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創生の姫と最強の守護者  作者: 早瀬 翔太
序章
5/63

[ヴェアリアスヘイム]

長文は苦手です。

慣れるしかありませんが、話の整合性を取るというのは難しいですね。


ほぼ説明回です。

読み辛いかもしれませんが、大切な話でもあります。

宜しくお願いします。

「さて、もう出て来たらどうじゃ?

 ずっと見ておったのじゃろ?」


 マルクスは誰も居ないはずの森に向かって話しかける。


「お久しぶりですわね、マルクス王。ずっとではありませんわ。来たのはほんのさっきですもの」


 現れたのは妙齢の女性。

 長く黒い髪に真紅のドレスを身に纏い、その佇まいからは何とも言えない妖艶さを感じさせる。

 男が十人いれば間違いなく十人振り返るであろう美を持つ女性。


「相変わらずぬけぬけと。

 まあ、よい。それと、今はただの爺いじゃ。もう王では無い」

「それは失礼。しかし、我等十二貴族は今でも貴方こそがこの国の真の王であると思っておりますわ」


 フレイヤと呼ばれた女性は大して悪びれた様子もなく淡々と返す。


「十二貴族か……」

「ええ。前回の大規模戦争から約三百年、我々は王によって定められた約定に従い国を治めています。ですが、未だに玉座は空のまま」

「お前達はよく治めておるよ。少々問題のある奴もおるがの」

「いつ、お戻りに?」

「言ったであろう。儂はもはや王では無い。いずれ新たな王がたつじゃろうて」


 フレイヤは微かに笑うと、首を振ってマルクスの言葉を否定する。


 マルクスが玉座を空けて約三百年。

 大規模戦争の後、マルクスは突然王位を返上し姿を消した。

 戦争の傷跡も癒えぬまま玉座を降りたマルクスを非難する者もいたが、国民の多くはマルクスの王位復権を望む者達だった。

 マルクスは国民に愛され必要とされていた。

 だが、次代の王を望む声が無かった訳では無い。

 有能な者が、我こそが王たらんと名乗りを上げた事もある。

 だが、いずれも十二貴族達によって抑え込まれた。

 その理由はただ一つ。

 竜王が新たな王がたつ事を認めない為だ。




 この国は代々一人の王と十二貴族によって統治されていた。

 竜の興したこの国の名はヴェアリアスヘイム。

 多くの国で王は世襲が基本であるが、この国の王は世襲では無い。

 代々の王は竜王によって指名されるのだ。

 では、玉座が空になっている現在、国の統治はどうしているのか?という話になる訳だが、そこで登場するのが十二貴族達である。


 王が不在であっても国の統治を続ける手段として建国時、竜王によって制定されたのが十二人の代理者による代理者統治だ。

 国土を十二の区画に分け、新たな王が指名される迄の間、区画毎に粛々と統治が行われる。

 その十二区画を統治する代理者こそが十二貴族と呼ばれる者達だ。


 ではもう一つ、何故一国の統治に十二人も代理者が必要なのか?

 その理由はヴェアリアスヘイム建国時に関わる逸話が始まりとされる。




 元々この地には大小十二の国があった。

 竜王は人間達が日々つまらない争いをしているのを自分の住処から眺めていた。

 最初こそ人間達を興味深く眺めていたが、見えてくるのは人間の醜さばかり。

 人間達は些細な事で争い合い戦争を繰り返していた。

 それはやがて十二の国全てを巻き込んだ戦争へと発展する。


 竜王が幾年経っても同じ過ちを繰り返す人間を観察するのにも飽きてきた頃、一人の若者が竜王の住処を訪れ、竜王に懇願したのだ。


 人間達の争いをどうか鎮めて欲しいと。


 勿論、竜王は若者の話を聞き入れなかった。

 人間同士の争いに神にも等しい存在である竜が、その超常の力でもって介入するのを良しとしなかった為だ。

 そして何より、人間の話など信用出来ないと竜王は思っていた。


 若者は長い旅の果てにやっと竜王の住処に辿り着いたものの、竜王は若者の話に耳を傾ける事は無く、必死に訴え続ける若者を見ようともしなかった。


 しかし、若者は諦めなかった。

 竜王に対し人間の愚かさだけでは無く、可能性を説いたのだ。


 来る日も来る日も竜王の元を訪れては必死に説く若者に竜王はいつしか興味を抱く様になる。

 いつもの様に身体を横たえたまま目を瞑り若者の話を黙って聞いていた竜王だったが、ある日若者へ一つの質問を投げかけた。


「お前は必死に人間の可能性を説くが、仮に我が力を貸したところで欲に塗れた人間の争いは無くなりはしない。

 奪い、奪われ、殺し、殺され。

 人間とは度し難い生き物だ。

 そんなにも愚かで、欲に支配された人間が真に欲する物はなんだと思う?」


 初めて聞く竜王の声。

 じっとこちらを見つめている眼光は鋭く圧倒される。

 若者は考える。


 強者は奪い続ける。

 弱者から何もかもを奪い去っても、まだ奪う。

 そこにある真意は何なのか?

 満たされない欲求の根底にある物とは?


 若者は知っていた。

 本当に欲しい物を。

 目を見開き、竜王の鋭い眼光を真っ直ぐに見据え答える。


「それは家だ。雨風を凌ぎ、温かいベッドに温かい食事、そして家族。

 確かに人間の欲は底知れず愚かな生き物だ。簡単に道を踏み外す。争う事もあるだろう。

 しかし本来、人間とは僅かな幸福とそれを護る家があれば心は穏やかでいられる。

 それ以上の事は努力であり、人間性の問題だ。

 私は信じている。

 何者の侵略も許さず、家族を護る父の様な王が治める国ならばそれらを成し得るだろうと。

 簡単な事では無いのは承知している。

 だが、それでも…それ故に!人間にはいつでも安心して帰って来られる居場所が必要なのだ」


 竜王は若者が話し終えるまで面白そうに若者の話を聞いていた。

 若者は言った。

 欲しいのは家だと。

 平和だとか安寧だとか、そんな言葉を用いて曖昧な理想をこの若者が吐いたなら、協力など絶対にあり得ない。

 所詮その程度だ、反吐が出ると思っていた。

 しかし、違った。

 若者は平和と安寧の根底を欲している。

 良い意味で期待を裏切られた竜王は実に楽しげな様子で若者に告げる。

 

「ならばお前が父となれ。国という名の家を、国民という名の家族を護る王になるのだ。

 お前の理想、いや、願望か?それは茨の道ぞ。

 だが、気に入った。我はその為になら、ただ一度だけ力を貸しても良い」

 

  若者は力強く頷いて竜王に答えた。

 

  やがて竜の背に乗った若者が戦場へと降り立つ。

  竜王と若者は十二の国々を全て滅ぼし、一つの国へと平定していった。


  竜王は人間達に新たな国の建国を宣言した。

  若者を初代の王に据え、新しい家を作る事を告げた。


  竜王を祀る国の名はヴェアリアスヘイム。

  多様な家の集まる場所である様にという願いを込めた名だ。


 こうしてヴェアリアスヘイムは実質十二の国を内包する巨大集合国家として誕生したのである。


 国としての体裁が整った頃、竜王は王となった若者に条件を付けた。

 王の世襲を認めないというものだ。

 世襲が全て悪い訳では無い。

 しかし、子が、孫が、若者と同じであるとは限らない。

 竜王が認めた若者の様に、家を、家族を守る為に竜王を説き伏せるだけの器量を持った者でなくてはならない。

 野心で国を治める者はヴェアリアスヘイムの王に相応しく無いという判断からだった。


 人の身は短命である。

 永き刻を生きる竜にとっては人の一生など刹那の事でしかない。

 若者の様な者はそうそう現れるものでは無いと竜王は理解していた。

 故に玉座が空になった場合、竜王が次の王を決めるまでの間、家の留守を預かる者が必要だろうと、かつての十二の国々と同じ数、十二人を選び留守を預かる代理者としたのだ。

 十二貴族の始まりである。


 それぞれが小国と同程度の規模となるように国土を配分し機能を分けて統治する事でようやくヴェアリアスヘイムという大国は機能する。

 これは王以外の者に権力が偏るのを防ぐと同時に国力の低下を防ぐ目的が強い。

 そして何より、竜王によって認められる程の王でなければ十二の国を内包するヴェアリアスヘイムを統治するなど到底不可能だからだ。





「空間を遮断しておったが、よく気付いたものよ」

「うふふふ。ここは私が統治を任されている区画ですもの。

 その領域内で突然空間が遮断された場所が出現すれば異変に気付か無い方がおかしいですわ。

 しかし、それもわざと分かる様になされていたようにお見受けしますけれど?」


 ころころと表情を変えながら全てを見透かした様な喋り方。それでいて視線には常に警戒の色を絶やさないフレイヤという女性についてマルクスは十二貴族達の中ではマシな方だと考えている。


 かつての部下達は有能な反面、どうにも癖の強い者が多い。

 いつもマルクスの頭を悩ませる元凶達であった。

 もっとも、そういう者達でなくては代理とは言え、一国に匹敵する区画の統治を任せる事など出来なかったのも事実なのだ。


 王によって選ばれた王直轄の十二人の貴族達による組織。というのが国民達の共通認識であるが、それは表向きの話である。


 十二貴族達はそれぞれが一国の王としての能力、野心を秘めており、我こそが王たらんと自負している。

 彼等が人外の者達である事は国情に詳しい者であれば誰もが知る事だ。

 この世界で王とは野望を持ち、その行動力とカリスマ性でもって民を導く者を指す。

 だが、このヴェアリアスヘイムにおいて十二貴族達はこう言われる、野心を持つが故に王になれない者達だと。



 マルクスは警戒を緩めないフレイヤをさして気にするでも無く自然に返答する。


「そんなつもりは無かったがのぅ。まあ良い。今は時間がないのでな、率直に言う。

 お主に一つ頼みたい事がある」

「頼み…… 何でございましょう?」


 本来なら只の一般人だと言った老人の頼みなど、十二貴族の一人である彼女が聞く必要はない。

 しかし、彼女は何の戸惑いも無く老人の頼みを聞く姿勢を示す。


「お主の管理する機械人形技師学園で少々騒がしい事になるやもしれん。

 手を差し伸べろとは言わぬ。あの子らを見守ってやってくれぬか」


 フレイヤは何かを察すると笑みを深くする。


「その機械人形の件ですわね。

 良いでしょう。私も退屈せずに済みそうですわ」

「無茶はしてくれるなよ」

「勿論ですわ」


 フレイヤはマルクスの頼みを了承すると、スッと森に溶けていく様に姿を消した。

 マルクスはフレイヤの気配が完全に消えたのを確認すると胸元の懐中時計を見る。


「おっと、いかん。少々時間がかかってしまったわい。どれ、帰るとするかの」




 フレイヤは笑いが堪えられなかった。

 あのマルクスにまさか頼みごとをされるとは驚いたが、これから起こることを考えると愉快で仕方ない。


 竜王とマルクスの会話が全て聞こえた訳では無いが、間違いなくあの機械人形には何かある。

 

 玉座を空け、王位を退いたはずのマルクスは未だ竜王と繋がりがある様子。

 統治を預かって約三百年、マルクスの真意は掴めなかったが、常に監視し動向は伺っていた。

 そして、ついに事態は動き出したのだ。

 鍵を握っているのはおそらくあの機械人形だ。


 愉快だ。本当に愉快だ。

 彼女の居城に笑い声が響く。




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