表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創生の姫と最強の守護者  作者: 早瀬 翔太
序章
1/63

[侵入者との出会い]

初投稿です。

見苦しい点が多々あるかと思いますが、宜しければお付き合いください。

なるべく早く更新出来る様に頑張ります。

目標は週一。現実は二週に一度。

そんな感じで宜しくお願いします。


 侵入者感知。

 長らく使われることのなかった俺のセンサーが反応する。


「これでも無い、あれもダメ……」


 暗い部屋の中をランプの明かりを頼りにゴソゴソと何かを探し回る音と声が聞こえて来る。


 久しぶりに聞く人の声。

 どうやら声の主は少女の様だ。

 こんな場所に女の子一人で何の用があるのか知らないが随分勇ましい事だ。


 この地下研究遺跡はかつて機械人形と呼ばれる人型のロボットを開発する拠点として多くの機械人形技師達が出入りしていた。

 だが、それも数百年前までの話だ。


 他国からの侵攻をきっかけに研究拠点は放棄され、技師達は研究機材の多くを残したまま出て行った。

 そしてこの場所が遺跡と呼ばれる現在に至るまで、技師達は誰も戻っては来なかったのだ。

 俺を残したまま。


 俺?そう言えば何でここにずっといたんだっけ?


 人がいなくなった遺跡周辺には時折、普通の人間では抗う事が難しい魔物が彷徨く様になった。

 俺の知っている限り、訓練を受けた兵士が小隊を組んでやっと一体の魔物を相手にすることが出来る。人間の力だけでも対処が可能な魔物ならまだ助かる可能性がある。

 しかし、そうでは無い魔物も存在するのだ。

 決して少女が一人で来て良い場所ではない。

 今すぐ少女を追い返すのが正しいのだろう。

 だが、俺は久しぶりの来訪者?いや、侵入者か?に興味がある。


「見つからない。

 もう新しい部品を買うお金なんて無いし……

 ここなら何か使えそうな部品があると思ったのに……」


 少女は何かの部品を探しに来たらしいが、この研究室には使える物など既に残っていない。

 残っているのは保存状態の悪いガラクタばかりだ。

 

「おじいちゃんに内緒でこの研究室の遺跡に来たんだもの。

何か一つくらい見つけて朝までに戻らないと」


 探し始めてどれ程時間が経ったのか、研究室の天井にある小さな窓から差し込む太陽の光が暗くなり、少女の持つランプの明かりが心許ない頃になっても少女は探し物を続けていた。


 (随分と熱心に探しているな。何か余程の理由があるのか?)


 しばらく少女の行動を観察していた訳だが、とても盗賊の類か物好きな技術屋には見えない。

 時折、明かりに照らされて見える少女の顔は埃にまみれて黒くなっているが、その瞳には真剣な輝きが確かにある。

 不思議な娘だ。


 (やっぱり盗賊って感じじゃあないよな。

 やってる事は盗賊と同じだけど、まぁ放棄された研究室に今更所有権も無いか。

 それにしても、あの目……

 何処かで見たことがあるような、無いような)


 少女の真剣な眼差しを見て、何故か懐かしさを感じる。

 理由は分からないが、とりあえずただの盗っ人という訳でもなさそうだ。

 

 もう今にもランプの灯りが消えようかという程に小さな明かりになった頃、今まで黙って様子を伺っていた俺は少女に声を掛けてみることにした。


「おい、そこのお前」

「うわ!ご、ごめんなさ、って!うわぁあああ!」


 突然声を掛けられた少女は驚いて立ち上がろうとしたが、足元のコードに躓いて積み上げられた瓦礫の山へと盛大に突っ込んでいった。

 けたたましい音と共に崩れて来た瓦礫に埋もれて動かなくなった少女を見て俺は焦っていた。

 声を掛けるべきでは無かったかという若干の後悔が過ったのだ。放っておくわけにもいかないので、瓦礫に埋もれた少女へもう一度声を掛けた。


「お、おい。大丈夫か?」


 返事は無い。


 (ヤバい、これは完全に声を掛けるタイミングを間違えたかもしれない)


 どうしたものかと思案していると、瓦礫の山から勢いよく少女が顔を出した。


「ぷはぁ! し、死ぬかと思った……

 うぅ、体があちこち痛い」


 どうにか頭だけ瓦礫の山から出した少女は荒くなった呼吸を整えようと深呼吸を試みた。

 埃が舞う中でそんな事をすればどうなるのか当然予想出来る訳で


「すぅ〜、ゲホッゲホッ!の、喉がぁ!」


 何と言えば良いのか、少女は案の定、埃で喉をやられていた。

 先程までの緊張感は何だったのか。


 目の前の少女は、あの真剣な眼差しをしていた少女と同じ人物だと思えない程、雰囲気が変わっていた。

 急激な変化の理由も気になるところだが、一先ず無事な様でなによりだ。


「驚かせてすまない。

 だが、落ち着いたなら俺の質問に答えろ。

 お前はここで何をしている?」


 何らかの部品を探していたのは知ってるが、本当に聞きたいのはそんなことでは無かったのかもしれない。

  少女の顔が明かりに照らされた時に見えたあの真剣な眼差しの理由を。

 俺自身よく分からない、何処か懐かしさを感じる理由を知りたいのかもしれない。

 

 技師達は帰って来なかったが、放棄されて間もない頃には、少女の他に盗賊の類が忍び込むことが幾度かあった。どいつもこいつも少しでも金目の物は無いかと欲にまみれた濁った目をしていた。

 暇つぶし程度に不意に声をかけて脅したりしてよくからかったものだ。


 その内、何度か侵入して来た盗賊も粗方物色が終わったのか、再び遺跡を訪れる事は無くなった。


 どれ程時間が経ったのか……

 その後、遺跡を訪れる者もなく一人で退屈していたのだ。

 そんな時に現れた少女は俺の興味の対象となった。


「あの、勝手に遺跡に入ってごめんなさい。

 てっきり無人なんだと思っていて」

「そんな事はどうでも良い。

 お前はここで何をしている?」


 俺の言葉に少女は辺りをキョロキョロと見回す。


「えっと、というかですね……

何処にいるんですか?」


 何を言っているのだ。

 いくら暗いとは言え、まだランプの明かりが多少なりあるのだ。見えないはずは無い。

 目の前にいるというのに場所が分からないだと?


「お前の目の前にいるだろうが」


 少女は俺の声を頼りにようやく此方を向いた。


「えっと、もしかして……

 機械人形の頭さんですか?」


 頭さん?もう完全に理解した。やはりコイツはアホの娘だと。


 (しかし、初見で俺を機械人形だと見抜くとはな。だが……)


 俺の美しく洗練され作られた、人間と変わらない精巧なボディを見て頭さんだと言った少女の美的センスを疑う。

 いっそ少女の頭を掴んで瓦礫から引きずり出して、俺の素晴らしい身体を見ても何の感想も抱かない愚かさについて説教してやろうかと手を伸ばす。

 湧き上がった感情は怒りと言う程ではないが、オーダーメイドで造られた人間そっくりな自分の身体にはそれなりに自信があったのだ。


「貴様、この俺を見て頭さんとは訳の分からない事を。

 なかなか良い度胸をしているじゃあないか。俺の身体の素晴らしさを理解出来ないとは、その瓦礫の山から引きずり出して説教してくれるわ!」


 そう言って手を伸ばそうとするが……


 俺は違和感に気付き動きを止めた。

 いや、正確に言うならば、あるはずの感覚が無い事に気付いたのだ。


「えっと……」

「……」


 見つめ合う俺と少女。


 少女は困惑した顔でこちらの様子を伺っている。

 俺は少女の大きく澄んだ瞳に映った自分の姿を見て違和感の正体に気付いてしまった。


 腕がない。

 というか、首から下に何も無い。

 慌てて自分の身体を確認した俺は愕然とした。

 少女の言った頭さんとは見たそのままの意味だったのだ。


 遺跡に来る者が居なくなり、今まで一度も身体を動かすことのなかった長い年月の経過は俺の機械人形の体を朽ちさせるには十分だったようだ。

 今の今まで数百年、自分の身体の異常に気付かないでいたとは間抜けな話である。


「なんじゃこりゃああああああ!」


 嘗て自在に操っていた自慢の身体を失っているのを確認した俺は寄生をあげた。

 まさかの事態に正気ではいられるはずがない。


 これが普通の機械人形であったならいくら長い年月を経て劣化したと言っても多少は形が残る。

 しかし今回、俺の場合は事情が異なるのだ。

 俺の身体は人間に近い外見を得る為に、身体のほとんどが人工的に造られた生態パーツと呼ばれる物を主に組み上げられた特殊オーダーメイドであった。

 機械類のメンテナンス以外にも生態パーツは防腐処理などの定期的なメンテナンスを必要としており、維持しようとすれば非常に手間がかかる。

 故に、生態パーツをメンテナンスもせず放置すれば腐敗が進む。


「あの、もしかして生態パーツを使っているんですか?!」


 寄生を上げて混乱する俺をよそに、生態パーツを使っていることに気づいた少女が驚きの声を上げた。

 生態パーツは手間やコストの性質上、生産数は極端に少ない。

 少女が驚くのも無理は無い。

 だがそれでも、戦争が始まるまでは生態パーツの研究が盛んに行われていた。

 その後も研究が続いていれば、もっと精巧な生態パーツが普及していてもおかしくないはずなのだが…

 少女の驚き様を見て察するに、生態パーツは未だに普及していないのだろう。

 原因は恐らく戦争だ。



 およそ300年前、世界中で戦争が行われていた。

 この国もその一つだったのだが、戦況は思わしく無く、戦争はいつ終わるともしれないまま泥沼の一途をたどっていた。

 戦争を一刻も早く終わらせるべく国は機械人形技師達に新たな兵器の開発を指示する。

 当時の技術者達はより効率良く敵を排除し打倒しうる兵器。戦争に勝つ為の機械人形の製作を余儀なくされたのだ。

 機械人形を兵器として運用するにあたり、戦闘能力が低く、メンテナンスに莫大な費用と手間が必要な生態パーツは製造されなくなった。


 本来、機械人形は戦争により労働力が失われた国、戦争による負傷で四肢、臓器を失った人達の為に開発されたのが始まりである。

 しかし、その開発理念も長く終わりの見えない戦争という醜い行いによって奪い去られてしまった。



 俺の知る戦争が今も続いているとは考えにくい事だが、平和になっているのなら生態パーツを用いた機械人形の開発が再開されていても良さそうなものだ。

 そうでは無いのなら、戦争はまだ続いているか、もしくは一時的に休戦状態になっているかだろう。



「凄い凄い凄い凄い!私、生態パーツの実物なんて初めて見ました!

 でも、そのパーツを使用した人型の機械人形という事は少なくとも300年前に作られた物?

 だとしてもどうして未だに動作しているの?

 流石に生態パーツは朽ちちゃってるみたいだけど、頭部はほとんど無事だし、会話も出来る……

 もしかして永久機関搭載型? 今でも永久機関なんて夢物語なのにそれは……」


 まったく、こちらが自分の身体の崩壊を目の当たりにして発狂しているというのに……

 少女は本物の生態パーツに興奮を抑えきれない様子で既に考察に移っているようだ。

 完全に自分の世界に入り込んでいる。


 そんな少女を見ていたら質問しようとしていた事もなんだかもうどうでも良くなってきた。

 とは言え、この状態はどうにかしなければ動く事さえままならない。

 何せ頭しか無いのだから。


 (いや、待てよ)


 俺はどうしたものかと思案して、ある事を閃いた。

 幸いにも目の前の少女は機械人形に詳しい様子。

 もしかしたら少女に代わりの身体を用意してもらう事が出来るかもしれないと思い至る。

 ここは人が入って来なくなって久しい古い研究遺跡だ。

 少女が帰ってしまったら次はいつ人が訪れるか分からない。


 (これは賭けだ。だけど、今を逃す手は無い!)


 自分でも驚くほどの速さで思考を切り替える。

 失った身体は惜しいが先ずはこの状況を打開する一手を打つ必要がある。

 俺は藁にもすがる思いで少女に声をかけた。


「お前、機械人形の事が分かるのか?」


 俺は何としても新しい身体を手に入れるのだ。

 そして自分の目で確かめる。

 この世界が今、どうなってるかいるのかを。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ