。
それが嫌なので、基本的に質問は有耶無耶にして答えていない。
そもそもほとんど質問もされないので助かっている。
あとは、気分だ。
こっちが本心。ぶっちゃけ何となくなのだ。
「足が止まってる。」
「い゛っ!?」
「目線。」
「だっ!?」
ボッコボコにされながらも、数日賭けてようやく打撲痕の数も減ってきた今日この頃である。
まあ、無様に逃げることに恥を感じ無くなったからだが。恥とか言ってる余裕無いし。
ララ師匠は鬼だ。鬼畜だ。
少しでも油断すればすぐさま猛攻撃を始める。これが辛いのだ。初撃だけでも避けようとしてもすぐ様追撃される。
諦めようとすれば急所に重い一撃を遠慮なくぶち込んでくる。死にそう。
木の枝VSサモンウェポンなのだが、その木の枝は師匠が魔力で強化しているらしく凶悪な武器へ変貌を遂げている。
武器や鎧、体の表面に魔力を纏わせることで性能を上げる高等技術なのだとか。
物の形、大きさ、性質、相性によって纏える魔力の量が変わるそうだ。
私も試して見たが、魔力を込める時と違ってあっという間に霧散してしまう。
私ができるようになるのは遠い先のことになりそうだ。
延々と師匠の剣を合わせ続ける。
日が暮れ始めてようやく師匠の手が止まる。
その一瞬目掛けて振るった逆袈裟斬りは、片手でパシッと受け止められた。
今日一番の一撃だと思ったのに。
全く攻撃が当たらない。反撃しても1歩も動かずいなされ、また防戦一方となってしまうのだ。
師匠って何者?
「アルお疲れ。今日は終わり。」
「あ、ありが、とう、ごさいま、す。」
息も絶え絶えになりながら感謝の言葉を述べる。
肺が酸素を求め荒い呼吸を繰り返すが、しばらく息は整いそうにない。
「また明日。」
「はい、師匠。」
街の方へ駆けて行く師匠の背を見送る。
「ルー、頼んだ。」
瞬時に鎧姿になる。
このリビング・アーマーには、呼びやすいようにルーという名を与えた。
名前の由来? そんなものない。なんとなくだ。
わたしは全身脱力し、体を動かすのはルーに任せる。
鎧の中なのに涼しいおかげでとても気持ちいい。眠りそう。
地下施設の入り口でルーを戻して自分の足で進む。
シャワーで汗を洗い流してサッパリすると、食事をかき込んで部屋へ戻る。
あとは、スケルトンとゾンビ、そのサモンウェポンを大量生産してベットへ身体を沈める。
全力で運動した日のベットはどこまでも安心感を与えてくれる。
まあこの数日の間はずっと師匠と剣の訓練ばかりしているが。
日に何度か気を失い、またあの意味深な夢を見る。
回数を重ねる毎に、だんだん夢の内容を覚えたまま意識が戻るのだが、訳が分からないのでスルーだ。
師匠も、目が覚めたら直ぐに剣を振れと攻め立てながら指示するので、ゆっくり休む時間が無い。
早く帰ってぐっすり眠りたい。
そういえば、最近森に放ったままのゾンビを回収してないな。
前に回収した時は数が何十倍にもなっていて腰を抜かした。
動物、魔物、モンスター、ありとあらゆる生物がゾンビになって私の戦力になったのだ。
流石に植物はゾンビにはならなかったが。
前に回収したのは1週間以上前だ。
その時はそこまで時間が経つ前に集めたので、今回はもっとたくさんゾンビが集まるだろう。
聖光騎士団との試験(?)まであと5日。
師匠には、用事があるので修行は今日までだと伝えている。
だからかなぁ、いつもよりも一撃一撃が重たい。
防御も硬いし、いつにも増して手も足も出ない。
メンタルが弱るが、師匠はお構い無しに剣を振るう。
日が暮れ始め、ここも直に暗闇に包まれるだろう。
しかし師匠は動きをとめない。
私としては、なんにも見えなくなるから危ないと思うんだが。
その時、何も考えずに放った剣が、スっと師匠の首元へ吸い込まれた。
師匠の隙のない連撃の間へ滑り込むように入ったその剣は、私自身も驚愕した。
驚いたのは師匠も同じようで、口をぽかんと開け目を見開いていた。
師匠の表情筋って死んでなかったんだ。
この10日間近く一緒にいたけど、表情が変わったのって今日が初めてじゃないだろうか。
「アル、合格。あとは自分で頑張って。」
「え? 師匠どういうことでウゴッ」
いや、いきなり顎は酷いと思うんですけど。
私は本日5回目の気絶を味わい、また意識を失った。
〜 〜 〜
「・・・・・・あれ?」
目が覚めた時には、師匠はどこにも見当たらなかった。
そもそも暗闇で何も見えなかった。
「はぁ。ルー頼んだ。」
この日もいつもといつもと同じように涼しい鎧に包まれて帰った。
身体を動かすのはルーに任せ、師匠が最後に呟いた言葉を頭の中で転がす。
あれは、もうわたしに修行は必要ないということか?
だとしたら、せめてありがとうございました、の一言くらい言わせて欲しかった。
自衛手段がより万全になったし、日に2回、魔力をほぼ全消費していたおかげか魔力量も増えた。
体力、筋力、持久力など、肉体面も鍛えられた。
今までほとんど使ってなかった無属性魔法の身体強化も、これからは普通に使えるようになるだろう。
今までは数秒後使っただけで筋肉痛がひどかったからな。
魔力による強化に身体が耐えられなかった。
明日からのレベリングは、私も前線に出ようか。
気付けば地下施設にたどり着いており、あとはいつも通りシャワー、食事、大量生産を終わらせ、ベッドに潜り込む。
師匠に一撃入れられたのがこの上なく嬉しい。
そんな気持ちのせいか、なかなか寝付けなかったが明日のことを考えていると簡単に眠りに落ちた。
〜 〜 〜
「あ、もう修行なかったんだった。」
危なかった、癖で大量生産をするところだった。
今日からは以前のように戦力強化に勤しむ予定だ。
魔力はいくらあっても足りないし、起きている間に回復する魔力派微々たるものだ。
「おはようございます。」
「おはよう。もうすぐ君の生死を決める戦闘試験だ。悔いは残すなよ。」
「はい、タイタニスさん。」
背中をバシッと叩かれる。
まって師匠の一撃と同じくらい痛い。どうなってるんだ。
「ああそうだ、言い忘れてた。今度の戦闘試験のルールが決まったんだった。場所は広大な平原で時間制限は1時間。生き残っていればお前の勝ち。死んでいればお前の負けだ。持って行っていいのは、武器と棒具だけだが、ルールはそれくらいだ。ガンバレよ。」
一気にまくし立て、颯爽と去っていくその背中に八つ当たりしたくなった。
それはルールというのか?
1時間逃げ回ればいいのか。そういうことなのか。
食事を終え、準備を済まして森へ向かう。
今日は1度、森からゾンビたちを回収してから、アンデッド達を整列させてみるか。
ゾンビなどは知能が低いが、複雑でなければ私の言うことは理解してくれる。
アンデッド達は、どんなに遠くにいても戻すことが出来る。
遠い所へ出すことは出来ない。
そして、ゾンビ達から感染したゾンビも、戻すことが出来る。
今は、森に放っているゾンビ以外に出しているアンデッドはいないので、全員戻れ、と念じるだけで済んだ。
「全員出て来い!」
森の外の何も無い広い場所で呼び出して良かったと思った。
あと、一般人が誰もいないような場所で良かったとも。師匠は例外だ。あれは一般人とは言えない。
種族ごとに二列縦隊に並ばせる。
しかし、こうして見ていると圧巻だ。
数を数えていくが、恐ろしく多いので時間がかかる。
20分後。
結果、1000を超えるアンデッドの群れ、いや軍隊か?
全員がサモンウェポンを装備済みだと言うのも恐ろしい。
凄い戦力だ。
成功騎士団は団長含め64人。
騎士団長は参加しないとの事なので、63人。
63対1000。
私と各種キングもほぼ無限に戦力を補充し続けられるので、実際はもっと多くなるだろう。
例えば、スケルトンキングの通常スケルトンの生産限界は最大300体。
スケルトンキングを作り出すには、16体必要だ。
一応、キングの上には、エンペラー、カイザーと続くが、融合させるのに消費する魔力の量が異常な増え方をするので各種一体ずつしかいない。
エンペラーは500、カイザーは800ほど生成できる。
しかし、ただのスケルトンでは蹴散らされるのが目に見えているので、通常スケルトンより数段上のソルジャーやナイトを生成することになるだろう。
数で押し込んでもいいが、一応小細工も準備しよう。




