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王国の追放貴族、帝国で闇黒騎士になる。  作者: チアキ
1.王国の闇と帝国の光
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0.プロローグ

 バルシア王国ミルバ領。

 ミルバ伯爵家は、代々騎士を輩出する貴族だ。


 私が生まれ育った家でもある。いや、あった。と言うべきか。

 私の名前はアルキリア・ミルバ。ミルバ家の四男に生まれた。

 末っ子だった私が、親兄弟を見て育ち、騎士に憧れを抱くのにそう時間はかからなかった。


 この世界はでは、『レベル』『ジョブ』『スキル』が人生を大きく左右する。

 これらは、年齢を重ねていくうちに突如、神と呼ばれる存在から頭の中に示される。

 一般的に『天啓』とされている。


 いつ天啓が下されるかは個人差が大きい。20歳を超えてからの場合もあれば、物心がついたばかりの時もある。

 人間だけでは無い。獣人や森人(エルフ)、魔人などの所謂亜人もそうだ。高い知能を持つ魔物ですら神と呼ばれる存在から天啓を受ける。


 『天啓』は、下る早ければ早いほど能力が高いとされている。

 成人する少し前に天啓が下るのが一般的らしい。


 しかし、私の両親は10歳になる頃に天啓が下ったという。

 私の兄や姉も、全員そのくらいだそうだ。


 だが、私は6歳になった時、天啓が下った。


 家族は落胆した。

 何しろ、身内全員が騎士になれるジョブが与えられると思っていたからだ。


 父は『竜騎士』で母は『聖騎士』だ。

 3人の兄と2人の姉は、『重騎士』『騎士』『戦士』『戦乙女(ヴァルキリー)』『女戦士(アマゾネス)』というジョブであり、皆嬉嬉として騎士をめざした。


 そんな兄姉を見ていたからだろうか。私も、私の家族も、私が騎士に向いたジョブを得られると信じて疑わなかった。

 なんの根拠も無かったのに。


 私のジョブは『死霊術師(ネクロマンサー)』と『地魔導師』だった。

 滅多に現れない、2つのジョブを持つ者をダブルと呼ぶ。


 私は、天啓を受けた時、ショックで倒れ込み、目が覚めた後涙が枯れるまで泣き続けた。

 それほど、私にとって騎士とは憧れの存在だったのだ。


 騎士の家系から魔法使い系のダブルが産まれたのだ。しかも、世間から疎まれる『死霊術師』と役立たずと言われる『地魔導師』だ。

 本来、産まれなかったことにされてもおかしくなかった。

 貴族とは、メンツを重視する生き物だからだ。


 しかし、家族は応援してくれた。


 死霊術師の能力は、多大な魔力を対価にアンデッドと呼ばれるモンスターを召喚し、強化するジョブだ。

 だが、死霊術師に対するイメージも、コストパフォーマンスも悪すぎるので、基本的に扱いは最悪と言ってよい。


 地魔導師は大地に属するジョブの中で最上位に位置する。

 大地系統の魔法のほとんどを扱えるようになれるらしいが、こちらもコストパフォーマンスが悪く効果も地味だ。。


 どちらも魔法使い系統のジョブだったからか、魔力は文字通り溢れて止まらないほどあった。

 その魔力を用いて、身体強化などの魔力を扱えれば誰でも使える無系統の魔法を覚えられるだけ覚えた。


 身内総出で私の剣術の訓練をしてくれた。

 この国では、15歳から成人と見なされる。それまでに剣術を身につけ、騎士育成学校へ入学し、18歳で騎士になる許可を得る。


 そのために、私は毎日毎日件を振り続けた。

 朝から晩まで剣を振り、週に一度午前中の間は魔法を学び、また剣を振った。


 兄や姉と違い、戦闘職では無い私に『剣術』のスキルは努力して神に認められなければならなかった。

 『剣術』以外にも『武術』や『騎乗』のスキルなど、騎士として必要になりそうなものは全て得ようとした。


 スキルは、『アビリティ』という技などが内包された力の塊のようなものだ。

 『剣術』スキルなどに内包される『スラッシュ』というアビリティは、スキルではないただの剣術では決して再現できない。


 だが、スキルとして認められるほど努力すれば、ただの技術からスキルへと昇華させることができる。


 剣を振り続け3年が過ぎ、相変わらず一向にスキルを得られそうな様子はなかった。

 その頃には、両親以外は皆、私のことを諦めていた。


 そして更に2年。


 無駄な努力を続ける無能。

 そう罵られても剣を振り続けた日々の最中、唐突に天啓が下った。


 それは、血の滲むような努力がようやく身を結んだ瞬間・・・・・・などではなかった。

 私の心を砕き、両親が私を諦めるには十分過ぎるものだった。


 スキル『努力』『根性』『執念』


 6年間、1度たりとも休むことなく剣を振り続けた結果が、これだった。


 スキル『努力』は、訓練などがより効果的になり、『根性』は、精神力を大きく増強し、『執念』は、感情などに比例して魔力を大きく強化する。


 スキル『剣術』とは、なんの関係もないスキルばかりだった。


 この瞬間、私の追放が決定した。


 決して少なくない時間と金銭を注ぎ込んだ結果がこれでは、当然の判断だと自分でも思った。

 両親以外口を揃えて私の追放に賛成しただろう。


 最後に見た兄や姉は、ようやく消える、と口の端を釣り上げていた。


 追放される前夜のことだった。

 両親が私の部屋を訪ねてきた。

 父は、申し訳なさそうな顔で謝罪の言葉を口にした。容量の大きい魔法袋や、武器、金銭などを用意してくれた。

 母からは食料や旅に必要な知識などが記述された書物など渡された。


 恨んでも構わない、少しでも長く生きて欲しいとの事だった。

 時が経ち落ち着いたら、また顔を見せて欲しい、とも。


 両親にはたくさんの愛情を注いでもらい、騎士になれなかった私のことをここまで気にかけて貰ったのだ。

 感謝をすることはあっても、恨むことなどない。


 そう伝えると、私は涙を堪えきれなくなった。

 母の胸に飛び込み、感情のままに泣き叫んだ。父も優しく抱きしめてくれた。

 自分は両親に愛されていたと確信を持つことが出来た。それが嬉しかった。


 そして家を追放された私は、アルキリア・ミルバからただのアルキリアになった。


   〜 〜 〜


 どこまでも使い続く雲一つない青い空が、だんだん恨めしくなっていた。

 どうせなら、土砂降りの雨でも降ってくれれば良かったのに。そう思った。


 今までは、暮らしていた屋敷から遠くまで離れることは無かったので、母が用意してくれた地図や立てられた標識などを頼りに最寄りの町へ向かう。


 しばらく歩き続け、木陰に腰を下ろし休んでいた時だった。

 小汚い集団が私を取り囲んだ。


 恐らく待ち構えていたのだろう。

 木々が立ち並ぶ中で、ここは少し開けていて野宿には適している。焚き火の跡が残っている。

 ここで足を休める者は多いだろう。


 「私に、何か用でも?」


 私を取り囲んだ男達が次々と下品に笑い出す。


 「ゲハハハハ! ああそうだよ、坊ちゃん!」

 「テメェを殺っちまえば、俺たちゃお偉い騎士様からたんまり金が貰えるんでな!」


 私を殺せとゴロツキに依頼するお偉い騎士様、か。

 すぐさま脳裏に兄や姉の歪んだ顔が浮かぶ。


 最初に思いつく黒幕が身内とは、私もかなり歪んでいるのではないだろうか。


 「そうですか。生憎、あなた方程度に殺されるつもりは無いので」

 「ア゛ァ!?」


 一言煽りをいれ、ゴロツキ共に聞こえないよう呟くように魔法を唱える。


 「『サモン:スケルトン』」


 騎士になるのに必須のスキルは何一つ得られなかったが、魔法は週に一度の半日の練習だけでかなりのものになった。

 死霊術師のスキルやアビリティは魔力の消費が激しいが、ジョブが発現してから、年齢を重ねるにつれ魔力が更に増えていった。

 今ここで私が剣を持たないのは、過去との決別だ。


 一人一人のゴロツキ共の背後から、地中から這い出てくる骸骨達。

 カラカラと音を立ててゴロツキに絡みつく。


 「は、はぁ!? な、なんでこんな所に、モンスターが!?」

 「『アースバインド』『エンチャント:アンチシャイン』『ブースト:パワー』」


 地面がゴロツキ共の足に絡みつき固定された。

 アンデッド共通の弱点、太陽の光に対する耐性を与え、素早いがあまり膂力の無いスケルトンの力を強化した。


 騎士を目指して必死に訓練を積んできたつもりだったが、大した努力もしてない魔法の方が上手く扱えるなんて。

 どうして神は私にこんな力を与えたのだろうか。

 支配下のモンスターに戦わせ、自分は安全な場所で高みの見物。

 こんな力を望んだことなど1度たりとも無かったというのに。


 スケルトンはアンデッドの中でも下位のモンスターだ。

 しかし、一般人にとって十分な脅威である。


 「ぐわぁ! た、頼む、助けてくれぇえええ!」


 ゴロツキの一人が、スケルトンが私に襲いかからないことから、私が操っていると勘づいたようだ。

 だが・・・・・・。


 「あなた達は、私を殺そうとしました。ならば当然、自分が殺される覚悟もあるでしょう?」

 「そっ、そんな・・・! 頼む、お、お願いだ。お願いします、どうか、どうか俺だけでも、助け、ぎゃあああっ!!」


 縋り付いてきた男の背に絡みついたスケルトンが、指を体に抜き刺し、耳を噛み切った。

 周囲にいる10人程のゴロツキ達は、20分程で全員が息絶えた。

 抵抗できずに体を噛みちぎられ、穴だらけにされ、出血多量によりその命を落とした男達は恐怖に固められた顔をしていた。


 「はぁ。まさか、何も感じないとは。快楽殺人犯になるよりはマシでしょうけど。」


 血濡れのスケルトンに囲まれながら、そんな言葉を漏らした。

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