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創生の姫と最強の守護者  作者: 早瀬 翔太
序章
9/63

[記憶]

ようやく序章にあたるパートが終わります。

次回からは予定通りの投稿スパンで書いていきます。


 アレスの頭の中にあったのは見たことも無い青いクリスタルだった。

 二人はゆっくりと回転しながら明滅するクリスタルを見て言葉を失っていた。


 長い沈黙の後ようやくロアが口を開く


「うそ……こんなの知らない。見たことないよ。これがコア? これはアレスのコアなの?」

「やはり汎用コアでは無かったか。じゃが、これは一体? 儂も初めて見る。

 コアが本来あるべき場所にある以上、このクリスタルは紛れも無くアレスのコアという事じゃろう」


 ケーブルも無く、接続すべきパーツも無い。

 ただ頭の中で浮かんでいる原理不明のコア。

 しかし、取り出さない事には移植は出来ない。

 ロアは覚悟を決めるとアレスのコアを優しく両手で包み込む様に取り出した。


 瞬間、青く明滅していた核の輝きが増し倉庫を光が埋め尽くす。

 あまりに激しい光の奔流に目を瞑るロアとマルクス。


「なんと……」


 先に目を開けたのはマルクスだ。

 マルクスは眼前に広がる光景に息を呑む。

 それはヴェアリアスヘイムが建国された当時の風景。


 マルクスの声を聞きロアもゆっくりと目を開け辺りを見回す。

 一面に咲き乱れる花。そして遠くに見える見知らぬ人物の影が二つ。男性と女性の様だ。


「な、何これ? お花畑?」

「花じゃと? 儂には国の風景が見えておる」

「え? おじいちゃんにはこのお花畑が見えないの?」

「うむ。どうやら儂らは違う映像を見ておる様じゃな」


 アレスのコアを中心に広がる光景はやがて景色を変える。

 誰かの視点だろうか?

 ゆっくりと丘の上にいる人影に向かって歩いて行く様子が映し出された。

 ただ、先程までとは違い映し出された光景にノイズの様な物が混ざっている。


「丘?この丘ってお城の裏にある丘に似てる気がする」

「ふむ。今度は同じ映像が見えておる様じゃな」


 丘の上で佇む二人の人物に近付いていく。

 女性が振り返り顔が見えるかというところで映像が切り替わる。


 今度はどこかの部屋の様だ。

 ベッドの上で先程の人物と思われる女性が赤ん坊を抱いていた。

 傍らには男性が椅子に腰掛けて女性と何か話している。

 ノイズが酷くなり肝心の二人の顔は確認出来ない。

 視点の人物は女性の近くまで行くと何か言葉を交わして赤ん坊の頬を優しく撫でた。

 その手から視点の人物は男性だと思われる。


 女性の顔は見えないが、僅かに映る口元から優しく微笑んでいるのが分かる。

 女性は赤ん坊を抱き上げると彼に赤ん坊を抱くように言っている様だ。

 彼はぎこちない様子で赤ん坊を抱くとまた映像が切り替わった。


 ロアとマルクスは言葉を発することも無く、じっと映し出される光景に見入っていた。


 映像は次々と変わり、その中心にはどれも小さな女の子がいた。

 さっきの赤ん坊だろうか?

 女の子はある時は泣き、笑い、怒り、そしてまた笑い。

 彼の手を引いて楽しそうに丘を駆けていく。


 映像の中の女の子はやがて少女へと成長し、歩くたびに揺れる金色の長く美しい髪は太陽の光を反射して神秘的な美を醸し出している。

 その女の子は将来、誰もが羨む美しい女性へと成長するものと思われる容姿となっていた。


 ロアは次々と映し出される映像から温かさが伝わってくる様で、いつしか自分の心まで優しく包み込まれている様な気持ちになっていた。


「不思議、なんだかとても温かい。優しい気持ちが伝わってくるみたい」


 ロアはアレスのコアを胸に抱き温かさを噛みしめる様に呟いた。


 マルクスはもう二人の男女と少女の正体に気付いていた。

 湧き上がる懐かしさと共に後悔の念。

 今はもう失われてしまった大切な時間。


 ロアは知らない。

 映し出された二人の男女がロアの両親である事を。

 ロアは知らない。

 楽しそうに駆けていく少女がロア自身である事を。


 もし、今、ロアに本当のことを話したらどうなるだろうか?

 ロアはきっと愚かな自分を許しはしないだろう。


 ロアとアレスとの出会いはマルクスの抱える苦悩を振り払ってくれるキッカケになるかもしれない。

 新しい可能性を掴み取れるかもしれない。

 だが、今はまだそれを教える訳にはいかない理由がマルクスにはあった。

 マルクスは頭を振り、それらの気持ちを抑え込むと、ただ黙って移り変わる光景を眺めていた。


「これってやっぱり、アレスの記憶なのかな?」


 不意に出たロアの疑問にマルクスは何も言わず答えようとはしなかった。


「アレス、これはあなたの記憶なの?」


 ロアは胸に抱いたアレスのコアを優しく撫でた。

 すると今まで穏やかだった光が一層強く輝いた後、次第に赤黒く染まり始めた。


 映像は乱れ一面に炎と瓦礫が映し出された。

 その中に先程の少女の姿が見える。

 伝わってくるのは激しい怒りと深い後悔。


 彼は血に染まり横たわる少女の手を強く握りしめたまま泣いていた。

 目を閉じたまま動かない少女。

 聞こえるはずのない彼の慟哭がロアの胸を刺す。


 ロアは思う、きっと少女はもう目を覚まさない。


 それでも視点の人物は何度も繰り返し叫んでいた。

 既に冷たくなったであろう少女の手を握ったまま、何度も何度も何度も。


 ロアは確信した。

 理由なんか無い。

 映像から伝わる痛い程の感情を受け止め、察したのだ。


 彼はきっと少女の名前を叫んでいる。

 決して呪いの言葉などでは無いと。


 そうに違いないという気持ちに気付いた時、ロアの頬を一筋の涙が伝う。


 彼は少女の手を離し、少女の胸にそっと手を重ねると、震える手で血に濡れてしまった少女の美しい金色の髪をとかし始めた。

 そして、かつてそうした様に優しく頬を撫でたのだ。

 その様子にロアは、彼の心が激しい怒り、深い悲しみと絶える事のない後悔の念に埋め尽くされても尚、その心に僅かに残る温もりを感じられた気がした。


 嬉しかった。


 ロアはいつしか自分と映像の中の少女を重ねていた。

 こぼれ落ちる涙は止めどなく溢れて胸に抱いたアレスのコアを濡らしていた。



 映像はそこで突然途切れた。

 赤黒く染まっていた光はまた穏やかな青い光へと戻っている。


 ロアは何も言わないまま猫のオモチャにアレスを移し終えると、優しく抱き上げそのまま抱きしめた。

 マルクスはその様子を黙って見ているしかなかった。


 次々に映し出されたあの映像は間違いなくアレスの記憶。

 当時、マルクスは少女の最期に立ち会うことが出来なかった。

 報せを聞いて城に戻った時には既に少女の小さな身体は清められ、まだ生きているかの様な穏やかな顔で棺に納められていたのだ。

 大好きだったあの丘の花と共に。


 そして今、アレスの記憶により少女の最期の瞬間を知ったマルクスにはアレスに対する感謝の念が湧いていた。

 少女の最期を看取った者がアレスで良かったと。彼女は一人では無かったのだと理解した。

 だがそれは都合のいい想いだとマルクスには分かっている。

 自分がアレスにした事を思い出し、感謝の念が湧く自分自身に反吐が出そうになる。



「ねぇ、おじいちゃん」


 ロアは新たにアレスとなった猫を優しく撫でながらマルクスに話かける。


「あれはきっとアレスの記憶だよね?

 だったら……」


 言葉を振り絞る様にゆっくりと話すロアに何と声を掛けてやれば良いのかマルクスには分からなかった。


「多分、忘れていたままの方が良いと思う。楽しい想い出がたくさんある事も分かった。だけどーーー

 だけど、最後の想い出が、あんな……あんなにアレスを苦しめるものなんだとしたら。

 きっと、思い出さない方が良い」


 アレスが記憶を取り戻せばまた辛い記憶が蘇ってしまう。

 少女に手を引かれて丘を駆ける様子は幸せそうだった。

 頬を撫でた時に伝わって来た彼の温かい気持ちは、ロアの心をも温めた。

 しかし、最後に見た映像から伝わって来た悲痛な叫びはロアにとって、見ていられない程に苦しいものだった。

 あんな想いをまたアレスがするくらいならいっそ……


「ロア、じゃがーーー」

「私が!ーーー私が、アレスに沢山楽しい想い出が出来る様に、沢山笑って過ごせる様に、もう辛い記憶を思い出す必要が無いくらい楽しい記憶をあげるよ。

 いつまで一緒にいられるかは分からないけど、私にはそれくらいしかしてあげられないもの」


 アレスを抱きしめたまま涙を流すロアをマルクスはこれ以上見ていられなかった。


 アレスの記憶がどうして突然映し出されたのかは分からない。

 しかし、ロアに見せるべきでは無かったとマルクスは思う。


 いずれは知るかもしれないだろうが、まだ早かったのだ。

 ロアはアレスの記憶にあてられて感情が高ぶっている。

 そう判断したマルクスはロアを落ち着かせる為に眠りの魔法をかけた。



 アレスを抱いたまま眠りに落ちたロアを抱えてベッドへ運ぶ。


「今日一日でいろんなことが起こり過ぎた。

 お前達が掴む未来がどんな結末を迎えようとも儂はお前の味方じゃ。今はゆっくり眠ると良い」


 マルクスは眠るロアに語りかける様に話し終えると静かに部屋を出た。




 しばらくして目を覚ましたアレスは無事に猫の身体に移っているのを実感した。


「どうやら無事に終わったみたいだな。

 手足の感覚があるのは嬉しいけど、四足歩行は初めてだから違和感があるな」


 もぞもぞと自分の手足の感覚を確かめた後、周りを見渡してアレスはある事に気付いた。

 寝ているロアに抱かれている。

 アレスはロアの腕の中にいたのだ。


「やれやれ、俺はペットじゃないんだけどなぁ」


「アレス……」


「ん? 起きたのか?」


 アレスはロアの顔を見上げる。

 目を閉じたまま寝息を立てるロア。

 どうやら先程のは寝言だったらしい。

 その時、一筋の涙が頬を伝う。


「泣いているのか?」


 何か悲しい夢でも見ているのだろうか?

 起こすべきか悩んでいると再びロアが寝言を言った。


「アレス〜、ふふふ……」


「今度は笑ってやがる。

 泣きながら笑うなんて器用な奴だな。

 どんな夢を見ているのやら。

 まぁ良いさ、改めてよろしくな、ロア」


 アレスはロアの頬を流れる涙を舌で舐めてそう言うと、またロアの腕の中に戻って行った。


「ふむ、案外寝心地いいじゃないか。お休み、ロア」


 アレスはロアの腕の中で丸くなると目を閉じてスリープモードへと移行した。


 唐突な出会いから始まった二人の長い一日がようやく終わった。



これにて序章は終わりです。

何処までこの先の情報を出すのか悩みました。


次回より新章が始まります。

二人の物語を楽しんで頂ければ幸いです。

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