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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦 パラス神聖法国攻略
92/134

第88話 『 人の皮を被った化物(2/4)前編 』


現在、パラス神聖法国軍が敗残兵団に戦術的勝利を得る見込みは無きに等しい。

パスタル平原での初戦で法国軍先陣11万は為す術も無く敗走した。

仮に全戦力を投じても結果は変わらなかったであろう。


しかし兵団を無力化する方法が全く無い訳でもない。

その一つが兵団長アキヒトの周辺人物確保である。

後見のレスリーを始め、案内人の少女達の身柄を抑えれば兵団も従わざるを得ない。

その事態を見越して出撃前、アキヒトは大陸平原同盟に身辺の警護を依頼していた。



「困ったものだ…依頼する相手を間違っておるぞ」


アキヒトの自宅…居間のテーブルでガーベラが紅茶を口にしながら寛いでいた。


「平原同盟も相応の腕利きを差し向けたようだが、神族の騎士相手では話にならぬ。

 ならばこそ、盟友たる我々に依頼すれば良かろうに…。

 ティアもそう思わぬか?」


「あの方々も頑張っておられますから…」


「熱意だけは認めてやっても良い。

 しかし我等王朝騎士の方が圧倒的に腕が立ち、護衛としては適任であろう」


アキヒトが出立した後、ガーベラは配下の騎士をレスリー達の護衛に就けていた。

神聖法国側が何らかの工作を仕掛けてくる可能性は否定できない。


「魔導王朝の方々が本国へ避難されておられると耳にしましたが…。

 ガーベラ様はお残りになるので?」


「私は援軍と合流するまで此処に居残っている積もりだ。

 それに下々の者達を先に避難させ、最後に引き揚げるのが私でなければ示しがつかん。

 尤も、避難の必要など無いと思うがな。

 神聖法国軍などアキヒトの兵団を恐れて一歩もアコン山脈から出られんよ」


事実、初戦での敗退以降、法国軍の動きは一切無かった。

それでも万が一に備え、他の大公達から直ぐに王朝本国へ引き揚げるよう命じられていた。

対するガーベラは配下に示しがつかぬため、残留を主張して決して動こうとしない。

そのため、補佐のスジャーンはいざという時の為に独自の脱出経路を用意させていた。


「私に護衛など不要と存じますが…」


「何を申しておる、ティアに万が一にでも何か有ったらアキヒトに顔向けできん。

 指一本触れさせはせぬし、髪の毛一本たりとも傷つけさせぬ」


「では、レスリー様も同様の護衛を?」


「当然であろう、レスリー先生の護衛は特に選りすぐりの騎士達だ。

 しかもカーリュ大公からの厳命でな、法国軍が迫ってきたら強引に連れ出せとの仰せだ。

 全速で馬車を魔導王朝本国へ走らせよと…当然、ティアも連れていく積もりだ」


「私などよりも他の方を…」


「駄目だ」


ティーカップをテーブルに置き、ガーベラはハッキリと否定した。


「本来ならティアを守るのはアキヒトの役目なのだが…今は代役の私がやらねばなるまい」


「そういえば、なぜそこまで?

 私は単なる女中です…レスリー様や他の案内人達と違い、何の価値も御座いませんが…」


「ティアに価値が無い訳が無かろうが。

 王朝の盟友であるアキヒトの親しい者であるだけで、助ける理由としては十分だ。

 加えて私自身、アキヒトに生命を助けられた身だ…こうして借りを返したいと思っている。

 更に普段から御馳走になってる手前、助けない訳にはいくまい。

 それに…頼まれたからな」


「どうなさったのですか…?」


空になったカップに新たな紅茶を注ぎながら、ティアが問い掛けた。


「大したことは無いのだが…あの神族騎士にアキヒトの事を頼まれたのだ」


「もしや、イスター様からですか?

 それは意外でしたね…あの御方からの頼みをガーベラ様がお引き受けになるなんて…」


「うむ…事情が事情であってな…」




1月初旬…今から2ヶ月ほど前に遡る。

ボーエン王国の執務室に突然、面会希望者がやってきたと知らせが入った。

応接室に入ると、スジャーンの指示の下、完全武装の騎士10名が一人の男を取り囲んでいた。


『よぉ』


軽い口調で挨拶をしてきたのはイスター・アンデルだった。


『貴様…!此処に何しに来た!』


『この街を離れることになったんでな、挨拶に来たんだ』


イスターの回りの騎士達は既に抜刀していた。

少しでも不審な動きをした場合は即座に斬り捨てるよう、スジャーンから指示を受けていた。


『貴様とはそんな挨拶を交わす仲では無かった筈だが…』


『そう言うなよ、もう2度と会うことも無いだろうからな』


『なに…』


『神聖法国が此処にも攻め込んでくるって話は聞いてるよな?

 だから俺は逃げ出すことにした』


『冗談は止せ、曲がりなりにも法国騎士であろうが』


『たった今、出奔した。今の俺は法国とは何の関係も無い男だ』


事実、この時のイスターは普段の法国騎士の着衣でも無いし帯刀もしていない。


『戦争なんて真っ平御免でな、俺は女と一緒に平和な地を目指して旅に出ることにしたよ』


『ふむ…』


『それで最後だからな、お前には頼みを聞いて欲しくて此処に来たというワケだ』


『何だ、申してみよ』


『…アキヒトを頼む』


イスターの視線が真っ直ぐにガーベラへと向けられていた。


『残念ながら俺はもう、アイツの面倒を見てやれそうにない…。

 不本意だが、お前に頼んでやるよ』


『それが人に物を頼む態度か』


『俺だって、頼みたくて頼んでるわけじゃねぇよ』


『貴様な…』


『それから俺の叔父貴はトーク・アンデルといって法議院で枢機卿をやってる。

 有名だからな、お前だって名前くらいは聞いたことがあるだろ?

 その叔父貴なんだが、魔導王朝とは講和を望んでいる。

 機会が有れば話だけでもしてやってくれ』


『…私だって忙しいのだ、そんな面倒事は自分で何とかしろ』


『それができそうにないから、こうして頼みに来てんじゃねぇか…。

 これからの俺は一人の女のために生きると決めたんでな』


『ふむ…どんな女だ?』


ガーベラから突然投げ掛けられた意外な質問に、イスターが言葉を詰まらせた。


『髪の色は?長さは?肌の色は?背丈は?出身は?顔立ちは?好みの食べ物は?性格は?』


『か…髪は肩までかかった赤色、肌は白く、背丈は低めで…出身はリトア…。

 顔立ちは面長で…好きな食い物は固めに焼いたパン…性格は少しキツかった…かな』


『もう一度申してみよ…正確にな』


『髪は…長めで…えぇっと…赤色だったような…肌は…白くて…背丈は……っと…』


言葉に詰まり気味なイスターを見ながら、ガーベラが深い溜め息をついた。


『貴様は本当に嘘を付くのが下手だな…。

 そんな体たらくで法国騎士団長なぞが務まると思っているのか?』


『出奔したと言っただろ!』


『それは間違い無さそうだな。だが、出奔して貴様はどうする気だ?』


呆れた顔でイスターを見ていたが、当の本人は真剣な面持ちに変わっていた。

するとガーベラの傍に立っていたスジャーンが口を開く。


『もしや君は…法皇を弑逆するつもりなのか…?』


ガーベラのみならず、抜刀して剣を向けていた騎士達まで驚かされていた。


『おい…法国騎士が法皇を殺すのか?』


『だから言ったろ、俺はもう出奔したんだ…今は法国騎士でも何でもねぇよ』


『こんなことを私が言う道理は微塵も無いのだがな…!

 貴様は自分の国を何だと思っているのだ!』


『その国を救うためだ!仕方ねぇだろ!』


このまま開戦派の暴走が続けば、いずれ中央平原は火の海となろう。

それを止める為に法皇を討とうとしていたのは、ガーベラ達にも理解できた。


『…悪いことは言わん、止めておけ。

 法皇を討った瞬間、貴様は法国騎士達から切り刻まれるぞ』


『へぇ…俺を心配してくれるのか?驚きだな…』


『貴様なぞどこで朽ち果てても、私としては一向に構わん。

 だが、ここで止めなければ後でアキヒトに恨まれる…それだけは避けたいのでな』


『じゃあ、会わなかったことにしておけば良いだろ』


『そんな姑息なやり方は好かぬ』


『チッ…』


ガーベラの生真面目さに半ば呆れながらイスターは髪の毛を掻いていた。


『それより貴様に愛国心があったのが驚きだったぞ。

 母国の危機なぞ見向きもせず、女の尻を追いかけ回してると思っていたが』


『俺も驚いてるよ、我ながら自分らしくないってな。

 だがよぉ…あの時、お前がインダラから逃げ出さなかった気持ち…今なら分かるよ』


昨年、処刑執行前にイスターが救い出そうとインダラに侵入した。

しかしガーベラは決して逃げ出そうとせず、あくまで法の裁きを受けようとしていた。


『今のパラス神聖法国が腐っているのは俺が一番よく知っている。

 だが、それでもいざ滅ぶ瀬戸際になるとな…』


口数少なくなったイスターに、再びスジャーンが話しかけた。


『私は偉大なるラーキ大公の序列2位配下、スジャーン・アノイである。

 君の叔父上のトーク枢機卿の御意志…必ずや大公殿下の方々へお伝えしよう…』


『悪いな…恩に着るぜ』


『それから、これは王朝家臣ではなく私個人からの助言だ。

 あまり自分の命を粗末にするではない。

 本当に母国の行く末を案じるのなら、何としても生き延びよ』


『俺は法国騎士…いや、元法国騎士だ。アンタには関係無いだろ』


『どんな国であろうと、母国を大切に想う若者には生きて欲しいと願っておる。

 それが敵国…パラス神聖法国であってもな』


『…一応、礼を言っておくよ』


話を全て終えたのか、イスターが席を立った。

退室して出ていこうとした時、ガーベラが後ろ姿を呼び止めた。


『待て…私と剣の決着を付ける約定はどうなったのだ?』


『あぁ、そんなことも有ったな』


『貴様は約定を破る気なのか…!』


『悪い…守れなくて本当に済まなかったな…』


普段は無礼千万のイスターがしおらしくガーベラに頭を下げて謝っていた。


『そういえば…確か、お前の名前…ガーベラだったか?』


『それがどうした…!』


『今まで有難う、ガーベラ…。

 短い間だったが、お前と知り合えて楽しかったよ』


『くっ…!』


笑顔で退室するイスターを笑って見送るなど不可能であった。

その日、イスターはボーエン王国から姿を消し、神聖法国へ帰還したと推測された。




「ご心配なのですか?」


「そうかもな…」


新しい紅茶を出されながら…ティアの質問にも明確に応えられずにいた。


「腹立たしい男だ…騎士の風上にも置けん。

 しかし、それでも今まで何度も話をした仲だ、居なくなれば多少寂しくもなる…」


「恋ですか?」


「止めぃ!」


テーブルを叩くと、ティーカップが揺れて僅かに零れた。


「何処を見ればそんな質問が出てくるのだ!?

 私もそこまで趣味が悪くないぞ!

 これでも男を見る目に関しては自信があるつもりだ!」


「あ…はは…そ、そうですか」


「ま…まぁ、若輩であり未熟ながらだ…私は、常に厳格な王朝騎士たらんと心がけておる。

 だがな…個人的な情だって併せ持っておる…」


気を取り直し、ティーカップを口につけた。


「本当にくだらぬ男だったが…母国を真剣に想う姿勢だけは評価してやっても良い…」


「…それではガーベラ様にお尋ねしますが」


「なんだ?」


「イスター様とまたお会いしたいですか?」


「どうしたのだ、突然…」



「お答え下さい、ガーベラ・イーバー様。

 イスター・アンデル様の生還を願われますか…?願われませんか…?」



「だから、なにを……」


ティーカップを置いて、ティアを見つめたガーベラの言葉が途中で止まった。

いつもと変わらぬ笑みを浮かべ、自分を見つめていた。

とても深く…ガーベラの心の底までを見通すような深い瞳で…。


「どちらかと言えば…そうだな、また顔を見たい……かもしれぬ…。

 馬鹿で女好きで不真面目で…欠点を挙げればキリが無いが、悪い奴では無いからな…」


「恋ですね?」


「止めぃと言っておろうが!」


そろそろ本気で怒り始めていた。


「良いか、ティア…!

 世の中には許される冗談と許されぬ冗談が在るのだぞ!?」


「はぁ…そうかもしれませんね…」


「…分かった、あの男の生還を願っておる!

 そう断言すれば、余計な他意など無いように聞こえよう!」


「ならば大丈夫ですよ。

 イスター様は、きっと生還なされます…また、此処でお会いできるかと思います」


「想いが伝わるとでも言うのか?」


「はい…ガーベラ様がそう願うなら…」


「ティアは如何にも女の子らしい…夢見がちな部分が在るな…」


「…夢など見ていませんよ、現実です」


ティーカップをトレイに乗せて、ティアは台所へと戻っていった。



話も終えて自宅から外に出ると、ガーベラは5人の騎士達をティアに紹介した。


「私の部下の中でも特に腕利きで信頼が置ける者達だ。

 何か有れば、直ぐに助けを求めるが良い」


「我々がティア殿の身辺を警護させて頂きます…!」


男達が深々と頭を下げた。


「少々目障りで窮屈かもしれぬが、今は非常事態だから我慢してくれ」


「それは構いませんが…」


「なんだ?」


「気持ちは本当に嬉しいのですが…私には本当に必要有りませんので…」


「何を言っておるのだ、お前のようなか弱い婦女子…一番狙われやすいぞ」


「そうでしょうか…」


「それにな、お前は私にとって大切な友人だと思っておる。

 だから守らせて欲しいのだ」


「私なんかが…ガーベラ様の友人なのですか?」


「なんだ、迷惑であったか?」


「いえ、私如きがガーベラ様の友人だなんて恐れ多くて…」


「そんなの関係無かろう。

 少々身分が違っても、ティアは友人だと思っているぞ」


「少々…でしょうか?」


「少々だ」


「…ならば、私も誓います。

 どんな身分に差が開いても…どんなに名前が変わっても…私はガーベラ様の友人です」


「そう、それで良いのだ」



「はい……どんなに力の差が開いても――」



「…なんだ?」


「いえ、何でも御座いません。

 それでは友人の証として、一つガーベラ様にお礼をしたいのですが…」


「気にするな、礼など要らん」


「いえ、そう仰らずに…」


「だから気にするなと」


「…ガーベラ様、宜しいではありませんか」


傍で見ていた騎士達も、見兼ねて口を挟んできた。


「ティア殿の御好意なのですから、気持ちよくお受けしても宜しいのでは?」


この騎士達も幾度となくガーベラの警護として、このアキヒトの自宅に訪れていた。

そのたびにティアから温かい飲み物や軽食を振る舞われ、心情的に味方していた。


「…分かった。何をするのだ?」


「お手を出して頂けますか?」


言われると、ガーベラは利き腕の右手をティアの前に見せた。

ティアの指先がガーベラの手に…人差し指に触れた


「次に…目を閉じて頂けますか…?」


「…こうか?」


「はい…そのまま指先に集中してください…そして曲げて…伸ばして…」


「ふふ、これは何なのだ?」


「ガーベラ様の日頃のお仕事の疲れを取るための運動です…」


「はは…これで疲れが取れるのか…?」


「はい…効果は保障しますよ…」


部下達の勧めもあり、ガーベラはティアのお遊びに付き合うことにした。


瞳を閉じて暗闇の中…ティアの指先が自分の人差し指に触れている。


「曲げて…伸ばして…はい、また曲げて……伸ばして…」


近くでティアの可愛らしい掛け声が聞こえる。


その掛け声と合わせて、ガーベラも人差し指に集中した。


 曲げて…伸ばして…


「はい、曲げて…伸ばしてください…」


 曲げて…伸ばして…


「また曲げて…伸ばして…」


 曲げて…伸ばして…



―――――――――『 第一腕部展開 』――――――――――


 "ギギ…"


暗闇の中…ガーベラは初めて声を聞いた。


「はい、曲げて…伸ばして…」


ティアの声に合わせて…ガーベラはアレを曲げて…伸ばしていた


 曲げて…伸ばして…


「そうです、曲げて…また伸ばして…」


 曲げて…伸ばして…


何を伸ばしているのか…目には見えないが、ガーベラには直感的に理解していた。


――巨大な鉤爪だ


「いい調子ですよ、曲げて…はい、伸ばして…」


この時、ガーベラはティアの声に合わせて鉤爪を動かしていた。

鉤爪一つだが、自由自在に動かせていた。


…本体は何か?


自分は一体、何の鉤爪を操作しているのか?


 "ギギ…"


ソレはガーベラの頭上に控えていた。


何度も特訓で手合わせをしていた…昨年にシロから譲渡された特訓相手。

鉤爪以外の姿を現したことの無い巨大な魔獣。


シロの説明では宗主陛下と戦った魔獣よりも遥かに強いと。


その巨大な魔獣の鉤爪を1本だが…今のガーベラは自在に操っていた。



「……はい!」


ティアが拳を握りしめると、ガーベラの意識は戻っていた。


「どうでしたか?」


「あ…そ、そうだな…」


「コツを掴めたのでしたら、御自分でも練習なさってくださいね。

 これを繰り返せば、きっと良いことが有りますよ」


呆然と冷や汗さえかいていたガーベラに、ティアが眩しい笑みを見せていた。


夢でも幻でも無かった。



ガーベラ・イーバーにとって始めてのガースト級大型機動兵器との知覚融合である。



次回 第88話 『 人の皮を被った化物(2/4)中編 』

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