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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦 パラス神聖法国攻略
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第89話 『 神聖法国領内侵攻 』


神聖法国領内へ新回廊が開通して約1ヶ月。

3商会からの要請により、アキヒトは回廊内の整備・補修に取り掛かっていた。


「これもお前にとっては悪い仕事じゃないしな…」


シロも最初は土木工事に不満だったが、アキヒトの訓練代わりになるなら納得していた。

1000基以上の兵種全てを同時に操作し、街道の整備を進めていた。

大陸平原同盟から呼び寄せられた技術者達と話し合いをしながら作業が進められる。

巨大な岩塊を崩し、大量の機材が運搬され、付近の治安を見張っていた。


「君、この戦いが終わったら我々の所で働かんかね?」


「す、すみません…僕は大学に進学しようと思っていまして…」


「ならば是非、土木学を専攻してくれ!

 君なら一生これで食っていけるぞ!」


兵団の操作精度が日に日に上がっていき、仕事の成果も上がっていった。

熟練の技術者達も驚くほどの進捗に、アキヒトの兵団を認めざるを得なかった。


3月半ば、技術者や労働者達の仕事は未だ続いていたが、交易路は完成しつつあった。

長さ90kmの交易路に、常時数千乗の荷馬車が往来していた。

途上に設けられた宿場町も規模が増していき、多くの人が集まってくる。

魔導王朝や南方諸国からも機を見るに敏な者達が続々と訪れていた。


3月14日

3大商会の重鎮達は神聖法国大都市トゥルーフに滞在していた。

新交易路での膨大な取引業務と神聖法国上層部との交渉にあたっていたのである。


そしてこの日、カルーフ商会の支店大会議室で3商会の面々とアキヒトが集まっていた。


「以上…法国からの返答で御座います…」


書面を読み上げたカルーフ商会職員の表情は重い。

だが、3商会の会長を含む重鎮達はそれ以上に重く…険しくなっていた。



パラス大法議院からの返答は唯一言で終わっていた。


"兵団長アキヒトの身柄引き渡しを要求する"



「他には何も無いのか…?」


「はい…この一文のみです…」


グラン会長が確認するが、商会職員は首を横に振るしかなかった。


「それでだ…お前らはどうするんだ?」


アキヒトの右肩のシロの口調に怒りが籠もっていた。


「まさかとは思うが、アキヒトを差し出すつもりじゃねぇだろうな…?

 もし、そうなら俺にも考えが有るぜ…!」


「我々を見損なうな…!

 こんな要求に応じるような者、此処には一人もおらん…!」


周囲に確認するまでも無かった。

3商会の重鎮達が神聖法国側の返答に呆れ、そして大きく失望していた。


「仮にだ…アキヒトを引き渡したところで事態は何も変わるまい…。

 再び中央平原へ兵を差し向ける腹積もりなのであろう…」


「残念ながら世界が見えておらぬようですな」


グラン会長と同様に、ラーセン商会のスティーン会長も呆れていた。


「今回の返答内容を公表した場合、法国の民が如何に考えるか想像できておらんと見えます。

 この期に及んで尚も戦いを続ける姿勢は信徒達からも見捨てられましょう。

 今、人々の生活が豊かになりつつあるのを何と思っているのか。

 神聖法国はパラス教信者有ってこその国家であるのに…」


「パラス教信者は簡単に見捨てはしないかと思います。

 ですが、都市国家の方は動きが早いですからな…」


リアンツ商会のフルト会長は神聖法国内諸都市の動向を詳しく探らせていた。


「交易路を行き交うのは荷馬車だけでは有りません。

 特に制限を設けてないため、既に多くの民間の人々も利用しています。

 その中に混じって…法国内の各都市からの外交使節が大陸平原同盟に赴き始めております。

 おそらくは神聖法国を脱退し、平原同盟の傘下へ加わるためかと…」


今までアコン山脈が有ればこそ外界と断絶され、神聖法国という国家が成り立ってきた。

旧回廊の"法国の盾"を始めとする重税と労役にも従うしかなかった。

しかし今、新回廊開通によって外界と繋がり情勢は一変した。

これまで神聖法国上層に従ってきた傘下の都市国家群が離れつつある。


この流れの先に待ち受けるは、パラス神聖法国の衰退…もしくは崩壊であった。


「なれば手段は一つしか有るまい…。

 アキヒトよ、改めて聖都パラパレスの攻略を依頼したい…!」


グラン会長を始めとする商会の面々の意見は一致していた。


「先月は大言を吐いてすまぬ…。

 これだけの商人が集まれば何とかなると思ったのだが…。

 法国上層が我々の提案を受け入れ、それで戦いは終わりであったのに…」


「いえ、商会の皆様には感謝しています。

 神聖法国の人々から兵団に対する敵意や警戒心が殆ど有りませんから…」


今月から、この大都市トゥルーフにアキヒトは商会から部屋を用意して貰えていた。

実際に街を歩いてみて、人々が今も平穏な生活を送っているのに驚いた。

3商会の尽力で民の生活が安定し、兵団の安全性も喧伝していたのであろう。


「そう申してくれるなら有り難い…。

 君には聖都パラパレスを攻略して無力化して貰いたい…。

 その後、我等の手の者がトーク枢機卿と一派をお救いしよう…。

 あの御方が法議院に戻ればパラス神聖法国の再建も可能であろう…」


3商会のみならず、大陸平原同盟も神聖法国の政情安定を願っていた。

ここで法国が分裂しては、その混乱の影響が平原同盟を通じて大陸中へ広がりかねない。


「分かりました!

 準備が出来次第、兵団は聖都パラパレスへ向けて出立します!」


「うむ、侵攻経路については此方で作成中である…。

 君は商会の者達の指示に従って進んで欲しい…。

 また経路に限らず、我々はあらゆる助力を惜しまぬ…何なりと申して欲しい…」



パラス神聖法国軍は今もトゥルーフ近郊に展開していたが、身動きが取れなかった。

兵団との戦力差も有るが、大兵力ゆえに運用面で限界が生じていた。

新回廊の開通により、法国内の各都市が物資の徴収を拒み始めてきたのである。

神聖法国からの脱退を表明まではしていないが、それも時間の問題であろう。


しかも侵略者と思われていた兵団が実際に現れると、法国の民の生活が豊かになっていた。

如何に強大な敵であろうと法国を害す存在ならば勇敢に戦ったであろう。

しかし現実は殺傷行為も破壊行為も無く、新回廊の土木工事に勤しんでいるばかりであった。


法国上層からは再三の攻撃命令が下されているが、法国軍の戦意は乏しい。

実際に何度か攻勢を仕掛けたが、ことごとく蹴散らされた。

そもそも通常装備で巨大な魔獣にどうやって立ち向かえと言うのか。

戦いを仕掛けても勝てる見込みなどなく、かといって戦力維持だけで膨大な物資が消費される。


そして神聖法国に更なる凶報がもたらされる。


「魔導王朝軍が動いたと…!?」


「はい、現在は大陸平原同盟内を通過中…おそらくは新たな回廊の方へと…」


キシーナ大公率いる20万の将兵がリトア王国南端を通過していた。

侵攻経路から予測し、新回廊西側のメーシャンに向かっているのは明らかであった。



3月16日

大都市トゥルーフ近郊に集結した敗残兵団は東へと…神聖法国領内へと侵攻を開始した。

その途上、神聖法国軍の横を通過したが迎え撃つ気配は無かった。


「商会の人達の言った通りだったね…」


今、神聖法国軍は身動きが取れない状態であるとアキヒトは教えられた。

アコン山脈の向こうには魔導王朝の大軍が迫っている。

今の彼等はそちらの方の対処で手一杯であると。


しかし法国軍は諦めた訳でも無い。

兵団が聖都パラパレスへ向かうのは容易に想像できたが、余り危機感は無かった。

なぜなら、あの聖地は最強の使徒達に守られている。

如何に強大な兵団と言えど、あの8人には決して勝てぬであろう。

神聖法国軍首脳部は、敗残兵団の迎撃を聖都パラパレスの使徒達に託したのである。

方針が統一されたのか、侵攻途上で兵団を迎え撃つ法国軍は現れなかった。


3商会から提供された侵攻経路に沿って敗残兵団は進む。

決して神聖法国の人々の生活を害さないよう、細心の注意を払いながら。

商会から人々には兵団の目的は法皇への嘆願と喧伝される。

その目的は神聖法国の侵略では無く、少年は聖都パラパレスへ停戦を訴えに行くのだと。



聖都パラパレスまでの行程は6日。


この3月中にパラス神聖法国との戦いが決しようとしていた。



次回 第90話 『 ソレは白と金の2色で造られ始めた 』

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