[脱出]
タイトルが決まらないんです。
んー、皆さんどうやって決めているんですかね?
話の内容よりもタイトルを考えている時間が長くなって来ている様な…
近づいて来る。
振動の大きさからして大型の魔物であるのは間違いだろう。
魔物の足音から異常な程の重量を感じる。
近づいて来るにつれて周囲の瓦礫が崩れ始めた。
(これはちょっと本気でヤバいかも…)
俺はこれ以上、少女を不安にさせないように、なるべく平静を装って声をかける。
「よし、ちょっと予想よりデカい魔物の様だが、これなら作戦通りにいけるかもな。
準備は良いか?俺が奴の注意を引いているうちにどうにかそこから抜け出せよ? やるぞ」
部屋は暗く未だに魔物の姿ははっきりとは見えないが、早くヤツの注意を引いておかないと少女の存在に気付かれてしまう。
いや、既に気付かれていると思っておいて間違い無いだろう。
俺の視覚はあまり役に立たない。暗視モードがほぼ使えなくなっている。
(まともに機能しているのは感知センサーだけか)
俺は感知センサーの感度と声量を最大限に引き上げ魔物が向かって来る方角に向かって挑発を開始する。
「おい!そこのデカブツ!人様の部屋に無断で入り込むとは良い度胸だな!」
声に気付いた魔物はゆっくりと俺に向かって進路を変えた。
感知センサーを最大にした事で魔物の輪郭がある程度は分かる。
やはりデカい。
この遺跡は元が研究施設なだけあって広さに余裕を持って作られているが、奴の大きさは天井スレスレだ。
しかし、異様な外見だ。
魔物にしては妙に角張っている。人工的と言うか、どう見ても生物って感じじゃあない。
「随分とデカい野郎だな!俺がせっかく整えた部屋のレイアウトが台無しだ、どうしてくれるんだ!」
言っている事がめちゃくちゃだ。
自分でも何言ってるのか分からないが、とにかく重要なのは注意を引く事。
俺は魔物の注意が少女に向かない様に挑発を続ける。
「悪いが改装中でな、暗くてお前の顔が見えねぇんだ!もっと近くに来い鈍間野郎!お前の汚い顔を見ながら俺様が説教かましてやるぜ!」
魔物は一瞬動きを止め首を傾げる仕草をしたが、再び歩き出す。
あと五メートルという所まで来た時、少女が埋もれている瓦礫が崩れた。
(良し!作戦通りだ、これで脱出出来るだろ。後は逃げるだけだ)
センサーで少女が瓦礫から脱出したのを確認する。
しかし、少女は動かない。
(何で動かない! 脚でも怪我したのか? それとも恐怖で?)
その間にも魔物は近づいて来る。
俺は堪らず少女に向かって怒鳴る。
「馬鹿野郎!止まるな!走れ!走れよ!」
逃げるチャンスは今しかないのだ。
俺の作戦とも呼べない挑発が成功しているこの瞬間しかないというのに、何を悠長に突っ立っていやがる!
魔物が少女に向かって歩き出す。
終わった。
もう助かる可能性は無いだろう、せめて苦痛無く最期を迎えられる様に祈るしか無い。
「まだです!」
少女は自分の震える脚をパンッと一発叩いた後、一言叫ぶと俺に向かって走り出す姿勢をとる。
「な!こっちじゃなーーー」
俺が言い終わるより早く、少女は素早く俺のもとまで来ると、俺の頭を抱きかかえて猛然と走り出した。
魔物の股の下を滑る様に走り抜けると入り口を目指して一気に加速する。
少女は諦めてなどいなかった。
作戦通り俺など見捨てて逃げれば良いものを、少女は俺を抱えて逃げる事を選択したのだ。
俺を抱えた少女の手はまだ震えていた。
だが、俺の視界に映った少女の目は凛とした輝きを放って前を向いている。
(こいつ、諦めて無いってのか)
魔物が少女を捕まえ様と伸ばした手がゴウッと音を立てて少女の髪を掠める。
大型の魔物は瓦礫に阻まれて小回りが利かない様だ。
崩れた瓦礫を避けながら走り続ける少女の腕の中で俺は自然と笑い出していた。
作戦通りに動かなかった事への怒りなどもうどこかへ消えてしまっている。
「あははははは! お前、面白いな!」
「私、逃げ足には自身があるんですよ」
「だからってこんな事思い付くかよ! あははは!」
大型の魔物だからといって動きが遅いものばかりとは限らない。
少女が瓦礫から抜け出した後もすぐに動かなかったのは恐らくタイミングを計っていたのだろう。
近すぎても遠すぎても駄目。
もしタイミングを間違えていたら先程の魔物の手は確実に少女を捕らえていたに違いない。
あの絶望的な状況から逃れられる可能性など無いに等しかった。
俺が立てた作戦だって苦し紛れのヤケクソみたいなものだ。
魔物が俺に向かって来たのだって上手くいく確証なんかなかった。
でも少女は違った。
怯えて震えながらも、じっと堪えて魔物の動きを観察していたのだろう。
大した奴だ。そう思った。
自信が無いなんて自分で言っていても、ここ一番で見せた冷静な判断と度胸はきっとこの先彼女の大きな武器になるはずだ。
恐らく本人も自覚していないだろう。
愉快で堪らない俺は密かに彼女の力になってやろうと誓った。
理由?多分、俺は彼女の事が気に入ったのだ。
理由なんてそれで十分だ。
「出口が見えました! あと少し!」
「油断するなよ! 出口を出ても外に他の魔物がいるかもしれない! 止まらずに町まで突っ走れ!」
「はい!」
入り口を飛び出して一気に坂を下っていく。
研究室に侵入して来た魔物はまだ追って来ているかもしれないが、どうにか安全な距離まで振り切ったはずだ。
しかし、まだ安心は出来ない。
少女の声が何処まで聞こえていたのか分からない以上、他にも魔物がやってくる可能性がある。
何より少女の体力が町まで持つかも分からない。
だが、それらは予想であって不安では無かった。
俺は今まで感じた事の無い愉快な気持ちで満たされていた。
きっと少女は町まで走り切る。
そんな確信に近いものを感じていたのだ。
町の明かりはまだ見えない。
俺は周囲の状況を把握する為に全方位に向かってセンサーを最大限に稼働させた。
急激な負荷に俺のセンサーが警告を発する。
「クソッ、おんぼろセンサーめ」
感知は調整すればどうにかなりそうだが、視覚は光の調整が出来ずもはや機能を果たしていない。
どのくらい走り続けただろうか、少女の呼吸は荒く、足元もおぼつかない。
限界なんてとっくに越えているだろう。
途中何度も転びそうになったりしながら、それでも必死に町を目指して走り続ける。
本当に面白い奴だ。
「やった! 町の明かりが見えた! 後は町まで辿り着ければ……」
少女が俺を見ながら喜びの声を上げる。
と、同時に再びセンサーが警告を発した。
「危ない! 避けろ!」
「え……?」
少女に迫る影をセンサーに捉えた俺は咄嗟に声を上げた。
ほんの一瞬、センサーの感度が鈍った為に把握が遅れたのが悔やまれる。
油断してはいなかった。
ただ、予想よりも俺の機能の劣化による負荷が激しく対処が遅れてしまった。
「きゃあ!」
最悪だ。
迫る影に少女が捕まってしまった。
魔物は既に町の近くまで来ていたのだ。
せっかく、せっかくここまで来られたのにこんな所で終わるというのか。
振りほどけさえすればまだチャンスはある。
少女に声をかけ様とした瞬間ーーー
「この馬鹿娘が! 此処には来てはならんと言っておいたじゃろう!
いつもの時間になっても起きて来ぬから様子を見にお前の部屋に行ってみたらもぬけの殻。
もしやと思って探しに来て正解だったわ。まったく何をやっておるか!」
「お、おじいちゃん⁈」
「は?」
センサーを声がする方に集中させ観察する。
普通の人間にしては随分とガタイが良いが確かに人間だ。
老人は片手で少女の服の襟を持って軽々と持ち上げている。
「なんつー馬鹿力だよ。爺さん、あんた本当に人間か?」
少女がおじいちゃんと呼んだ人物はセンサーで感知出来る限りでも筋骨隆々でとても老人とは思えない。
偉丈夫というやつだ。
「ほう、喋る機械人形じゃと?なんじゃ、また妙な物を拾って来おって」
老人は俺を見ながら立派に蓄えられた髭を撫でている。
喋る機械人間というフレーズが引っかかる。
「何だ爺さん、喋る機械人間が珍しいのかよ?これくらい普通だろ」
普通の機械人間は喋らないのか?
そんな疑問が浮かぶが、今更黙る訳にもいかないし、あくまで普通だと装ってみる。
老人は俺をひと睨みすると目を閉じて何か考えだした。
「お、おじいちゃん……」
老人に吊り上げられたままの少女が泣きだしていた。
家族に会えて緊張の糸が切れたのだろう。安心して泣きじゃくっている。
よく頑張ったな。
そう声をかけ様としてある事に気づく。
水が滴る音がするのだ。
まさか……
「うわぁーん!!!」
「おま、マジか……」
そのまさかだった。
大声でわんわんと泣く少女。
限界を超えて我慢していた例のアレが溢れてしまった。
俺はどう声をかけたら良いものか思案する。
だが、この年頃に少女に一体なんて言えば良いのか思いつかない。
爺さんは呆れた顔をして少女に話しかける。
「やれやれ、まったく。
その機械人形は儂が預かってやるから、お前はさっさと家に帰って風呂に入れ。
ほれ、早くせんと町の連中が起きて来るぞ」
老人は少女を地面に降ろすと俺を小脇に抱えた。
少女はというと、既に家に向かって走り出していた。
余程恥ずかしかったのだろう。
一度も振り返る事なく、一目散に駆けて行く。
俺の感知範囲からあっという間に出て見えなくなった。
「速っ! あいつさっきより速く走ってないか?」
何というか、トラウマにならないと良いが。
俺は今後この話題は出さないでおいてやろうと密かに誓った。
忘れてやるのも優しさだろう。
「さて、次は貴様じゃ。しばし儂に付き合ってもらうぞ」
老人、いや、爺さんは俺の頭を鷲掴みに持ち直すと町とは逆の方向に歩き出す。
向かう先には先程出て来た遺跡がある。
まだ付近にさっきの大型の魔物がいるはずだ。
「おい、爺さん! 何をするつもりかは知らないが、そっちは駄目だ! まだ魔物がいる! 俺達も逃げないとヤバいぞ!
ていうか、もっと丁寧に扱えよ! これ以上壊れたらどうすんだ!」
「黙っておれ。それも含めて貴様には付き合ってもらう」
意味が分からない。
ただの人間ではあの大型の魔物に太刀打ち出来るはずが無い。
まぁ、このガタイでただの人間と呼べるのかは謎だが。
そんなことより爺さんを止めないとヤバい。
「無茶だ! 普通の人間に敵う相手じゃないんだぞ!
気でも触れてんのか爺さん!」
「五月蝿い奴じゃの、黙って見ておれ」
爺さんは一言だけ言うと遺跡の入り口の前で立ち止まった。
やがて、地面が震え出す。
遺跡の中に入って来ていた魔物が出て来ようとしているのだ。
もうすぐあの魔物が現れるというのに爺さんは何でもないかの様に落ち着いた様子で俺に話しかけて来た。
「あの子から何か聞いたか?」
爺さんは腰に下げた袋から何か取り出している。
魔物が迫って来ているのに、爺さんの落ち着いた様子は変わらない。
せっかく脱出出来たのに、一難去ってまた一難。
最早この爺さんに委ねるしかない。
俺は溜め息をつくと爺さんの質問に答えた。
「何って、最近の機械人形の事を少し聞いただけだ。
随分と熱心に話していたけど、俺もあれこれ考えごとをしていたんでね。断片的にしか覚えてねぇよ。
だけどな、今はそんなことより魔物の対処だ。もう逃げても間に合わないぞ。
何か策があるんだろうな?」
「そうか。その様子では貴様は自分が何者なのか分かっておらぬのだろう?」
「え?」
俺が何者なのか?だって?
爺さんは俺のことを知っているのか?
そう問い返す間も無く魔物が姿を現した。
せっかくの獲物に逃げられてかなり興奮して気が立っている様だ。
「ふむ、機械獣か。直ぐに襲って来ないだけの知恵もあるようじゃな。
こんな場所にまで出て来る様になったか。これは少々急がねばならんかものぅ」
爺さんは呑気に魔物を観察している。
視覚機能が使い物にならないせいで今も直接見ることは出来ないが、形状くらいならセンサーで感知出来る。
やはり異常だ。
何かこう生物と機械が融合した様な、上手く表現出来ないが明らかに通常の魔物では無い。
爺さんが言った機械獣という魔物は俺のデータにも無い。
( 遺跡で確認した時に感じた違和感の正体は、俺が知らない新種の魔物だったからか)
「そうか、貴様はあの魔物を知らんのだな。見てみい、あれは魔物が機械人形の残骸を取り込んだ姿じゃ。
本来はこんな場所におりはせんが、何処から迷い込んだのか……
どうやら特殊な個体の様じゃな」
「おい爺さん! 呑気に観察してる場合じゃねぇだろ! どうすんだよ!」
「相変わらず煩い奴じゃのう。黙って見ておれと言うたじゃろ」
相変わらず?
やはりこの爺さんは俺の事を知っている?
それに、口振りからするともしかしてずっと前から?
だとしたら、爺さんは少なくとも三百年以上生きている事に……
爺さんは袋から取り出した物を空中に放った。
空中で強く光を放ったソレは光が収まると淡い光のドームを作り出した。
「何をしたんだ?」
「この辺りの空間を隔離した。今からすることをあの子にも町の連中にも見られる訳にはいかんからのう」
「空間を隔離だと?そんな事が?」
「では、こやつを始末するか」
爺さんは狩りでもするかの様に言うと、慣れた動作で腰の剣を抜いた。
「まだ話は終わっとらんからな。直ぐ片付けてやるわい」
剣を翳した瞬間、猛烈なエネルギーが空間を満たす。
俺の感知センサーの警告音が引っ切り無しに鳴り響く。
「出でよ竜機神!永劫の刻の支配者にして偉大なる竜王!我が呼び掛けに応じ、眼前の敵を滅せよ!」
爺さんが何かの呪文を唱えると上下に分かれた二つの巨大な魔方陣が出現した。
二つの魔方陣の中間部分の空間が揺らいたかと思った瞬間、空間に裂け目が出来た。
そして、その裂け目から巨大な物体が徐々に姿を見せる。
せり出して来た物体はスパークを放ちながら咆哮を放つ。
俺は爺さんが何をしたのかサッパリ理解出来ていなかったが、目の前で起こる光景に感動していた。
(うおおおお! 何だそれ!かっけえーーー!)