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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第2戦後から第3戦 までの日常及び経緯
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第65話 『 不屈の大型機動兵器 』


平原同盟首脳陣との会談後。


決意表明したアキヒトは名実ともに兵団長を目指すべく再出発しようとしていた。

自宅の敷地内で特訓を始めようとした時である。


「まずは、あの3基を手懐けるのが目標だな。

 今までの兵種と違って、簡単に命令には従わないからそのつもりでいろよ」


「それって力不足だから命令を聞いてくれないってこと?」


「そういうことだな。

 俺経由で命令もできるが、その場合は僅かに時間差が出てくる。

 戦場ではそれが命取りになる時も有るから、お前に力があるに越したことは無いんだよ」


「分かったよ、3基も他の兵種と同じように動かせないと…」

 …そうだ、シロ。

 兵団は今もケート山岳部に駐留させているの?」


「あぁ、あそこなら苦情も来ないしな」


「この前の戦いでさ、かなり損傷が多かったみたいだけど大丈夫?

 特にアパルトは酷かったみたいだけど…」


「ん…そうだな…」


魔導王朝攻略戦で兵団は壊滅状態に陥った。


ラーセン商会支店に配備したクダニ級を除いて46基を戦線に投入した。

アキヒトの乗機ダニーを除くと実質的に戦ったのは45基である。

そして今、戦闘可能兵種はクダニ級5基のみ。

しかもその3基は中破という状態である。


これら機動兵器は特殊なナノマシンにより自己修復機能を備えている。

だが、魔導王朝攻略で負った損傷は修復機能を大幅に越えていた。

然るべき施設での修復作業が必要であろう。


「1ヶ月有ればクダニ級10基は戦えそうだが他は…。

 気長に自己修復を待てば、もう少しは…。」


「いや、当分戦う必要は無いから時間が掛かるのは良いんだけどさ…。

 あれだけ頑張って戦ってくれたんだから全基、治してあげられないかな?」


「アパルト級以外なら何とかなるが…」


「アパルトはもう駄目なの?」


「アイツはもう使えねぇよ、廃棄するしかない」


「廃棄って…捨てるの?

 ダメだよ!絶対にそんなの認められない!」


「そんなことを言ってもな…ヴリタラの戦いで傷つき過ぎた。

 心臓部の粒子反応炉の損傷が大きくて、自己修復不可能なんだよ。

 もうあのアパルト級は戦場に出せないな…」


「僕が…無理をさせたから?」


「気にするな、兵種なんて消耗品だ。

 戦いなんてのはな、勝つために兵種一つ一つを気にかけてはダメなんだよ」


「嫌だ!絶対に僕は認めない!

 お願いだよ、シロ…あのアパルトを捨てないでやってよ…!」


この類のアキヒトの頼みをシロが断り切れる筈も無かった。


「…分かったよ。

 決して悪いようにはしないと約束する。

 そうだな…戦場から離れた拠点にでも居場所を作っておいてやるよ。

 そこで何の危険も無い仕事でもさせておくか…」


「ありがとう、シロ!」


「別に良いさ、中には封印されている兵種もいるんだ。

 そいつに比べれば全然問題無いさ」


「封印…?閉じ込められている兵種がいるの?」


「封印っていうか…封印されてないというか、封印できないというか…」


「どういう意味?」


「別に閉じ込めてもいないし、拘束具を使って縛り付けてもいない」


「なぜ閉じ込めないの?」


「どんな頑丈な施設に閉じ込めても絶対にブチ破って出てくるんだよ。

 それに、どんな頑丈な拘束具でも暴れて必ず破壊しちまうんだ」


「じゃあ、どうやって封印を…」


「いつも出口が開かれた施設だと出ようとしない…。

 拘束具を使わないと暴れず大人しくしている…。

 そんな性格の個体だ」


「はは…随分捻くれた兵種だね…」


「だが、強い…!

 命令を聞かないという点以外は完璧なんだがな…」


「命令を聞かない…?

 全ての兵種がシロの支配下にあるわけじゃないんだ」


「俺の麾下は全て無機物と有機物の混合した機動兵器だ。

 粒子砲を始め、多くの兵装は後で付け足す無機物。

 それを動かすのが生体部分だ。

 でないと、兵器として成り立たないんだな。

 アキヒトの元の世界なら、全て無機物で製造が可能かもしれないが…」


「なぜ、僕の世界なら?」


「前にも話した"孤独な粒子"だよ。

 お前達の世界の道具、こっちの世界では使えなかっただろ?」


アキヒトが元の世界から持ち込んだ端末携帯機器やノートパソコン。

この世界で動作しない原因については前述した通りである。


仮に元の世界で機動兵器を再現しようとした場合、何が必要か?

各兵装を制御、四肢の動作当には頭脳部分が必須である。

誰も知っていることだが、現代兵器の多くで電子機器は使用されている。

航空機、船舶、車両…むしろ現代において電子機器が使用されない例は稀であろう。


しかしアキヒトが召喚された世界では全ての電子機器が使用不可能。

だからシロの機動兵器は、電子機能部の代用として生体を利用していた。


「例えば工場で何かを大量生産するだろ?

 その場合、ほんの極一部を除けば全て同じようなモノが出来上がる。

 大量生産品は均一に同じモノが作られるからな。

 だが、生体部品はそう上手く行かない。

 どうしても個体差が出て来る…。

 中にはこんな命令を聞かない兵種もいるってことだ」


「じゃあ、大量生産品の方が良いってこと?」


「それもまた難しい質問だな…。

 生体の先天性は俺にも理解できない領域だ。

 命令を聞かない問題児も産まれれば、とんでもない天才児も産まれる…。

 そうなると俺も期待してしまうんだよ」


「へぇ…天才児か…凄い…」


「しかしな、あのアパルトも優秀な個体なんだぜ。

 そこまで強くも無いが、命令には忠実だ。

 初めてアキヒトが統率する兵種には一番だと思って選んだんだよ」


「そう…じゃあさ、これからはゆっくり休ませてあげてよ。

 魔導王朝では十分に戦ったんだから…」


「あぁ、任せておいてくれ」



司令塔のシロの本分は戦いに勝利することに他ならない。

兵種の命など塵芥のように扱わねば勝てないことなど経験から学んでいる。

けれどもアキヒトの優しさを否定する気になれない。

その優しさが有ればこそ、自分は今もこうして生き永らえているのだから。



その夜、シロは単独でケート山岳部へと訪れた。

人々の生活圏から離れており、最も近くの交易路からさえ10km以上も離れている。


アパルトを初めとする全ての兵種達は静かに佇んでいた。

蹲って身体を小さくし、待機状態となっている。

今は体内ナノマシンが魔導王朝軍との傷を全力で癒していた。


「やっぱりだな…お前はもう無理だ」


予想はしていたが、実際に目にすれば疑いようは無かった。

自己修復機能だけではどうにもならない損傷である。

シャール平原の戦いから、このケート山岳まで自力で帰還できただけでも奇跡だった。

主兵装である鉤爪の腕部は全て欠損している。

粒子反応炉の出力は低下しており、全開照射どころか通常砲撃さえ不可能。

戦力としては期待できない状態であった。


「だが安心しろ、廃棄にはしねぇよ。

 アキヒトの希望でな、お前は後方へ送ることにした。

 これからは戦いとは無縁の輸送任務担当だ…有り難く思えよ」


後部をキャリアに改装すれば運搬くらいはできるだろう。

特に必要では無いが、大型機動兵器1基くらい遊ばせておいても問題は無い。

アキヒトとの約束もあり、それが最善の選択であろう。


「ギ…ギィ…!」


そんな考えのシロを傷ついたアパルトが睨みつけていた。

無数の複眼が白く光る司令塔に非難の視線で訴えかけていた。


"まだ終わっていない…!"


「まさか…お前…」


"まだ戦える…!"


満足に身体さえ動かせない状態だが、その目は決して諦めていなかった。


「…本当に馬鹿だな。

 これから戦いの無い余生を送ることもできたのに」



この日、ケート山脈近くで野宿した荷馬車の商隊が闇夜の空に巨大な光を見たという。


何かの地響きと共に、天空に巨大な光を纏った何かが現れた。

するとケート山岳から巨大な物体が浮かび上がり、天空の光の中へと消えていった。


その後には前と変わらぬケート山脈の光景が広がっていた。

次回 第66話 『 兵団窓口担当アヤ 』

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