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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第2戦 ヴリタラ魔導王朝攻略
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第58話 『 魔王 』


大陸歴488年7月

後にボーエン王国が建国される一帯で歴史的な戦いが始まろうとしていた。

東方のパラス神聖法国が繰り出した軍勢65万。

西方のヴリタラ魔導王朝が繰り出した軍勢52万。

神聖法国側は数的に優っており、また多くの有能な将軍や勇猛な騎士達を動員していた。

対する魔導王朝側にはキシーナ大公、グーニ大公、ショウ大公が戦列に加わっていた。

そして宗主ヴリタラ自らが先頭に立ち全軍を率いていたという。


それまで局地戦は数えきれぬ程発生したが、これだけの大規模な会戦は初めてであった。

両軍合わせて120万近くの兵員が中央平原を埋め尽くした。

神聖法国側は勝利を確信していた。

兵員的には優っており、万全の体制を敷いていた。


だが、この時点で宗主ヴリタラの実態を知らなかった。

既に魔王として大陸に名を轟かせていたが、戦場で対峙するのは初めてであった。

その為に法国軍はヴリタラの前面に5つの騎士団を布陣させた。

通常の兵員とは異なり、全て神族で構成された精鋭騎士達である。

決して侮っている訳でも無かった。

神聖法国側も魔王に対策を立てて警戒をしていた。


日が高く上った正午に戦いが始まったと伝えられる。

先頭に立つ魔王ヴリタラは、神聖法国側にとって僥倖と思われた。

なぜなら魔導王朝の頂点たるヴリタラを倒しさせすれば、この戦いの大勢は決する。

宗主が倒されれば、魔導王朝全軍に対する影響は計り知れないだろう。

中央平原での決戦に勝利し、そのまま勢いに乗って西進し魔導王朝領へと侵攻。

そして神聖法国の…神族による大陸の全制覇は成し遂げられる。


最前線で神聖法国側5つの精鋭騎士団が突撃を始めた。

狙うはただ一つ、宗主ヴリタラの首である。

当のヴリタラは身を隠すことも後ろに退くこともなく、戦列の先頭に立っていた。


閃光が奔ったと伝えられる


光と共に精鋭騎士団が一瞬で消し飛んだ。

宗主ヴリタラの手には巨大な光の剣が握られていたという。

一振りされるだけで閃光が奔り、数百単位の神聖法国側将兵の生命を奪われた。

法国騎士の剣は全く届かない。

魔導士達の詠唱が終わる間も無く閃光が奔る。

対宗主ヴリタラ用に投入された5つの騎士団は一瞬で全滅。

その報が全戦線に伝わると、神聖法国軍は完全に浮足立った。

先頭に立つ宗主ヴリタラに名の通った法国騎士達が次々と挑んでは無惨に散っていく。

記録ではヴリタラ一人で神聖法国の将兵3万の命が失われたとされる。

逆に士気の上がった魔導王朝軍の大攻勢が始まった。

60万を越える神聖法国軍が次々と討たれていく。


開戦より僅か3時間で勝敗は決していた。

神聖法国軍は組織的抵抗が不可能となり、各戦線にて敗走が始まっていた。

宗主ヴリタラは魔導王朝全軍に徹底的な追撃を命じた。

戦線に立ち止まる勇敢な法国軍も存在したが、例外なく討ち取られていった。


敗走に次ぐ敗走


大軍を擁した神聖法国軍も魔導王朝の執拗な追撃で更に兵員を減らしていった。

追撃は3日3晩続いたという。

神聖法国軍全ての兵士はアコン山脈の回廊に設けられた巨大な要塞へと逃げ込んだ。

膨大な兵員を失ったと記録されている。

中央平原に投入された全兵員65万、だがアコン山脈に辿り着いた兵員は18万。


以降は歴史書が伝える通り、アコン山脈の要塞の強化改修が始まった。

魔導王朝軍の法国内への侵入を防ぐために始まったとされる。

だが、それは正確ではない。

アコン山脈の要塞はヴリタラ一人の為に500年以上も改修を続けている。

神聖法国が恐れているのは魔導王朝軍では無い。


魔王ヴリタラの個の強さを最も恐れていた。





そして現在、朝都インダラ南東のシャール平原で戦いは続いていた。


「うぁぁぁぁぁ!」


アキヒトと知覚融合したアパルト級大型機動兵器が魔導王朝宗主ヴリタラへ戦いを挑む。

1本が切断され、残り3本の鉤爪の腕が振り下ろされる。


「…」


遠心力により音速を越えた3本の鉤爪が易々と弾き返される。

当の宗主ヴリタラは微動だにしない。

時折、片腕が消えて閃光が奔る以外に動作変化は全く見られない。

全高100メートルを超すアパルト級の鉤爪の連撃を軽々と打ち返していた。


身長2メートルに届かない宗主ヴリタラが片腕だけで3本の鉤爪を圧倒していた。


バキィッ!!


鉤爪の腕が光の剣戟の衝撃の耐え切れず、千切れて弾け飛んだ。


「グッ…ッッ!」


「大丈夫かアキヒト!?」


「ぜ、全然…!」


「知覚融合を解除するか!?

 これ以上はお前の身体がもたないぞ!」


「だ、駄目だ!それだけは絶対…!」


両者の戦いを目の当たりにしていた魔導王朝の者達にも原理は分からない。

だが、あの巨大な魔獣の苦痛が少年にも伝わっているのは理解できる。

おそらくは消耗を強いられることも。

しかし鉤爪の腕が2本になり、全身が傷だらけになっても少年の闘志は衰えない。


「あと…あと少しなんだ…!

 もう少しでガーベラさんを!」


誰の目にも巨大な魔獣に最初の勢いが無くなっているのが分かった。

それでも恩人を救うべく、少年は決して諦めようとしなかった。




「なぜだ!なぜ宗主様が此処に!?」


キシーナ大公がヴリタラと共に参陣した将軍達に詰め寄った。


「そ、それは…本日、大公殿下が出陣なされた後でした。

 宗主様がラーキ大公をお召しになったのです…」



ガーベラに極刑を下した日から、ヴリタラは自室に閉じこもっていた。

そして処刑執行日となった今朝。

何かしら思う所が有ったのかもしれない。

傍に控える執事に命じてラーキ大公を呼びつけたが、伏せっていると説明された。


何事かと問われれば執事も答えない訳にはいかなかった。

ガーベラを助命すべく、少年の兵団が今も魔導王朝領内を進撃していると。

ラーキ大公は少年を止めるべく自ら戦列に加わったが敗退した。

現在は傷を癒すべく屋敷で伏せっている。

そしてキシーナ大公を初めとする3名も夜明け前に出陣した。

少年の兵団は朝都インダラ南東のシャール平原まで迫っている、と…。


「それで、宗主様自らが御出陣なさると仰せになりまして…」


大公の一人を敗退せしめた少年を捨て置けなかった。

魔導王朝へ危害を加える存在として、宗主自らが抹殺に乗り出した。



「あと10分…いや、5分も有れば勝敗は決していたものを…!」


3人の大公は確実に少年の兵団を追い込んでいた。

兵団は壊滅しており、少年もあと僅かで力尽きて戦いは終わろうとしていた。

数分…ほんの数分だけ宗主ヴリタラの参戦が遅れていれば、少年は無力化していた。


「――いや、まだ手は有る」


ミヤザ大公が指摘し、ショウ大公も頷いた。


宗主ヴリタラは一度戦いを始めれば勝敗が決するまで決して止めない。

たとえ女子供であろうと敵対すれば容赦なく殲滅する。


今の少年が生き残る道はただ一つ…それは敗北を認める以外に無かった。


"少年よ…今すぐ投降するが良い"


居並んだ大公達3人は願うしかなかった。


"今すぐ剣を捨てて膝を付き、地面に手を付いて、許しを請うが良い"


"さすれば、我々大公3人が取り成してやろう"


"いや、他の大公達からも取り成してくれるであろう"


"幸い、魔導王朝の民に犠牲者はおらぬ"


"宗主様も我々の取り成しであれば…もしかしたら聞き届けて下さるやもしれぬ…"


以降、少年は魔導王朝の監視下で軟禁状態となるだろう。

行動の自由は無くなるが、引き換えに生命の安全は保障される。


"頼む…我々にガーベラの教え子を見殺しにさせるな"


"彼女からの最期の願いだ…叶えさせてくれ…"




「アパルト級…出力60%まで低下…。

 第2腕部、損傷限界…」


シロから告げられる情報は敗残兵団の敗北が間近に迫っているのを物語っていた。


これまで第一線で活躍してきたアパルト級も、あと数分で活動限界を迎える。

目前の宗主ヴリタラの圧倒的な戦闘力の前には成す術も無い。

あの閃光が奔るたびにアパルト級の損傷が増大し、機能が低下していく。


しかもヴリタラの底が全く見えない。

今、振るっている力は氷山の一角にも満たないであろう。


「兵団、稼働兵種クダニ級5基…全て中破状態だが…」


戦闘可能兵種は何も残されていなかった。

本来なら非戦闘種の早期警戒用クダニまで戦列に加わり、文字通り全滅した。

稼働状態にあるのはアキヒトの乗機ダニーとアパルト級の2基のみ。

周囲には壊滅した兵団の兵種が無残に屍をさらしていた。


バキッッッ…!!


アパルト級の鉤爪の腕が耐久限界を越え、またもや千切れて飛んだ。

残された攻撃手段は1本の腕のみ。


「グッ…!!」


歯を食いしばって激痛を堪えつつも、アキヒトは尚も止まらない。

僅かに残された鉤爪の腕のみで強敵との戦いを続行した。



対峙する魔導王朝軍戦力。

宗主ヴリタラ、大公3名、朝都精鋭守備軍12万余。


寧ろ、朝都間近にまで迫ったのを誇るべきかもしれない。


ここに至って戦力差は絶望的であり、敗残兵団の進撃は終わろうとしていた。





…シロの行動原理は単純明快である。


何よりも優先するのはアキヒトの生命。


だが、この期に及んでもシロはアキヒトに撤退を進言しない。


魔導王朝宗主、大陸最強の魔王と怖れられるヴリタラと絶望的な戦いを続けても。


大公達や王朝軍将兵からはアキヒトの生命など風前の灯にしか見えないのに。



しかしシロはアキヒトを止めようとしない。



なぜなら――




No.01 Danny Normal

No.02 ----- -- ------

N0.03 ----- -- ------

No.04 ----- -- ------

N0.05 Apart 01 Damage

No.06 Gully 01 Unable

No.07 Gully 02 Unable

No.08 Ingum 01 Unable

     :

No.12 Ingum 05 Unable

No.13 Kudah 01 Half Damage

     :

No.50 Kudah 37 Unable



宗主ヴリタラとの戦いに全神経を注いでいるアキヒトが気付く筈もない。

視界右下に煌々と光輝く空間表示ディスプレイ。


敗残兵団のユニットリストに変化が生じた。



No.02 ----- -- Mirage Mode

N0.03 ----- -- Mirage Mode

No.04 ----- -- Mirage Mode



それまで空白だった項目にステータスが表示された。

更にアキヒトには未知の兵種の名称が表示され、そのステータスが移行を始めた。



N0.03 Gurst 01 Mirage Mode → Release Start

No.04 Gurst 02 Mirage Mode → Release Start



最後に――禍々しい血の如き赤い色彩で兵種名が表示された。





No.02 Varum 01 Mirage Mode → Release Start





―――――――――『 特殊鏡面透過装甲解除開始 』――――――――――






「うぁぁぁぁぁ…!」


何も知らぬアキヒトは魔王ヴリタラへ絶望的な戦いを挑み続ける。



"ミラージュシステム"解除完了まで残り30秒を切っていた。



次回 第59話 『 悪魔が嗤う 』

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