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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第3戦 パラス神聖法国攻略
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第81話 『 フォレスの影 』


大陸歴997年1月25日

アキヒトは神聖法国軍始動の報により、カール大公国へと赴いた。

到着したのは首都ブルーグ、外務省本館の会議室へと通された。


「やぁ、待っていたよ」


カール大公国の高官達の中心にいたのは元首カターニ・カール。

背が高くアキヒトも話のしやすい温和な人物である。


「法国軍が動き出したそうですね」


「昨日、知らせが入ったんだ。

 神聖法国軍が一昨日、アコン山脈の回廊内で進軍を始めた。

 早ければ3日後には"法国の盾"からパスタル平原に出てくる計算だ」


神聖法国はアコン山脈回廊の東側オベル平野に軍を集結させていた。

兵員総数は78万、それほど広くもない地が法国兵で埋め尽くされたという。

そして一昨日、先陣と見られる20万の軍勢が進発した。

アコン山脈回廊は複雑に入り組んでおり、進軍にも時間を要する。

回廊を抜けた西方に広がるのが、カール大公国の東端であるパスタル平原。

約20㎞四方の地を主戦場と想定していた。


「今日、最終通告が来たよ。

 神聖法国との併合を受け入れるのなら良し、さもなくば実力行使だとね…」


カール大公国議会でも意見が分かれ混乱していた。

神聖法国に主権を明け渡して属国と化すか、主権を守るため戦うべきか。


「私からもお願いだ。

 可能ならば容赦無く神聖法国軍を殲滅して欲しい。

 先陣が全滅すれば、その後陣は進軍を諦めるかもしれないからね」


「申し訳ありませんが、それは最後の手段にしたいんです」


「君の気持ちは分かるんだけどね、現実はそんなに甘くないんだ。

 この地に法国軍が侵攻してきたらどうなるか…。

 既に結構な数の人々が逃げ出しているよ」


法国軍が現実に西進すれば、回廊出口となるカール大公国が最初に侵攻される。

それを知ってか、財産を纏めて東へと脱出する人々は少なくなかった。


「前の話し合いでも触れたけど、戦後処理の面倒は我々に任せてほしい。

 君が法国軍を皆殺しにしたとしても、決して非難の矛先を向けさせやしない。

 単に我々の要請を受けて戦うだけなんだ。

 君は生命を奪うためではなく、多くの人々を救うために戦うんだから」


「…分かりました。

 僕もいざという時の覚悟はできています、ご安心ください」


「済まない…君のような少年に重い責を背負わせてしまって…」


その後、官僚達からパスタル平原周辺の地図を見せられた。

何の遮蔽物も緑も無い荒れた平地が広がるだけである。

最短の街でも10㎞以上離れており、しかも住民は避難済みであるという。


「周囲には何も気にせず戦えるのは良いが、奇襲も何もできないな」


「うん…大軍が圧倒的に有利だ…」


シロに指摘されるでもなくアキヒトも承知していた。

手持ちの兵種で如何にして足止めするか?

先陣だけでも20万の大軍であり、僅か13基の兵団で如何に迎え撃つか?



1月28日朝、法国軍が回廊出口から姿を現したと報告が入った。

第二報で大軍が展開中との知らせが届けられる。

ブルーグに宿泊していたアキヒトは兵団を率いて発進した。


「あれが噂の兵団か」


「たったこれだけで法国軍に勝てるのかよ」


カール大公国の民衆に見送られながら、異形の軍団がブルーグを出立した。

急ぎ東進して半日、遥か彼方に高い山々が聳え立っているのが見える。


「あれがアコン山脈…」


パラス神聖法国を不可侵領域に足らしめた大自然の要害。

魔導王朝宗主ヴリタラでさえも侵攻を断念せざるを得なかった山脈である。


「アキヒト、見えてきたぞ!」


「これが…!」


霞んで見えないが、山脈の麓に巨大な黒い門が見えた。

幅200メートルにも満たない回廊出口を塞ぐ高さ100メートルの巨大な城壁。

500年前の大戦で魔導王朝軍の侵攻を防いだ大要塞"法国の盾"である。


その手前に法国軍の大軍勢が展開を続けていた。

今も"法国の盾"の門から続々と兵員が姿を見せ始めている。

大軍ゆえに進軍にも時間が必要なのであろう。


「現在、門から出た兵員数…11万ってところか」


「分かった、勝負をかけよう!」


アキヒト達の兵団が接近すれば、神聖法国軍外縁部の物見が素早く察知した。

直ぐに第一陣司令部へと伝令が走り、法国軍は臨戦態勢を執る。

途端に騒がしくなった法国軍の前にアキヒトのダニーが進み出た。


「失礼します!

 この軍の司令官はどなたですか!?」


将兵の中から一際豪奢な白銀の甲冑に身を包んだ人物が姿を現した。


「パラス神聖法国軍、第一陣の指揮を任せられたビウス・タインである!

 貴様は一体何者か!?」


「先に名乗り頂いて恐悦です!

 僕は敗残兵団、兵団長を務めるアキヒト・シロハラです!」


「なるほど、貴様が噂の…!

 して何用だ!?

 神聖法国に降りにきたのなら猊下に取り成してやるぞ!」


「いいえ、警告に来ました!

 今すぐ軍勢を纏めて本国へ引き返してください!

 こんな侵略、誰も望んでいません!」


「愚か者!言うに事欠いて侵略とは何か!?

 これはパラスの神託による聖戦であるぞ!

 今すぐ跪いて許しを請うが良い!」


「分かりました…!

 それでは僕が全力で止めさせて頂きます!」


「たかだか、その程度の戦力で何ができると言うのだ!

 たとえ子供が相手だろうと手加減はせぬ!

 我等パラス神聖法国軍の力を見せてやろうぞ!」


パスタルの平野で神聖法国軍が蠢き始めた。

最前面の重装歩兵を中心に騎兵、弓兵、後方に魔導士達で構成されていた。


「敵兵、11万2千…!

 しかもまだ後ろから出てくるぞ!?」


「分かってる!」


対する兵団はクダニ級13基とインガム級1基の計14基。

戦力と呼べるような代物では無かった。


「精神リンク…完了!よし、行くぞ!」


クダニ級たちを横一列に並べた。

対する法国軍も編成を完了し、一軍が動き始めた。


「戦闘を開始せよ!

 敵は少数だ、取るに足らぬ!

 初戦を勝利で飾り、パラスの神々へ捧げよ!」


槍衾を作った重装歩兵達が突撃を始めた。


「敵、第一波約二千!」


「うん!」


13基のクダニが高速疾走すると敵兵の中へと切り込んでいった。


バキッ…!


魔導王朝軍の戦いと同じく、クダニ達は法国軍兵士の武器を叩き折っていた。

鋭く硬質の触覚が振るわれると槍が折られ、剣が弾き飛んでいく。

瞬く間に数十人分の将兵が武装を失って無力化した。


「何をしている!敵は寡兵であるぞ!」


クダニ級の動きが魔導王朝戦よりも遥かに良くなっていた。

皮肉にも兵数が少ないゆえに、1基辺りの操作の割当も深くなっていた。

高速移動を続けるクダニ級の機動性に、大半の将兵は目で追うことすらできない。


「くっ…!」


更にアキヒト自身の能力も大幅に上がっていた。

クダニ級の統率力も上がり、王朝戦時よりも各兵種の精度も上昇している。

けれども、多勢に無勢だった。

僅か14基の兵種で眼前の11万、更に後陣にはそれ以上の戦力が控えている。


開始30分が経ち、全力の戦闘指揮はアキヒトに多大な疲労をもたらしていた。

息を付く暇も無い津波のような法国軍の攻撃。

懸命に14基で支えてはいるが、それでも三千の法国軍将兵を無力化したに過ぎない。


「大丈夫か!?」


「まだまだぁ!」


連日の特訓でアキヒトの戦闘指揮は持続力も上がっていた。

まだ余力は有るが、全ての将兵を無力化する前に体力が尽きるのは明らかだった。


 ガーストを…出すしか…


戦いの最中、アキヒトの脳裏に想いが浮かぶ。

せめてアパルトが1基健在で有れば、これだけの大軍も押し返せたであろう。

後悔しても仕方ない今、持てる戦力で迎え撃つしかない。


このまま体力が尽きる前に、ガースト級を投入するしかないのは分かっていた。

ここを突破されれば、神聖法国軍は平原同盟5国に雪崩れ込むであろう。

その場合は多くの人々が戦火に晒され…多くの街が焼かれる。


「アキヒト、まだ行けるのか!?」


「よ、余裕だよ!」


しかし、この窮地においてもアキヒトは決断できずにいた。

大陸平原同盟の首脳陣も三大商会の会長達も、ガースト戦線投入の正当性を認めている。


それでも…それでも尚、誰一人として犠牲者を出さずに戦いを決しようとしていた。


大陸平原同盟を救うため、法国軍兵士を殺めても非難されないかもしれない。

全ては多くの人々の命と生活を守るためなのだから。

限られた手段は少なく、選択肢は更に少なかった。

後見人のレスリーは悲しむだろうが理解して許してくれるだろう。

アヤも、ドナも、ティアも…人を殺めたアキヒトを受け入れてくれるであろう。


だが、今のアキヒトの脳裏には別の人物達が浮かんでいた。


 父さん…!母さん…!


息子を気にも留めなかった父と母。

今、ここで手を汚したら永遠に認めてくれないであろう。


そして、もう一人の家族の後ろ姿が鮮明に浮かび上がっていた。


 姉さん…!


最後に正面から顔を向かい合わせたのは何時だったであろう。

中学に上がる前から、横顔や後ろ姿しか見ていない。

姉の視界にアキヒトの姿は入っていなかった。

それでも何時かは声をかけてくれると…また笑って話が出来る日を、と願っていた。


しかし人を殺めた瞬間、その願いは完全に断たれる。


姉は永遠に振り向いてくれない気がした。



1時間以上、14基の兵種を全力統率してもアキヒトはガーストを投入しようとしなかった。

疲労の色は有ったが、それ以上の闘志で集中力を支えていた。


アキヒトは決して楽な道へ逃げたりしない。


常に最も困難な道を選択し、歯を食いしばって踏破しようとしていた。


「…やっぱり、お前は自慢のダチ公だよ」


「な…なにを!?」


「だから言ってるだろ!

 アキヒトは俺の最高のダチ公だってさ…!」



 ゴォン…



最前線から遠く離れた神聖法国軍本陣。

第一陣の総司令ビウス将軍と側近、騎士団長、参謀達は確かに聞いた。

聞いたのは将軍達だけでは無い…。


 ゴォン…


パスタル平原に展開していた全ての将兵達が空気の震えを聞いていた。


何かが…何かが近づいてくる…


全ての大気が震え、地面が揺れ始めていた。


「しょ…将軍!大変です!」


本陣所属の魔導通信官が慌てて知らせにやってきた。


「この戦場に…!

 アレがパスタル平原に接近中です!」


「魔導王朝軍がもう来たのか!?」


「いえ、違います!

 リトアからの通信が入ってきて…空のアレが動き始めたと!」


「空のアレ…何のこ…と……」



――不意に神聖法国軍本陣が影で覆われた。


いや、この戦場の大地の大半が日差しを遮られていた。


雲がかかったかと思い、皆が空を見上げる。


「なっ…!?」


法国軍11万将兵全てが言葉を失った。


頭上にとてつもなく巨大な…何かが浮いていた。

全長2㎞、直径数百メートルにも達する円筒状の飛行物体。


昨年8月にリトア王国の北海上空で観測された巨大な飛行体である。


 ゴォン…


不気味な音がパスタルの平野に木霊する。


パラス神聖法国将兵にフォレスの影が落ちていた。


次回 第82話 『 埋め尽くす兵団 』

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