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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第2戦 ヴリタラ魔導王朝攻略
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第51話 『 敵は何処に 』


10月8日

魔導王朝侵攻4日目。

アキヒト率いる兵団は王朝守備軍を退けながら西進を続けていた。

6日、アッカリ地方にて3回。

7日、シュタプル地方にて4回。

この日はバンク―地方に突き進み、3回も守備軍との交戦を続けていた。


これまでの戦いで王朝軍側に犠牲者は無し。

多くの物資を喪失し、負傷者は多数発生したが、想定に比べれば無傷に等しい。

少年の行動はあくまでガーベラの助命嘆願が目的であるという。

王朝軍の殲滅が目的でないのは、誰の目にも明らかになってきた。

彼は迎撃に来た守備軍を誰一人生命を奪うことなく無力化に徹していたのだから。


敵意の無い少年に王朝守備軍将兵の戦意は低下していた。

更に彼がガーベラの教え子という情報が伝えられると拍車が掛かった。

恩師を救うべく単身で助命嘆願に朝都へ向かっているのだと。

現在も王朝全土ではガーベラの減刑を求める声が多い。

各地区の守備を任された侯爵の中でも、この極刑を不服とする者達は多かった。


戦意と同時に王朝民の危機感も低下していた。

外敵の侵入という国家の大事なのに、人々の生活は以前のソレと変わらない。

少年の兵団の侵攻経路は一言で表せば巧みであった。

王朝民の生活圏から外れた無人の荒地や平原を選んで進んでいた。

この兵団の迎撃を任された王朝軍務省には、兵団の動向が逐次伝えられていた。

これまでの侵攻経路は場当たり的なモノではない。

王朝領内に熟知した何者かによって練られていたのが分かった。

数百キロ先の都市を見越しての迂回経路等、第三者の協力者の存在は確実視された。

王朝民の大半は兵団の存在を知るのみである。

時折、近くを通りかかった兵団を見物に行こうとする者達が現れる程度である。


またラーセン商会の動向も戦意と危機感の低下に一役買っていた。

少年の兵団は巧みな経路を進んでいたが、それでも王朝民の生活に支障を与えた。

都市間に設置された交易路を縦断し、舗装された道路を破壊した。

だが、兵団の背後へ離れず付いていた工事員達が直ぐさま補修へと取り掛かった。

彼等は補修用資材や器具を予め用意しており、復興するまで1時間と掛からなかった。


"ラーセン商会から依頼されたので"


作業員達に王朝守備軍が問いただすと口を揃えて答えた。

ラーセン商会に問い合わせすると、流通に支障をきたしては損失を招くという。

確かに復興工事で流通が滞りもしたが1時間にも満たない。

全体からすれば損失は微々たるものであった。


流通の安定と共に王朝内の物価も安定していた。

通常、戦時下に突入すれば物価は高騰するが、それもラーセン商会が手を回していた。

兵団の侵攻と共に以前よりも卸値を1割近く低くした。

潤沢な物資が王朝領内へ滞ることなく安価で流通すればさしたる影響も無い。

外敵の侵入に恐れを抱く者達も当初は多かったが、全て杞憂に終わろうとしていた。

よって厳密には戦時下の筈だが、平時と変わらぬ生活が続いた。


また、交易路以外に王朝民の資産を損傷する場合も僅かながら発生した。

迂回路を見出せず、兵団が田畑を通過する時も有った。

その時は土地の所有者に兵団を統率するらしき少年が頭を下げに来た。

更に申し合わせたかのようにラーセン商会の手の者が現れ、損害の補償を申し出た。

金額は損失の補填としては十分だった。


そして喧伝が王朝民の印象を決定付けた。


"少年はガーベラ様の助命を嘆願すべく朝都に向かっている!"


先代ヤールの名声は王朝民にも広く知れ渡っていた。

その一人娘、ガーベラもまた劣らぬ人物であるということも。


"ガーベラ様は官僚達の謀略によって失脚なされた!"


"連中は神族との再戦を画策している!"


"それを防ぐために奔走しておられたのだ!"


"少年はガーベラ様の教え子であり、恩師の減刑が目的であって敵対行為ではない!"


事実、あれだけの兵団が侵攻しているにもかかわらず王朝の損失は殆ど無かった。

王朝守備軍の戦死者がゼロであるのも伝わっていた。


そして時間と共に矛先が少しづつだが変わっていった。



8日、バンク―地方を通過する兵団に対し一帯の3守備軍が迎撃に当たった。

しかし同地方ベリ侯国のエーター侯爵率いる軍のみは出兵を拒んだ。


この反意とも受け取れる決定は王朝軍務省から厳しく追及された。


『なぜ兵を出さぬ!

 これは重大な軍律違反であるぞ!』


『これは異なことを申される。

 私は王朝よりベリ侯国周辺の守備を仰せつかっておる。

 彼の兵団が我等の管轄に立ち入らぬ以上、兵を出す理由にはならぬ』


『そのようなことを申している場合か!

 魔導王朝の外敵を迎え撃つのに管轄など取るに足らぬ問題であろう!?』


『外敵とは何か?

 私は王朝を守護するための兵を預かっている。

 民の生命や財産を害する賊が出現すれば、言われるまでも無く兵を出す。

 神族共が攻めてこれば猶更である。

 如何に大軍で押し寄せようと、この生命を投げ捨てて戦う覚悟はできている。

 しかし、あの少年は何者なのか?

 減刑を嘆願すべく朝都に向かっておるだけであろう。

 私には兵を出す必要が見当たらぬ』


『き、貴公は…!

 そのような詭弁が通ると思っておるのか…!?』


『加えて申し上げるならだ!

 私もガーベラ様の極刑には賛同しかねる!

 この私だけでは無い、同じ意見の者達は王朝内には数多いであろう!

 心情的には私も少年と同じだ!』


『侯爵たる者が王朝に反旗を翻すつもりか!』


『断じて違う!

 私は誰よりも魔導王朝を愛しておる!

 真の忠臣なればこそ、今回の決定に異を唱えるのだ!

 今、ここでガーベラ様のような才媛を失って王朝に何の益がある!?

 貴様には夜空に浮かぶ"黒い月"が見えぬのか!

 このような事態こそ、あのような御方が必要であろう!』


王朝軍務省からの使いを、逆にエーター侯爵が厳しく弾劾していた。


『このような緊急事態に王朝の利を損なう真似をしおって…!

 同じ禄を食む立場で無ければ、貴様などこの場で斬り捨てておるわ!

 軍務省へ帰り次第、即刻上の者達に伝えよ!

 貴様達も王朝の一員ならば何が益で何が損なのか、よく考えよとな!

 インダラ奥深くで踏ん反り返っている貴様達と恩師を救うべく一人奮戦する少年!

 どちらが魔導王朝の真の敵なのであろうな!?』



前大戦から500年。

魔導王朝も神聖法国との再戦を想定して数多くの立案が成されてきた。

その一つが神聖法国からの逆侵攻。

アコン山脈から大軍を出撃させ、中央平原を経由して魔導王朝領内へと攻め込む。

この事態を想定して各地の守備軍の連携した防衛態勢を構築していた。

任地である一ヶ所の駐留に固執することなく、友軍と連携して柔軟に対応する。

だが、その構想が崩れようとしていた。

各地の守備軍指揮官の侯爵達は、今回の作戦に消極的である。

戦意は乏しく、動きは鈍い。

王朝民も外敵という意識は低く、危機感も無い。

地図上では刻一刻と、兵団が朝都インダラへと接近している。


『何なのだ、これは!』


王朝軍務省内に設置された本作戦の総本部で怒号が飛んだ。


『あの少年!神族どもより手強いぞ!』




多くの者達からすれば、確かに兵団は順調に朝都インダラへ近づいているように見えた。

地図上での配置がそれを物語っている。


だがシロの考えでは、この8日時点での成功の見通しは非常に暗かった。


「おい、この作戦には無理があるぞ」


ラーセン商会の作戦会議室で、地図を見下ろすケーダに指摘していた。


「お前にだって分かってるだろ。

 この進軍速度ではガーベラの処刑執行まで目的地に間に合わないぞ」


「まぁ、そうだね」


ガーベラの処刑執行は12日、場所は朝都インダラ。

魔導王朝領へ侵入後、守備軍を全て撃退してきた兵団だが進軍は遅れていた。

王朝民の生活圏を迂回して遠回りし、更に守備軍の迎撃で足止めを食らう。

しかも、これより先は更に魔導王朝軍の迎撃頻度が高まるだろう。


「なぜ進軍方向を変えないんだ?

 ここから直線距離を採って、最短で進めばまだ可能性はある」


「ダメだよ、それじゃ魔導王朝の人達を敵に回す。

 街や家屋を破壊するのは賛成できない」


「間に合わなきゃ意味が無いだろ!

 もしくは強行に進軍するんだよ!

 犠牲を出さずなんて甘いこと言ってたら朝都に着かないぞ!

 敵兵は全て蹴散らして踏み潰せば早く進むだろ!」


「それこそ絶対にダメだよ。

 今の王朝軍は順調に士気が低下している。

 怪我人は大勢出してるけど、死者は一人もいないから恨みも買ってない。

 だから君達の兵団を敵対視する者達も今は多くない。

 あくまで目的はガーベラ様の助命だからね。

 ここで犠牲者を出したら死に物狂いで抵抗してくるよ。

 人の恨みは恐ろしいからね。

 その場合、今以上に時間を浪費すると思うよ」


「おい、なんだよソレは…。

 どちらにしろ、俺達は間に合わないじゃないか!」


王朝軍の迎撃が無ければ朝都まで間に合う目算ではある。

だが、現実問題としてそれまでに数多くの守備軍が各地に配備されていた。


「お前、本当に何考えてやがんだ…?」


ケーダ・ラーセンは答えない。

地図を見下ろしたまま、様々な考えを張り巡らしていた。




問題は日程だけでは無かった。


「様子はどうだ?」


「今はぐっすり寝てるけど…」


8日夜、アキヒトはバング―の城塞都市に宿を確保していた。

連日の連戦は予想以上の消耗を強いていた。

ケーダとの約束を守り、誰一人犠牲者を出さぬよう全神経を注いでいた。

6日、7日に続き、この日も3度もの戦いをこなしていた。


日が落ちると都市近郊の人気の無い場所でラーセン商会の者達と落ち合った。

しかしダニーから降りた途端、その場に倒れ伏した。

ラーセン商会の者に宿まで背負って運ばれ、ようやくベッドで横になることができた。


今はベッドの上でシーベルに膝枕されながら眠っていた。


「このままじゃアキヒト、保たないよ?」


「…だろうな」


シーベルが膝の上のアキヒトの黒髪を指先で梳いていた。

食事も摂らず、学生服も着たままだった。

白いマフラーだけが部屋のハンガーに吊り下げれれてあった。


既に昨日の時点で、間近にいたシロはアキヒトの消耗を察していた。

45基もの兵種全ての同時操作を日に10時間以上も駆使し続けていた。

数万単位の王朝軍、その一人一人を可能な限り傷つけぬよう捌いていた。

だが、どんなに辛くても決して弱音を吐く様子は無かった。


「まぁ…アキヒトがやるってんなら、俺は最後まで付き合うだけだ」


アキヒトが諦めない以上、シロも決して止めようとしなかった。


けれどもガーベラの処刑は4日後にまで迫っていた。

予想される多数の王朝軍の迎撃、その都度のアキヒトの消耗。


朝都インダラまでの道のりは余りにも遠くに思えた。



次回 第52話 『 大公出陣 』

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