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創生の姫と最強の守護者  作者: 早瀬 翔太
序章
4/63

[竜王]

誤字、脱字の確認が…

 爺さんが何をしたのかまるで理解出来ない俺は目の前に佇む巨大な竜の姿をした物を見て唖然としていた。


 竜機神、爺さんはそう言った。


(さっきの呪文みたいなやつで呼び出したのか?)


 竜なんて伝説の生き物だと思っていたが、実際にその雄々しい立ち姿を見てしまっては竜の存在を認めざるをえない。

 しかも竜王だと?


 目の前の魔物が小さく見える。


 召喚の魔法陣が消えると、竜王と呼ばれる存在は魔物を一瞥した後、爺さんの方に首を傾け目を細めた。


(スゲェ、竜なんて初めて見た……)


 竜、伝説の生き物。

 残念ながらはっきりとは見る事が出来ない俺は、ぼんやりとだが見えるその姿を想像し感動していた。

 すると突然、竜王はいきなり流暢に喋り始めた。


「なんだマルクスよ。久方ぶりに召喚したと思って出て来てみれば、このような雑魚と我を戦わせようと言うのか?

 しかもこの身体。どうせ我を呼び出すなら本体を呼べ」

「仕方なかろう。今は事情が事情故、おぬししか召喚出来る者がおらなんだのだ。

 それにじゃ、おぬしの本体なんぞ召喚したら儂が魔力切れで干からびてしまうわ」


 伝説の竜はめちゃくちゃフランクな奴だった。


 もっとこう、何と言うか荘厳な?

 神聖な感じとかそういうものじゃないのか?


 会話から察するに、目の前の竜は本体では無いらしいが、それでも圧倒的な存在感を放っている。


「ふん、まあよい。しかし、相変わらずジジくさい喋り方だな。どうにかならないのか?」

「余計なお世話じゃ。おぬしと違って年相応というものを弁えておるだけじゃ」

「何を言うか! 我はまだ若いぞ! まだ十万と数千年しか生きておらん!」


 十万て、とんでもなく長生きだけど、正直意外だった。

 俺が知っている物語に出て来る竜は大抵、世界が創生された頃から生きているものだった。

 それを考えると十万歳って確かに若い様にも思える。


(存在がファンタジー過ぎてよく分からないぞ)


 俺のしょうもない考察を余所に爺さんと竜王の会話は続いている。


(なんだかさっきよりヒートアップしてないか?)


「だいたいあの召喚呪文は何じゃ!あんなもの無くとも召喚に応じるくらい出来るじゃろう。

 毎回あんな恥ずかしい呪文を唱えなければならん儂の気持ちを考えよ!」

「何だと!あの呪文は我が考えに考えぬいた傑作だぞ!それに召喚の演出も格好良かったであろう!」

「あんなものは魔力の無駄使いじゃわい!」


(え?召喚呪文って別に必要無いのか?

 あの召喚の演出に感動してた俺って……)


「そ、そんな……! 一生懸命に考えたのに……おのれ!」


 爺さんの唐突なカミングアウトに狼狽える竜王。

 最初に登場した時の威厳に満ちた姿は見る影もない。


(なんだかなぁ、どんどんイメージと掛け離れていく)


「次からは普通に呼ぶからの」

「な!? カ、カッコイイではないか! あの呪文の良さが分からんとは、やれやれ貴様も耄碌したものだ。

 歳はとりたくないものだな、マルクスよ」

「おぬしに言われたく無いわ!」


 何だ何だ? 久しぶりに会った友人の様に軽口を交わす二人。

 と、思ってたら喧嘩し始めやがった。

 完全に置いてけぼりだ。

 あの呪文、俺もちょっと良いなあとか思ったのは言わないでおこう。


(ていうか、爺さんの名前マルクスって言うのか)


 そうこうしている間も魔物は無視だ。

 俺は魔物に意識を向ける。

 突然現れた竜を警戒したのか、ゆっくりと後退している。

 その動きは先程まで興奮していた魔物と同じ奴とは思えない程慎重に、まるで捕食者に狙われた小動物のごとく、ゆっくりと気付かれないように遅々としたものだった。

 恐らく魔物は本能で悟ったのだろう。

 圧倒的な力の差というやつを。


(って、それとなく言ってみたが単に二人の会話に引いてるだけなんじゃ……)


「な、なあ。魔物……」


 俺の言葉に竜王が反応する。


「なんだ貴様は? ーーーふむ。そういう事か。

 マルクスよ、面白いことになっているではないか!」


 何やら一人で納得して頷く竜王。

 さっきからずっと置いてけぼりばかりで、この扱いにもう慣れて来た。

 何だろうこの感じ、さっきの爺さんも同じ感じだったな。

 二人とも似た者同士か?


「そういう事じゃ。時間もあまり無いしの、まずはアレを片付けてもらえんか」

「おお、忘れておったわ。では、片付けるとするか」


 軽く応えた竜は振り返りざまにその長い尾を振り抜く。

 強烈な風が吹いた後、魔物は反応することも出来ずに胴体を真っ二つにされ活動を停止した。


 一瞬だ。

 あの巨大な魔物を尾の一薙で屠ってみせたのだ。

 言葉が見つからないとはこういう事なのだろう。

 俺は何も言えず崩れ落ちる魔物を見ていた。

 竜は既に何でもないと言わんばかりの態度でこちらに向き直っている。


「片付いたぞ。説明してもらおうか」

「まあ待て。先ずは自己紹介が先じゃ。儂の名はマルクス、こちらの偉そうな竜は、そうじゃのう、竜王と呼べば良いじゃろう」

「ぬっ! 我の名をきちんと紹介せぬか!」


(偉そうってのは否定しないんだな……)


 竜王にマルクス爺さんか。

 面白そうな二人だが謎が多過ぎる。

 だいたい遺跡を出たばかりだというのに話が急展開し過ぎなのだ。

 俺の事を知ってる風だったけど、竜王も俺の事を知っているのだろうか?

 とりあえず当たり障りの無い事から聞いてみるか。


「竜王以外にもちゃんとした名前があるのか?」

「あるにはあるが、聞いたところで竜王の真名は同じ竜種以外には発音出来ぬよ」


 名前を言ってもらえなくて竜王は不満そうだが、発音出来ないってのは竜言語だからか?


「そのくらいで良かろう。さっさと本題にはいるぞ。

 さて、貴様の分かる範囲で良い。

 状態を説明してみよ」


 状態? 状況では無く状態?

 疑問に思いつつ、俺は現在に至るまでの経緯を順を追って説明した。

 これで俺が何者なのか分かるのなら何でも話してやろうじゃないか。


 閲覧不可能なデータが多いので断片的な話ではあるが、大体の出来事は説明出来たと思う。

 二人とも俺の説明が終わるまで黙って聞いていた。


「ーーーと、こんなとこだ。

 正直なところ俺自身、何が何だかサッパリでね。これ以上はいろいろ修理してみないと分からない」


 俺が説明を終えると竜王は先程までのフレンドリーな雰囲気が嘘の様に重々しく口を開いた。


「そうか。では、一番重要な……これは大切な質問だ。

 ーーー貴様の名は何と言う?」


 名前? 何で今更名前なんか?

 確かに自己紹介してなかったけど、俺の状態とやらを知ることに関係しているのか?


「俺の名前は……あれ?

 俺の名前……

 何でだ? 分からない」


 俺は自分の名前が分からない事に困惑する。

 確かに機能は劣化しているし、閲覧出来ないデータも多かった。

 だが、だとしてもだ。一番肝心な自分の名前が思い出せないなんて事が……

 そう言えば、少女の名前を知らないと気付いた時もそうだ。

 俺も自分の名前を……言ってない。

 いや、言えなかったのか?


 竜王は目を閉じてしばらく沈黙した後、薄っすらと目を開けると何かの魔法を発動させた。


「成る程。貴様の状態は理解した。

 マルクスよ。我も面白いと思ったが、今はまだその時では無いようだ」

「そうか、案外すんなりと事が進むと思うたんじゃが、おぬしが言うなら間違いなかろう。

 しかし、これはちとややこしい事になっておるようじゃな」


 困惑する俺をまたも置き去りにして会話を進める二人。

 状態を理解したとはどういう意味なのかサッパリだ。


「今は確認が出来ただけて良しとするしかあるまい。ともあれ歯車は再び動きだした。

 嘗て我らが決断した事がひっくり返るやもしれん。実に結末が楽しみではないか。

 なぁ? マルクスよ」

「……」


 歯車? 結末?

 一体何の話をしているんだ?

 爺さんは竜王の言葉に何も答えなかった。


「さて、用は済んだ。我は戻るとする」

「分かった。後の事は儂に任せてもらうぞ」

「うむ」


 竜王は頷くと光の粒子になって消えてしまった。元の場所に帰ったのだろうか?


 爺さんは剣を鞘に納めると空間を遮断していた結果を解いた。

 我に帰った俺は爺さんに疑問をぶつける。


「爺さん、教えてくれ。俺は何者なんだ? さっきの会話を聞いていたが訳が分からない。

 俺が俺を認識出来ない事と何か関係があるのか?

 あの竜王って奴もそうだが……

 爺さん、あんたも何か隠してるんだろ?

 俺は一体…」


 竜王は言った。

 歯車は再び動き出したと。

 結末が楽しみだと。


 俺は長い間あの研究施設跡の遺跡にいた。

 それは間違いない。

 しかし、それより以前は?少女に出会う直前までは?

 駄目だ、自分の名前を認識出来ないと気付いてから記憶がどんどんあやふやになっていく。



「竜王と対峙すれば、儂が教えるまでもなく自ずと思い出すかと思ったんじゃが当てが外れたのう。すまんが、あの子が待ちくたびれておる頃じゃろうし今はここまでじゃ」

「待ってくれ! 何で何も教えてくれない。思い出すって何だよ! 何を隠しているんだ!」


 あやふやになっていく自分。

 今まで味わった事の無い不安が押し寄せる。

 このままでは俺が俺では無くなる。

 そんな不安が纏わり付いて離れない。


「落ち着かぬか。別に隠しておるわけではない。ただ、今のお前に何を言っても理解出来はせぬ」

「そんな事聞いて見なけりゃ分からないじゃねぇか!

 あれだけ勿体ぶっておいて何も教えてくれないってのか……」


 興奮の収まらない俺を見て、爺さんはやれやれと言わんばかりに溜め息をつくとゆっくりと喋り始めた。


「ならば問うが、お前は自分が人間の様に思考し、人の言葉を喋っている事に疑問を感じた事があるか?

 感情を持っていると言えるか?」

「何を言っている? 俺は機械人形だ。コアだって確かに……」

「自分の頭の中を見た事が無いのにか?」


 俺は元々、人間に似せて作られた存在だ。

 疑問に感じるもなにも、そういう風に作ったのは人間だ。


 だが俺は自分にコアがあると言おうとして違和感を感じていた。


 自分で自分の頭の中を見れはしない。


 確かにその通りなのだが、機械人形である以上、コアは存在する。

 今は出来ないが、データの閲覧が可能になればもっと詳しい事が分かるはずだ。


「ならばもう一つ、貴様は三百年以上もの間、あの遺跡にいた。それは確かじゃろう。

 じゃがな、三百年前も今も機械人形は機械人形じゃ。

 どれだけ人に似せて作られておっても、人にはなれん。ましてや人の様に思考し感情的に喋るなど出来はせんのだ」


 どういうことだ?

 俺は機械人形だ。現に身体は朽ちてしまって頭しか無い。そんな状態の俺が人間であるはずがないだろ?


「言ってる意味が分からない。それじゃあまるで俺が機械人形じゃ無いみたいじゃないか」


 頭が混乱する。

 機械人形は機械人形でしかない。

 なら、俺は? 人間? そんな馬鹿な事があるはずが無い。


「じゃから言ったであろう?今の貴様に言っても理解出来ぬと」


 何だよ、結局何も分からないじゃないか。

 俺は俺だ。

 機械人形が人間みたいに考えたり喋るのがそんなに変なのかよ?

 だってそういう風に作られたんだろ?

 俺は俺じゃないのか?

 駄目だ、さらに頭が混乱してくる。


「一つだけ教えてくれよ爺さん。今のって言ったな。それは俺がこんなナリだからか?

 俺が、壊れているからか?」


 爺さんは髭を撫でながら俺を見据えた。


「いいや、貴様は壊れておらんよ。もちろん見た目は壊れておるがな。

 じゃが、いや、やめておくかの」


 爺さんは俺に手をかざすと続けて言った。


「やはり今話しても無駄じゃ。それと、此度の記憶を消してやろう。その方が良い」


 暖かい光が俺を包み込む。

 爺さんは何かの魔法を発動させたらしい。


「待ってくれよ! 結局俺は、何も……!」


 意識が遠のいて行く。

 爺さんが静かに喋る声が聞こえる。


「すまんかった。お主を混乱させるつもりでは無かった。

 あの子と一緒にいるお前を見て、もしかしたらと思った。

 儂は気持ちが焦っておったのかもしれぬ。

 ただ、こうも思っておった。

 お前たちが再び出会う事が無ければ良いと、な。儂の手であの子がやがて迎える結末をどうにかしてやりたかったのだ。

 ーーーいや、違うな。

 お前達が決して出会わぬ様に遺跡を封鎖する事は容易かった。じゃが、儂はそれをせなんだ。

 あの遺跡をわざと残しておいたのは、我らが描いた結末とは別の結末を、もしかしたらお前に期待していたのやもしれん。

 さて、じきに魔法の効果が出る。目覚めた時には記憶は消えていよう。

 安心せい、あの子と出会った記憶は消しはせぬ。

 最後に、これは儂の願いじゃ。

 目覚めた後、どうかあの子の支えになってやってくれ」


 朦朧として薄れ行く意識の中、爺さんの寂しそうな顔が一瞬だけはっきりと見えた気がした。


「あ、当たり前……だ。約束……俺がーーーを救っ……て、や、る」

「お主、まさか記憶が」



 俺は完全に意識を失った。

 最後に爺さんの驚いた顔だけが微かに浮かんで消えた。


 魔法の発動が終わり、物言わぬ機械人形の頭を抱えてマルクスは空を仰ぐ。


 機械人形が最後に口にしたのは間違いなく過去の記憶。

 竜王に会い、直接その波動に触れればもしかしたら記憶を取り戻すのではないか?

 その思惑は外れたが、意識が朦朧とする中で機械人形は記憶の断片を口にした。

 もしかしたら偶然だったのかもしれない。

 それでもマルクスには機械人形が一瞬、かつての友であった様に思えたのだった。


「そうか。やはりお前は運命に抗うのだな、アレスよ」



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