表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦 パラス神聖法国攻略
88/134

第84話 『 2000万ソラの返済 』


敗残兵団の出現により、パラス神聖法国は戦略を大きく変更せざるを得なかった。

昨年の魔導王朝との戦いで十数基にまで減らされており、当初は問題視されなかった。

だが1月28日の侵攻開始時に大規模な援軍が到着。

巨大な魔獣が8体も確認され、兵団の総数は千体を越えた。

完全に不意を突かれた法国軍は統制を失い、回廊内へと撤退した。

11万以上の将兵が回廊内へ撤退完了するまで3時間以上要したが、一切の追撃は無かった。

兵団は回廊出口より1㎞の地点に布陣し、そこから動く気配も無かった。


これにより法国軍は回廊からの進撃を断念し、"法国の盾"防衛の方針へと変更する。

平地での戦いにおいて兵団へ勝利する見込みは絶望的である。

しかしアコン山脈の難攻不落の要塞ならば、兵団といえど迂闊に攻め込めないであろう。

魔導王朝の攻勢を阻止し、更にそれから500年もの間、改修を繰り返された。


神聖法国上層部は、この要害に絶対の自信を持っていた。



1月29日の朝


「敵が…引き揚げていく…?」


"法国の盾"の城壁から兵団の様子を伺っていた兵士には見えた。

パスタルの平野に布陣していた敗残兵団が左へ…南に向かって移動を開始した。

短距離の移動に留まらず、速度を増した兵団は地平線の南の彼方へと消えていった。


「我等をおびき出す積もりでしょうか…?」


法国守備軍の上層では議論が成されていた。


「この要害に立て籠もられては手も足も出ぬからな…」


兵団は有利な平地戦に持ち込むため、一度姿を消した可能性も有った。

それゆえに法国軍は慎重になり、足の速い斥候を数騎放って様子を探ることにした。



兵団、総数1143基が南進を初めて半日が経過した。

後を追う斥候達にも、その移動が停まる気配が感じられない。


法国軍の斥候が跨る馬は偵察用に魔法技術で品種改良されていた。

筋力、持続力に優れており、時速50㎞で3時間の走行も可能である。

だが、その馬達にも疲れが見えてきた。

貴重な馬を失う訳にもいかず、斥候達は一時休めるしか無かった。


30分程休ませると、再び兵団の後を追った。

通り道が巨大な魔獣の跡が乾いた大地にハッキリと残され、見失うことは無かった。


そして日が傾きはじめ、荒野が夕日で赤く染まってきた頃。


「…追いついたぞ!」


斥候の一人が地平線の彼方に巨大な魔獣の姿を確認した。

移動はしておらず、広々とした荒野の真中で立ち止まっていた。


「どの辺りだ?」


「500㎞は走ってきたな。

 今はカール大公国の南端、大都市メーシャンから東に約20㎞だ」


遠くから観察して分かったが、兵団の獣達は全て東を向いていた。

その東の方向には…当然だがアコン山脈がそびえ立っている。


「ここに何か在ったか?」


「いや、特に変わった物は何も…」


すると兵団の先頭に8体の巨獣が出てきた。

その全てがアコン山脈の方を向きながら…口を開いた。


バチッ…!

バチバチッ…!


微かに届く音と共に、斥候達の目にも巨大な火花が見えた。


「く…っ!」


次の瞬間、視界一面が光に包まれて鼓膜が破れる程の轟音が響き渡った。


ドォォ…ン!!!!


続いて突風に襲われ、斥候の何人かが衝撃で落馬して吹き飛ばされた。

辺りの荒野に上空から小石や降り注ぎ、近くの岩陰に身を屈めてやり過ごす。


ドサッ!


降ってきたのは小石だけでなく、巨大な岩まで飛んできていた。

あの巨獣から1㎞以上は離れているというのに…。

数分の間は身を隠し、風と音が止むと散らばった仲間達が集まってきた。


「な、何が起こった!」


「おそらく…アレが噂に聞いていた巨獣の咆哮なんじゃ?」


「何のためにこんな場所で…」


「…アレを見ろ!」


斥候の一人がアコン山脈の方を指差す……つい先ほどまでの山岳の一部が消失していた。

まだ土埃が舞っているが、山一つが消え去って山岳の一部が窪んでいた。


バチッ…!


再び巨獣の口元から光り輝く火花が見えた。


「マズい!逃げろ!」


斥候達は馬に跨ると、全速力でそこから離れていった。




「生体反応は?」


「今、逃げ出した5人以外には誰もいねぇよ」


空中に静止したダニーの中から、アキヒトはアコン山脈の一画に臨んでいた。


「早期警戒用クダニで探らせた…この地点で間違いないぜ」


「リパルトとアパルト達に負担は?」


「この程度、大したことねぇよ」


「よし…再び8基は粒子砲全開照射用意!

 粒子充填率100%の全力で!」


「ははは!派手に行くぜ!」


再び一面に閃光が奔り、轟音で大地が響き渡る。

標高800メートルの山岳が8門の粒子砲全開照射で大爆発を起こし吹き飛んだ。

早期警戒用クダニ5基が一定以上の飛来する岩塊を素早く察知し、インガム級が撃ち落とす。


大型機動兵器群の粒子砲全開照射は休みなく続いた。




兵団の動きは3商会も同様に掴んでいた。


「回廊の攻略はどうしたのだ…」


知らせを聞いたグラン会長も首を傾げた。

ブルーグ支店の会議室では昨日と同じく三大商会の面々が揃い、兵団の報告を受けていた。


「魔導通信の知らせによると兵団は現在、回廊出口より500㎞南の地点に移動。

 そこで8匹の巨獣が連続して咆哮をアコン山脈に放っていると…」


「アコン山脈に?」


「はい、知らせではそのように…」


カルーフ商会の通信職員も、会長の質問には有りのまま告げるしか無かった。


「昨日の彼には何か考えがあるようだったが…」


ラーセン商会のスティーン会長も、この移動と咆哮の意図を掴めずにいた。

壁に貼られた地図上に兵団の動きが記された。

回廊の出口前から約500㎞の南進。


「まさか、ケート山賊砦を落とした時と同じ手を使って…いや、そんなことは…」


リアンツ商会のフルト会長も憶測するが直ぐに否定した。


昨年のケート山賊討伐戦で、兵団は咆哮を使って山を一つ吹き飛ばした。

その威力を目の当たりにした山賊達は戦意を失って投降した。

一瞬、同様の手段を講じたかと考えたが、直ぐに間違いに気付く。

なぜなら、示威行為としては距離が離れすぎている。

"法国の盾"の要害から見えねば意味は無く、兵団は500㎞も南の果てである。

そして山賊達と法国軍は全く性質が違う。

回廊を突破された場合は神聖法国全体の危機となり、国が滅ぶ可能性すらある。

如何に咆哮が強力とはいえ、法国軍が恐れて逃げ出すとは思えない。


結局、3人の会長達もアキヒトの意図が読めない。

兵団の動きを描かれた地図を前に、商会の面々は首を傾げるしかなかった。


多くの者達が兵団の動きの憶測を放棄した頃…ケーダ・ラーセンが地図の前に立った。


「そこの君、兵団の位置は此処で間違い無いかい?」


「はい、当商会の連絡員が確かにそこだと…」


カルーフ商会の通信職員に確認すると、ケーダは地図上の情報に目を凝らした。


「昨日…回廊を突破して2000万ソラも返すと言ったが…」


この兵団の行動の何が借金返済に繋がるのか?

アキヒトは何を確信して2000万ソラの価値を見出していたのか?


「それで兵団の今の動きは?」


「アコン山脈に向かって咆哮を放ち続けていると…おそらく今もです」


「一度じゃないのかい?」


「はい、連絡員が確認した限りでは何度も何度も…だそうです」


「…何度も?」


回廊の要害に対する示威行為ならば理解できよう。

戦意が挫けるまで放ち続けるのも分からなくは無い。

だが、フルト会長と同じく、それは有り得ないとケーダも考えていた。


一方、商会の中からは安堵の声も上がっていた。


「とりあえずは宜しかったのでは?

 兵団の戦力は十分に有りますし、法国軍も撃って出てこれないでしょう」


「ひとまずは中央平原の平和は守られたのだ。

 これで良かったではないか」


大陸平原同盟が戦火に晒される危機は去った。

敗残兵団の戦力増強により、神聖法国も今後は下手に動けないであろう。


神聖法国開戦の報を受けて以来、初めて面々の表情が和らいでいた。


だが、その中で一人…ケーダ・ラーセンだけは地図を凝視し続けていた。


「アキヒト…何を考えてるんだ…」


ふと、指先を地図上の兵団の位置を示す印に乗せた。


そこから東へ…アコン山脈に咆哮を放ち続ける。

放てば当然、山は吹き飛ぶであろう。

そこへ何度も更に咆哮を…


何度も…何度も…



…何度も?



「…どうされました?」


傍に立っていたカルーフ商会の通信職員が、思わず訪ねていた。


地図の一点を凝視し…大きく目を見開いたケーダの異常に気付いて…。



「…失礼します、急用を思い出しました」



突然、商会の面々に一礼すると、ケーダは足早に会議室から出て行った。


「どうしたのだ…?」


他のラーセン商会の者達は事情を飲み込めず、やはり首を傾げるのみ。

すると無言でグラン会長が立ち上がり、ケーダと同じく壁に貼られた地図に近寄った。


「会長…何を?」


通信職員に問い掛けられるも、地図の方へ全神経を注いで振り向きすらしない。

同じくグラン会長も兵団の位置を記した印に指を置いた。

その指を中心に周囲の地形を確かめ…その咆哮の放たれた山岳を凝視した。


「何度も……っ!」


突如、グラン会長が目を見開き…その指先が震えていた。


「私も用件を思い出した。本日はこれにて失礼する…!」


最低限の挨拶だけ交わすと、カルーフ商会の者達を全て引き連れて会議場を後にした。


「ん……!?」


「なんだ…!?」


何事かと異常を察し、残るスティーン会長とフルト会長も地図の前に立った。

そして兵団の位置が穴の開く程凝視される。


大都市メーシャンから東方へ約20km地点。

そこから山岳部へ向けて咆哮を今も放ち続けているという。

周囲は人々の生活圏から遠く離れた荒野が広がっている。


先程のケーダとグラン会長が何かを悟り、慌てて此処から退室したのは分かる。

識見の深さにおいては残された2人の会長も非凡である。


アキヒトの兵団の位置を中心に視界を広げ……周囲の地形を見た時だった。


「あっ!」


「あぁ!」


両会長が声を発したのは、ほぼ同時だった。

全てを察した2人は何の挨拶もせず、商会の者達を引き連れて慌てて会議場を後にした。


「ケーダは今、何を!?」


「はい、先程知らせが入りました。

 この地のブルーグ支店に駆け込むと魔導通信を使って取引を始めたと…」


「何の取引だ!?」


「メーシャンの支店に命じて、其処の土地を買わせようとしていました。

 また、各支店を通じて荷馬車を大勢…千台以上も手配しております。

 更に穀物を大量に仕入れさせていると…。

 ですがケーダ番頭の意図が分からず、指示を受けた支店の反応は鈍く…」


「馬鹿者!指示通りに動かぬか!

 今後、ケーダの指示を正確且つ迅速に実行するよう全支店に伝えよ!」


ラーセン商会の番頭達も職員達もスティーン会長の気迫に圧されていた。

これ程までに目を血走らせ、何をしようとしているのか。


「重ねて全支店、全職員へ至急通達せよ!

 これより3日間の就寝を禁ずとな!」


「会長、一体何が…?」


「商機だ…!千年に一度とない商機であるぞ!」


次回 第85話 『 亡き母に感謝を 』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ