表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第2戦後から第3戦 までの日常及び経緯
79/134

第75話 『 大陸連合構想 』


「おい…どうしたんだよ」


「お、おかしいな…」


寒空の下、シロの指導を受けながら兵団長を目指しての特訓。


「あの時は出来たのに…」


ガーストとの知覚融合が満足に果たせないでいた。


パン屋でマーダさんと言い合った時、確かに僕はガースト級大型機動兵器を支配下に置いた。

その全ての操作と機能を僕自身が完全に掌握し、自由自在に動かせていた。

けれども今の訓練では、そこまで上手く融合できない。


「やり方を忘れたのか?よく思い出せよ」


「う、うん…そうなんだけど」


訓練を受ける前に比べて、徐々に僕の知覚融合の精度と持続力は上がっている。

ガーストとの融合時の負担も減少はしているのだけど…。


「前にな…俺が昔の話をしたくないって言ったの覚えてるよな?」


「あ、うん」


「それと同じだと思っていたよ。

 アキヒトは元の世界のこと、あまり話さないだろ?

 それってさ…俺と同じで昔のことを思い出したくないかなって前から気になってた。

 だから俺もあえて必要以上に聞こうとはしなかったが…」


「あ…」


言われてみれば思い当っていた。

僕はシロに元の世界の話をした覚えがほとんど無かった。


「お前が誕生日に話してくれた程度だな。

 そんなに家族や…姉さんのことを気にしてるとは俺も思わなかったから…。

 あのマーダが言った通り、それがお前の原動力ってヤツなのか?」


「それは…」


「あの儀式の時、お前は家族を見返すために神獣を望んだのか?」


シロの言葉通りだった。

神獣召喚の儀で僕の心に浮かんだのは富でも名誉でも無く、家族の顔だった。

家庭では空気のような存在だった僕。

けれども神獣と契約すれば家族が振り向いてくれるんじゃないかって…そう期待してた。


「…お前さ、姉さんのことが好きだったんだな?

 あまり口も聞いてくれず、見向きもしてくれなかったのに…」


「う…うん…」


「それをマーダに言われて…本気で腹が立って、ガーストと融合できたって訳か。

 要するにお前が怒ると兵種との波長も合うみたいだな。

 それを自由にできれば上位兵種を統率、融合さえもできそうだが…」


滅多にできる事でもないのもシロには分かっていた。


「…良いさ、お前の地力は確実に上がってるんだ。

 これまで通りの特訓方法で行こうぜ」


たまにシロはとても優しい。

怒ればガーストと融合さえ可能だが、僕に嫌な事を思い出させたくないのだろう。

できれば僕も忘れたままを望んでいた。



そして大陸歴996年が終わろうとする12月も末日。

ケーダさんからラーセン商会の支店へ来るようにと連絡が有った。

何か大切な話し合いが有るらしい。


『アキヒト殿の御知り合いも来られるそうですよ?』


わざわざ自宅にまで連絡に来てくれた支店の使いの人が教えてくれた。


「行くのかよ?」


「お金借りたままだしね…魔導王朝の攻略でもお世話になったし…」


指定された日時に僕はシロと出掛けた。

以前も訪れた支店に到着すると、受付の人が今度はすんなりと対応してくれた。



「――こちらです」


「…え」


通されたのは一番奥まった広い応接室。

そこにはケーダさんの他に見知った人物が2人腰かけていた。


「やぁ、城原くん…久しぶりだね」


僕と一緒に召喚された勇者候補100人の中で、指導者と目される人物。

大泉さんが席に着いていた。


「お…お久しぶりです、どうしてこんな所に…」


「今日は大切な話が有って、ケーダ氏からこの場所を借りている。

 積もる話は有るが、まずは君も席に着いてくれたまえ」


しかし椅子に手を掛けた時、もう1人の顔を見て再び驚かされた。


「マーダさん…」


「時間が惜しい、早く席に着け」


パン屋でも会ったけれど、マーク同盟首脳である盟主マーダさんだった。

言われるまま、僕は椅子を引いて腰かけた。


「よく来てくれたね、アキヒト…歓迎するよ」


対面のケーダさんが、にっこりと笑いかけてくれた。


テーブルに着いているのはケーダさん、大泉さん、マーダさん、そして僕の4人。

ついでに僕の右肩のシロも含めて5人。


「大切なお話と伺いましたが、今日は一体…」


「まず最初に、この部屋でこれから話すことは一切他言禁止だよ。

 それを守って貰いたいんだが良いかな?」


「……分かりました。誰にも話しません」


「有難う…少し前置きが長くなるが聞いて欲しいんだ。

 アキヒトも歴史を勉強したから大陸平原同盟が発足した経緯は知っているよね?」


「は、はい…500年前の戦いの後、人間主導の5つの国家が成立しました。

 それが同盟関係を結び、今の大陸平原同盟になったくらいは…」


次にマーダさんから質問が飛んだ。


「ならば、なぜ"大陸平原同盟"という名称を採ったのか想像できるか?」


「それは…人間の国家5つ全てが、この中央平原に在ったからでは無いでしょうか?

 ですから単純に"大陸平原同盟"という名前になったのかと…」


「ふむ…これは誰も知らんことだが…。

 当時の首脳陣達は"大陸同盟"という名称で発足しようとしたのだ。

 だが実際は貴様も知っての通り"大陸平原同盟"として発足した。

 なぜだと思う?」


答えようが無かった。

"大陸同盟"でなく"大陸平原同盟"という名称にした理由…突然聞かれても僕は…。


「…答えは簡単だ。

 "大陸同盟"では神族も魔族からの覚えが良くないと判断された為だ」


"大陸同盟"と"大陸平原同盟"


前者では、この大陸全ての国家勢力を含有すると捉えかねない。

それでは神族と魔族の自尊心を損なうと危惧された。

その為、あくまで中央平原一帯の国家勢力という"大陸平原同盟"の名称が採られた。


「今、我々の間で"大陸同盟"を復活させる動きが始まっている。

 中央平原の限定でなく、神族も魔族も、更には亜人国家も含めての政治共同体がな…。

 もっとも名称は"大陸同盟"から"大陸連合"へと変わっている」


「た…大陸連合…ですか」


「違いは名称だけでは無い、理念から組織体系まで全てだ。

 その草案を貴様と同郷の勇者達が出してくれた」


「そういう訳なんだよ、城原君」


大泉さんを始めとする先輩達は、この世界に自分達の王国を作ると話していた。

しかし今は、王国から全大陸規模の国際機関にまで膨れ上がっていた。


「500年前の大戦を2度と起こさない為に必要だと思うんだ。

 人種も民族も国家も関係無い。

 一部の者達の意志で始まってしまう戦いを未然に防ぐシステムがね。

 幸い、僕達の中には国際機関に詳しい者達も多い。

 この世界の実情と照らし合わせながら、今は草案を纏めている最中なんだ」


「すみませんが…僕にはそんなに上手く行くとは思えません。

 神聖法国も魔導王朝がそんな国際機関に入るなんて…。

 それに"黒い月"も出ている時に、そんな揉めそうな話をするのも」


「いや、"黒い月"が出現したからこそ、好機と捉えるべきだと考えている。

 我々は共通の脅威に向かって一つにならねばならない。

 その為の国際機関だ」


そこでケーダさんも捕捉していく。


「アキヒトが危惧を抱くのも当然だね。

 実現に向けて乗り越えなけれなならない問題は山積みだ。

 けれど、この構想に同調している人は多いんだよ。

 現に、この前の王朝行きでもね…良い返事を貰えたから」


「それ、もしかして…」


「そう、君が盟約を締結した晩餐会の日にさ。

 魔導王朝の若手の高官達と意見交換をしてきた。

 彼等も現状に憂いている所が多くてね…真剣に耳を傾けてくれたよ。

 これまでの旧体制から、大きく変わらねばならないとね」


現在の大陸は4つの種族…人間、神族、魔族、亜人で勢力圏が分かれる。

500年前に比べ、全ての国家間の距離は短くなっていた。

交戦していた神族と魔族の間でさえ、今では意見が取り交わされる時代である。

大陸平原同盟へ留学経験の有る神族及び魔族の多くは現状からの変革を望んでいた。


「その目的を一言で表せば、世界全体の社会と経済の安定だ。

 発足に当たっての理念はまだ出来上がってないけど、そう思って貰って間違い無い」


「仰っしゃりたい事は分かりました。

 決して一個人の野心や欲望の為の組織では無いとは思いますが…。

 それでも僕には現実味が無いと言うか…正直に申しますと夢物語にしか聞こえないです」


「そう…だからアキヒトの兵団の力を貸して欲しい。

 将来は"大陸連合"保有の抑止力になって貰いたいんだ」


「ぼ、僕がですか!?」


「理念や理想ばかり語っていても意味が無いからね。

 この構想に賛同してくれる人達の政治力や経済力は申し分ないと思うよ。

 マーダ盟主を始めとして政治関係者も多い。

 微力ながら私も商会の枠を越えて人を募っている。

 しかし肝心の軍事力が乏しくてね…それをアキヒトに期待したいんだ」


現在、盟主であるマーダさんによってマーク同盟では意見の統一が成されつつある。

既に他4国に対しても工作が始まっており、いずれ多くの賛同者を得るであろう。

ケーダさんも一役買ってラーセン商会のみならず、他の2商会へも積極的に接触している。

そして大泉さんを始めとする勇者達は発足に向けて、日夜関係者と会合を重ねているという。


「…貴様は6番目の"王"よりも大陸連合の"兵団長"が似合っていると思わないか?」


「どうでしょうか…」


「それとも"王"になって栄耀栄華を極めたかったか?」


「それは無いですが…」


「急に言われても整理が付かんのは分かる。

 だが、何か気になる点が有るのなら遠慮なく言えば良かろう」


「では、率直に言わせて貰います。

 この"大陸連合"が発足した場合、その長は…役職名は知りませんが、誰が就くのです?」


僕が凝視する人物は一人しか居なかった。


「やはり…マーダさんですか?」


「なぜ私と思うのだ?」


「他に思い浮かばないのも有りますが、そんな野心を持っているように見えるからです。

 "大陸連合"の長になり、頂点に立ちたいと…」


「残念ながら私では無い」


あっさりと否定されたのは意外だった。


「まだ仮の役職名だが、"大陸連合"の初代となる総長は別の人物が就く予定だ。

 その人物が引き受けねば私も候補の一人とはなろうが…」


「てっきり僕はマーダさんだと思っていたのですが…」


「アキヒトよ…よく覚えておけ。

 今の私は盟主だが、あくまでソレは私が盟主たる役職に相応しいと思ったからだ。

 人には各々の本分がある。

 王なら王、宰相なら宰相…誰もが自分を正確に見極め、そこに就かねばならん」


「それでご自身が"大陸連合"の総長に相応しくないと?」


「ハハ…もう一人に比べたらな」


返答しながら、マーダさんはほくそ笑んでいた。


「そういう貴様も、自分が"王"に相応しくないと感じたのではないか?

 だからこそ、平原同盟からの提案にも返答しなかったのであろう」


「それは…」


「一度、"大陸連合"の"兵団長"が自分に相応しいかどうか真剣に考えてみるのだな。

 私には玉座よりも似合っていると思うが…」


「…俺からも少し言わせて貰って良いか?」


その時、右肩のシロが始めて口を開いた。


「なんだ?」


「仮によ、その"大陸連合"の"兵団長"にアキヒトが就いたとしようか。

 抑止力となって動く場合、誰が命令するんだ?」


「役職的には"大陸連合"の総長であろうな…。

 設立予定の理事会で審議され、その後で総長からの命令が通達されるであろう」


「それって意味が無くないか?

 どんなお偉いサマか知らないけどさ、アキヒトが命令に従わなければどうするんだよ。

 それこそお前達の言う"大陸連合"なんて夢物語じゃないか」


すると、マーダさんから鋭い視線がケーダさんへと向けられた。


「…そうだね、シロの指摘通りさ。

 実際にアキヒトが従わなければ"大陸連合"の構想は構想でしかない」


「どうやって懐柔する気だ?

 今更、金でアキヒトが従うなんて思ってないだろ」


「懐柔なんてしないよ。

 役職相応の報酬や経費は用意するけど、それ以上の金銭は出さない。

 他に衣食住の手当を出すつもりも無いよ」


「それで従うと思ってんのか?」


「…従うよ」


ケーダさんが薄っすらと笑っていた。


「重ねて言うけど、世界の社会と経済の安定の為の機関だ。

 個人の野心や欲望を満たす為の手段では無いのは断言しておくよ。

 そしてアキヒト自身も疑問や意見が有れば、遠慮なく教えて欲しいね」



機関発足までの道のりはまだまだ遠いらしい。

だが、多くの人達が大陸の現体制に改革を求めているのは間違いないという。


「あの勇者達は、貴様の兵団に比べて武力としては遥かに乏しい。

 しかし、この世界に持ち込んだ"大陸連合"の構想は補って余りあるものだ。

 それは我々が長年求めていた答えの一つなのだからな…」


マーダさんのみならず、多くの人達が探し求めていた新しい社会体制。


"黒い月"到来と共に世界は大きく変わろうとしていた。



次回 第76話 『 魔導王朝恐るるに足らず 』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ