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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦 パラス神聖法国攻略
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第93話 『 ガースト発進 』


大使徒ノーカを始めとする8人の使徒達は、敗北どころか苦戦の経験すらない。

このアコン山脈内に存在した敵対勢力は、そこまでの強敵を擁してはいなかった。

しかし強敵との戦闘を想定していなかった訳でもない。

これまで使徒達が警戒していた敵は魔導王朝宗主ヴリタラと大公達。

特にヴリタラの強さは計り知れず、使徒達が敗退する唯一の可能性とも言えた。


だが、その想定が崩れ去ろうとしていた。


「なんだ此奴は…」


大使徒ノーカが無意識に言葉を洩らしていた。

姿態は今まで戦った魔獣と似ているが、纏っている空気が全く異なっていた。

実際に対峙している使徒達全てが、只ならぬ気配を感じ取っていた。

それは何時しか戦うかもしれなかった強敵。


魔王ヴリタラさえも遥かに越える力を本能的に悟った。



「……っ!」


突如突進し、気付けば使徒の1人の正面に鉤爪が直撃していた。

僅か一撃で実体化していた武器も甲冑も粉々に砕け散り、大平原に叩きつけられる。

彼女も油断していた訳では無い。

これまでの魔獣とは全く異なる動きに、他の7人は驚かざるを得なかった。


 ギギィェェッェェェ!!


最初の戦果を上げ、ガースト級大型機動兵器が吼えた。


「このっ…!」


手加減の必要が無いのを悟り、他7人の使徒達が全力で攻め始めた。

瞬く間に連続で斬りつけ、矢を射かけ、殴打し…だが、全ての攻勢が無駄に終わる。


「な、なんなのよ!」


「こいつ!」


視界から瞬時に消え去り、目で追えない程の速さで使徒達を翻弄していた。

慣性制御機構によって巨躯でありながら自重に振り回されることも無かった。

使徒達の概念を根底から覆し、素早く小刻みに動作していた。


「え……ぎゃっ!」


一瞬で使徒達の視界から消えたと思いきや、上空に跳躍していた。

振り下ろされた鉤爪で一人が地面に叩きつけられ装備を破壊…一瞬で戦闘不能に陥った。

全高は90メートルと巨大な体格で有りながら敏捷性まで勝っていた。


慣性を度外視した機動性で使徒達を圧倒する。


「合わせよ!」


大使徒ノーカの指示により、使徒達が同時に攻撃を繰り出した。


 ギャギィ…!


なぜかガーストの巨体が動きを止めた。

絶好の機会に、使徒達から渾身の攻撃が加えられる。


「なっ…!?」


4本の鉤爪、全てを駆使して4人の使徒達と同時に戦っていた。

まるで4本の鉤爪の各々に頭脳が存在するかのように。

剣戟、鈍器の殴打、射かける矢…全てを軽々と捌いていた。


「これでも!」


5人目の攻撃がガーストの巨体にへ繰り出される。


 ガシッ…!


一人の使徒が斬り掛かった幅広の剣の力の方向を逸らし、5人目に流して同士討ちさせた。

耐久力と力頼みの機動兵器では無かった。

アパルト級が出力に秀でた兵種だとすれば、ガーストは戦術にも技量にも秀でた兵種だった。


「キャァ!」


「ぎゃっ!」


一人、また一人と使徒達が鉤爪に直撃して吹き飛ばされ、平原の地を転がっていく。

所持する武器を破壊し、甲冑まで粉砕して無力化していった。


「こ、このぉぉぉ!!!」


絶叫と共に大使徒ノーカの身体が大きく光り輝き、全ての武器が具現化した。

剣、槍、弓矢…輝く武具を身に纏いながら、ガーストへ突進する。


「この!この!このぉぉぉ!」


大使徒ノーカが全速で飛翔し、逆にガーストを翻弄しようとするが遠く及ばない。

次々と3つの武器を連続で繰り出すが、全て冷静且つ的確に対処される。

あらゆる間合い、あらゆる状況での武装攻撃よりもガーストの鉤爪の方が早かった。


 ギギギ…


ガーストが意味深に嘲笑っているのにノーカは気付いた。

両者の力量の差は明らか。

しかし即座に仕留めようとしない。


そう…この巨大な魔獣は使徒達を相手に愉しんでいた。


弱者を弄ぶ強者の状況を…思う存分に堪能していた。


「遊ぶな!さっさと決めろ!」


背後で兵団長アキヒトから叱咤されると、大型機動兵器も嗤いを止めた。


 ギギ…!


突然、ガーストが鉤爪をノーカの眼前近くに突き出した。

巨大な鉤爪で視界が一瞬だけ塞がれたが、再び視界が開けるとガーストの姿は無かった。


「え…!?」


慌てて探すが、前方、後方…上にも下にも姿が見当たらない。

今まで剣を交わしていた巨大な魔獣の姿が突如、大使徒ノーカの前から消えていた。



―――――――――『 特殊鏡面透過装甲機能再開 』――――――――――



不可視の領域から、同時に4本の鉤爪の攻撃を繰り出される。

避けることも受けることも出来ず…大使徒ノーカの身体へ直撃した。


「…っ!」


声にならぬ悲鳴を上げ、他の使徒達と同じく平原に叩きつけられた。

3つの武装と甲冑…全てが破壊されていた。


「自信無くすことないぞ。

 お前ら全員、かなり強かったからな」


終始観戦していたシロが慰めの言葉を掛けていた。


「もともと強い兵種なんだがな、知覚融合でもっと強くなってるんだよ。

 しかも今のアキヒトは以前より遥かに成長しているからな。

 もし知覚融合無しのガーストなら、お前達とは良い勝負になっていたと思うぞ?」


しかし平原に倒れ伏した8人の使徒達からは何の返答も無い。


「あ…気を失ってるのか。

 まだ生きてるなんて褒めてやっても良いくらいだが…」


けれどもアキヒトは一瞥もせず…既に聖都パラパレスの方へ視線が向いていた。


「ガーストだけ付いて来い!」


行動不能になり平野に横たわった使徒達を置いて、アキヒトはパラパレスへ移動を始めた。

宙を浮いたダニーが緩やかに進んで城壁を越え、ガーストの巨体もその後ろへと続く。


「神よ!パラスの神々よ…!」


「おぉ…何という…!」


パラパレスの住人達が初めて見る大型機動兵器に恐怖し、神に救いを求めた。

狼狽える民衆を眼下にして、聖都中央の小高い丘へと向かっていく。


「これが…!」


パラス教の聖地、サバラス神殿。

その前庭に立ち並んだ8体の巨大な女神像をアキヒトは忌々しく見据えていた。

サバラス神殿の前にダニーを降下させて自分も地に降りると、アキヒトは大声で呼びつけた。


「猊下!法皇猊下はおられますか!」


神殿の護衛騎士達が遠巻きにアキヒト達を見ていた。

背後に控えるガーストの巨体を恐れ、それ以上は近づけもしない。


「…何の用であるか」


豪奢な法衣に身を包んだ男が神殿の奥から現れた。

周囲では法国騎士達が守りを固め、更に枢機卿達も居並んでいた。


「お初にお目にかかり光栄です!

 僕は敗残兵団、兵団長のアキヒト・シロハラです!

 本日は嘆願が有って此方に参りました!」


ガーストを背にして威圧させながら訴えを始めた。


「第一に、今直ぐアコン山脈を越えての侵攻計画を停止なさってください!

 第二に、あの8人から使徒の任を解き、自由の身にしてください!

 以上、2点です!」


「クッ……何を申すかと思えば…この悪魔が!」


神聖法皇ドリーゴが、法皇の証たるパラス教紋章の杖をアキヒトへ突きつけた。


「聖なる地に土足で踏み込んで、その傲慢な態度!

 我等、神聖なパラス教を愚弄するにも程がある!

 悪魔の力を授かった邪悪の少年よ!神の裁きを恐れるが良い!」


「もう一度申し上げます…!

 侵攻計画の停止と、使徒達の任の解除…!どうか御裁可を!」


「黙れ!邪教の少年!」


法皇の傍に控えていた枢機卿達も声を荒げていた。


「神聖法国の領土を侵し、汚らしく邪悪な獣を神殿にまで近づけおって!」


「パラス教最大の敵め!」


「戦いに勝ったくらいで思い上がるなよ!?

 この大陸、パラス教信徒数十億全てがお前の敵であるぞ!」


「この世界にお前の居場所など何処にも無いわ!」


話にならなかった。

アキヒトの訴えを聞く耳を全く持っておらず、口々に汚く罵るだけであった。


 ギギィ…


ガーストが期待で笑みを浮かべていた。

アキヒトの怒りが高まるのを感じ、破壊と殺戮の開始を予感して歓喜に震えていた。


自身の言動に酔いしれた神聖法皇が一際大きく叫んだ。


「たとえ我等を皆殺しにしても、パラス教は滅びはしない!

 パラスの神々への信仰が終わりはせんぞ!」


「あ…貴方達は…!」


怒りが頂点に達し、ガーストに命じて全ての抹殺をも脳裏をよぎった瞬間。

兵団長の右肩に控えていた集合意志体が乾いた口調で言葉を発した。


「…あー、もう無理だ。無理無理…。

 あぁ…もう駄目だ…」


シロが呆れていた…いや、呆れたように見えていた。


「悪いな、アキヒト。俺の方が限界だ…」


「な…なんだよ、シロ」


「我慢が限界なんだよ!

 どいつもこいつも俺のダチ公を馬鹿にしやがって!

 タダで済むと思ってんのか!」


アキヒト以上に怒り、シロが激しく光り始めていた。


「神の敵だと!?

 パラス教最大の敵だと!?

 俺のダチ公の居場所が何処にも無いだと!?

 お前ら、その言葉の重さが分かって言ってんのか!

 好き勝手に言いたい放題言いやがって!

 今日という今日は許さねぇ!

 この俺がパラス神聖法国を…!パラス教の全てを踏み潰してやる!」


大地が…いや、アコン山脈内の大気が揺れ始めていた。

聖都パラパレスの頭上に何かが降りてくる。


「さっき、お前ら言ったよな!?

 皆殺しにされてもパラス教は死なないとか抜かしやがったな!?」



 ドォォ…



サバラス神殿に影が降りた。

いや、神殿のみならず聖都パラパレス全てに影が降りて…でも無かった。

城外に出ていた法国軍将兵も目の前の光景に驚かされていた。

聖都パラパレスのみでは無い


このラーケン大平野全域が巨大な影で覆われていた。


頭上の降下音が耳に届けば神聖法皇は恐る恐ると顔を上げ…驚きで言葉を失った。

周囲の枢機卿達も護衛の法国騎士達も見上げるが、一人として言葉が出ない。



「その言葉、確かめさせて貰う…!


 お前達の信仰心、何処まで続くか試してやるよ!」



次回 第94話 『 シロの怒り 』

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