12.謎の少女
帝国へ来て1週間経った頃から、一日の生活習慣が固まり始めた。
目が覚めると天啓を受けていないかを確認し、食事を摂る。
レベル上げの準備を済まして、森の浅い地域で狩りをする。
自分とアンデッド達のレベル上げを済ませ、昼食を摂って休憩する。
午後はスキルの実験と戦力増強をして、地下施設へ帰る。
そして夕食を取り、能力を確認して眠りに入る。
週に1度の休日を作り、その日は狩りはしない。
これが私の一日だ。
だったはずなのだが、ここ数日でそれは随分と様変わりしてしまった。
朝目覚めると、まずアンデッドを大量生産し。
その後、剣を教えてくれるある人と、休憩無しで日が暮れるまで修行を続ける。
地下施設へ帰り、わたアンデッドを大量生産して眠る。
その繰り返しになっているのだ。
死にそう。
こんなことになったのは、自分が着装する用のリビング・アーマーを完成させた翌々日のことだった。
〜 〜 〜
「うん、しばらくこのまま過ごして慣れよう。」
鎧の中でくぐもった声が響く。
ゴーストキングを融合させたからか、青味掛かった灰色の炎のような物が、鎧の中を満たしていて、それが私の体と鎧の間でクッションのような役割をしている。
そのおかげで極めて動きやすいし、涼しいし、剣も振りやすい。
グレートリビング・アーマーと呼んでいるこの鎧。その『サモンウェポン』の武器は大変質が良く、軽くて手に馴染みやすいのだ。
両手剣に分類される漆黒の剣には、美しくカットされたサファイアが、3つ並んで鍔に施されている。
中心の物が他2つに比べ一回り大きく、鞘にも小ぶりなサファイアが7つ縦に並んでいる。
売ったら幾らになるんだろう、と思ってしまうのも仕方ないだろう。
・・・・・・一応後でリナさんに聞いてみよう。
「いやいや、剣の値段はどうでもいいんだ。今はこの鎧と剣の性能を確かめないと。」
言葉にして今日の目的を再確認する。
ひとまず森の中を軽く散策しようと思う。
『冥府の入口』にはいくらでも獲物がいるのだ。
決して奪った命を無下にしたりはしない。なぜって? 近々私も死ぬかもしれないからだ。
私が死んだら誰かお墓立ててくれないかな。
そんな下らないことを考えていると、普通のリビング・アーマーに相手してもらえばいいことに気づいた。
なんとも言えない気分になりながら森から出ていく。
「なんでもっと早く気づかない゛っ・・・・・・。」
カァンッ!! ドサッ
森から1歩踏み出した瞬間、何者かに頭部を攻撃されて、私は意識を手放した。
〜 〜 〜
頭がグルグルする。
水の中で縦横無尽に回転し続けているような感じがする。
いや、実際にそうなっている訳では無い。
・・・ああ夢か。
夢なら納得だ。
つまり私の目の前にいる半裸の色男はただの妄想というわけだ。
『色男なんて言われたのは初めてだなぁ。面白いしやっぱりやめとこうか。』
何を?
あと面白いってなんだよ、このやろー。
頭が真っ白に塗りつぶされていくのが分かる。
『頑張って死に続けてね、僕の■■■よ。』
おい今なんて言った。
聞こえなかったからもう一度言ってくれ。
なにか聴き逃したらダメな単語だった気がする。
ダメだ何も考えられない。
なんか気持ち悪くなってきた。吐きそう。
〜 〜 〜
「良かった、生きてた。」
「アナタ誰ですか。」
妙な夢から目を覚ました私の顔を除くのは、煌めく金の髪を風に靡かせる少女だった。
うわぁ美人。
思わず口に出しそうになるが、全身に力が入らないので口も動かせない。
おかげで初対面で気持ち悪いことを言わずに済んだ。
しかしホントに綺麗な顔をしている。
シミやシワなんて一生縁がなさそうなほどきめ細かい肌。
良いメシ食べてるんだろーな。羨ましい。
瞳は青い宝石のようで、まるで私の剣についているサファイアのようだ。
薄い唇はキュッと引き結ばれて開く様子はない。
表情を変えることなくしばらくその顔を見つめていた。
しばらくすると体に力が戻り始めた。
これなら動くこともできそうだ。まだ頭が痛いが。
「ゴメンなさい。頭殴って。」
「あなたがやったんですか。まあ済んだことなんで別に・・・あれ?」
起伏のない言葉が投げかけられる。
しかし、それよりも気になることがあった。
今この少女は殴ったといった。
見たところ何も持っていないし、あの細腕ではロクな武器を持つことも出来ないだろう。
しかし殴った? 素手で鎧を殴りつけたとでも言うのだろうか。
・・・分からないことは置いておこう。
「剣と兜はどこに?」
「コレ?」
少女が右手に剣、左手に兜を持っている。
まて、どこから出した?
「ん。」
「・・・どうも。」
手渡された兜を被り、剣を握る。
しかしホントにこの少女は謎だな。不思議ちゃんとでも言うのだろうか。
「あなた、剣が使えるの?」
「いや、そんなに。でも、使えるようになりたいとは思う。」
うーん。私はどうすればいいのだろうか。
このままリビング・アーマーと剣の練習をしたいが、この少女がどこかに行かないと死霊術師の力を使い辛い。
それに、この少女をほっといて大丈夫なのか?
「あなた、死霊術師?」
「・・・どうしてそう思うんだ?」
「鎧。それアンデッド。」
なるほど。
じゃなくて。
「ただの鎧だぞ?」
「ん、リビング・アーマー。それの上位種。」
首を横に振ってただの鎧ではないと否定する少女。
「日の下に出せばアンデッドは消える。」
「えっ、ちょ、ええっ?」
待って、この子力強い。
熊にでも引っ張られてるようだ。
筋肉ゴリゴリのオッサンが魔法で姿を変えてるって言われたら信じそう。
鎧を着た私はそこそこ重いはずなのにそんな様子を見せず、木陰から引きずり出す謎の少女。
しかし消えもしない私の鎧。
まあ、日の下は弱体化するけど消えるわけじゃない。
それに、いつも『エンチャント:アンチシャイン』を掛けてるから、最近は毎日癖でアビリティを使っている。
この鎧は私の顔は最後の砦とも言えるのだから、太陽にたいする耐性は必須だ。
当然、今もちゃんとかかっている。
「・・・? おかしい。」
「だからただろ鎧だって。」
「そんなハズない。それはモンスター。・・・なんで着てる?」
「ただの鎧だから。」
「それがほんとなら、あなたは死んでる。砕けなかった。」
んんん?
砕けなかったからアンデッド?
まあリビング・アーマーはとんでもなく頑丈だというが。それは理由になるのか?
「君じゃ鎧なんて砕けな「えいっ」・・・・・・。」
「ドヤ。」
自分でドヤとか言う人初めて見た。
いやそれより、素手で地面を陥没させるって何がどうなってるんだ?
物理的におかしいだろう。
身長も鎧を着ていない私と同じくらいだし、筋肉とかついてなさそう。
レンガも持ち上げられなさそう。さっき剣と兜余裕で持ってたけど。
「君が鎧を砕けるっていうのはよく分かった。でも、なんで死霊術師ってわかったんだ?」
「女のカン?」
「なんで疑問形?」
「「??」」
このままじゃあエンドレスになりそうなので話を変える。
「あー、だったら、私が死霊術師だと言うのは誰にも言わないで欲しい。面倒なことになるから。」
死霊術師は、そこにいるだけで嫌われるのだ。
モンスターを好きに操れる。
死者を冒涜するようなモンスターを操っているのだから尚更嫌われている。
魔物使いなどなら別にそうでもないのも、生きたものを屈服させて従わせるほうが、死者を支配しているよりも嫌悪感が無いからだろう。
魔物使いもそこまで好かれてはいないが。まあ死霊術師よりマシだ。
事実、王国にいた時、私が死霊術師だというのを知っているのは身内だけだった。
「分かった。ならどうして剣?」
「いざっていう時、私自身が無力だと手の打ちようが無いからだ。」
ああなるほど、と呟く少女。
私をジッと見つめて、突然ある提案をしてきた。
「剣を教える?」
「君が?」
こくん、と頷く。
いや無理だろう。
流石にこんな少女に負ける気は・・・・・・あのパワーで押し込まれたら負けるな。
「木の枝でも、これくらいできる。」
顔に出ていたのだろう。
少女が眉間に小さなシワを寄せて地面からひろった木の枝を縦に振る。
私は風圧で吹き飛ばされた。
鎧を身に付けた体が浮き、空中でもみくちゃにされ地面を転がり気に体をぶつけた。
とても痛い。骨が折れてそう。
「スキルなしでもできる。力任せじゃ枝は割れる。弱いと風は出ない。やってみて。」
「いや、ムリムリムリムリ。」
やってみて、ってできるようなものじゃないだろう。
「そういえば、名前は?」
「・・・アルだ。」
「そう。私は、ララ。みっちり扱くから、覚悟して。」
この日から、ララ師匠と地獄の特訓が始まった。




