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孤独な粒子の敗残兵団  作者: のすけ
  第2戦 ヴリタラ魔導王朝攻略
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第48話 『 無邪気な協力者 』


シロはケーダ・ラーセンという人物の評価を改める必要を感じていた。


『それからもう一つ条件がある。

 君の魔獣…いや、部下と呼んだ方が良いかな?

 それを1基、この支店に置いて欲しい』


『なんでだよ、護衛が必要なのか?』


『いや、通信手段さ。

 前にアキヒトの家でエルミートの令嬢と話をしてたよね?

 それを使って、この支店と君達との連絡を可能にしたいんだ。

 戦力は1基分減るけど、それに見合う成果は出すと約束するよ』


アキヒトも賛成し、最も身体の小さいクダニ級1基がラーセン商会支店へと配備された。

身体が小さいと言っても屈んだ状態で体高2メートル。

天井を気にしながら支店内へ入り、通されたのは大会議室だった。

200㎡という室内の中央に巨大なテーブルと広げられた魔導王朝地図。

同室内に設置された10以上もの魔導通信器具と会話するスタッフ達。

通信が入るたびに地図周辺のスタッフに内容が告げられる。

地図上には魔導王朝軍の布陣を示す無数の駒があり、通信内容に従って動かされた。


また魔導王朝社会にも詳しい専門スタッフが幾人も集められた。

彼等は産業、生活圏、交通網に通じており、その意見も参考にして侵攻経路が決められた。

王朝社会に損失を与えず、如何に時間を短縮して朝都に辿り着くかが検討されていた。


更にラーセン商会より魔導王朝内の各支店へ敗残兵団の目的が告げられていた。

兵団の目的はあくまでガーベラの助命嘆願であり、決して王朝への侵略では無い。

この内容は王朝民にも広く伝聞され、人々の混乱を未然に防いでいた。


僅か1日でこれだけの態勢を整えたケーダに、シロも感心せざるを得なかった。

戦闘力に関しては最強を自負する兵団だが、それだけが全てでは無い。

およそ自分達に足りない物の全てを、この男は揃えてくれている。


会議室中央で地図と向かい合っていたケーダに、クダニ級を通じて話しかけた。


「お前に頼みがある、聞いてくれ」


「ん…何だい」


「これからもアキヒトに色々と教えてやって欲しい。

 悔しいがお前は有能だ。

 俺では教えられないことをお前なら教えてやれる」


「はは、ボクは大したことを教えてあげられないよ」


「謙遜なんて聞きたくもねぇよ。

 お前の手腕、確かに今の兵団には必要不可欠だ。

 ここにはクダニ級1基どころか10基配備しても御釣りがくるぜ」


「褒め言葉として受け取っておくよ。

 だが、アキヒトには余り私と同じ色に染まって欲しくない。

 彼には商人としての視点も備えて欲しいが、商人になって欲しいとは思わない」


「じゃあ、何になって欲しいんだよ」


「はは、君達の兵団長に決まってるじゃないか」


「何言ってるんだよ、アキヒトは今も兵団長だぜ?」


「さて…ボクの気のせいかもしれないけど、完全に兵団長とは思えないね」


「…どういう意味だよ?

 この俺がアキヒトを兵団長として認めていないとでも言うのか?」


「そうだよ」


クダニ級の複眼全てがケーダに向けられた。

異変を察した地図周辺のスタッフ達が動きを止めた。


「君はアキヒトを兵団長と呼んでいるけど、対外的にそう呼んでいるだけ。

 肝心の指揮権全てをアキヒトに預けてるとは思えないな」


「俺がアキヒトを信用してないって言うのかよ!?

 今だって全兵種を動かしてるのはアキヒトだぞ!」


「今、君達の兵団はここに配備されたのも合わせて47基。

 これが全てなのかい?」


地図上の敗残兵団を示す駒を、ケーダは動かした。


「これはボクの推測なんだけどね…。

 君はアキヒトには内緒でまだかなりの戦力を隠し持っている。

 正確な数はボクにも分からないけどね。

 その全てをアキヒトの指揮下に加えない限り、本当の兵団長とは言えないんじゃない?」


クダニ級と口元に笑みを浮かべたケーダが向かい合っていた。

双方とも押し黙ったまま、時が過ぎていく。


「…今の話、アキヒトには黙っておけよ」


「商売仲間の意見は尊重するさ」


再び大会議室内での作戦立案が続けられた。




10月5日夕刻

ハスナ侯国を突破した敗残兵団は、陽が落ちて辺りが暗くなると進軍を停止した。


「ここが指定された停止ポイントだ。

 それに連続稼働は負担が多い、少しは休ませないとな」


アキヒトに異論は無かった。

平原での駐留を決めると、早期警戒クダニで周辺を探った。


兵団の周囲に数え切れない程の生体反応が察知された。


「偵察だよね?こんなに一杯…」


「魔導王朝の連中だけじゃないだろうな。

 大陸中の国家が注目してるってことだろ」


暗闇に紛れて、アキヒトの搭乗するダニーは光学迷彩で姿を眩ました。

兵団を囲む偵察の輪の上を通り抜け、気付かれぬよう静かに離脱していった。



10分も疾走しないうちに、大きな街の灯が見えてきた。

その明かりから200メートル程離れた暗闇の空き地にダニーが静かに降下する。


「地図ではこの辺りらしいが…あいつらか」


木陰から現れた人影が3つ。

ダニーから降り立ったアキヒトとシロに近づいてきた。


「ラーセン商会の方でしょうか?」


「…あぁ、そうだ。ケーダ様の指示通りだったな」


彼等は魔導王朝領内のラーセン商会支店の者達だった。


「やっ♪」


「あ…!」


1人はケーダの実妹、シーベル・ラーセンだった。


「なぜシーベルさんがここに?」


「兄さんの命令でアキヒトの護衛。

 顔見知りだと安心するでしょ?」


陽気なシーベルとは逆に、2人は深刻な口調でアキヒトに話しかけた。


「ケーダ様のご命令で君達へ協力するよう言われている。

 だが、その前に私個人からも聞いておきたい」


「はい、何でしょう?」


「魔導王朝に危害を加える気は本当に無いんだな?」


ラーセン商会の支店を預かる者だが、敗残兵団の存在には危惧を抱いていた。


「我々は魔導王朝の人々と共に暮らし、その恩恵を受けている。

 彼等の生活を脅かすようなら、ケーダ様のご命令といえども協力はできない。

 しかし目的はガーベラ様の助命嘆願と聞いている。

 ならば魔導王朝の将来の為、今は王朝軍に敵対する君達に協力するのも仕方ないが…」


「それならばご安心を!

 決して魔導王朝の人々に危害を加えないと約束します!」


「…その言葉、信じよう」


商会の者達に先導され、アキヒトは街へと辿りついた。


「賑わってますね…」


「あぁ、これが魔導王朝の良い所なのだ」


街の通りは眩しい街灯に照らされた、所狭しと立ち並んだ屋台と道行く人々の流れ。

店先に並ぶのは穀物、果物、野菜、雑貨、武器、海鮮類まで。

人々の身なりは決して洗練されておらずラフだったが、活気に満ちていた。


連れてこられたのはラーセン商会のご用達の宿だった。

雑多な街並みの中に、一軒だけ小奇麗で大きな建物が紛れ込んでいた。

入ると店員達とは顔馴染みであり、直ぐに食堂の一画へと通された。


席に着くと、支店の者達から改めて話が始まった。


「君には可能な限り協力せよと命令されている。

 とりあえずはこうして食事と宿を手配した。

 他に何か必要が有れば遠慮なく言って欲しい」


「では、明日の昼食用に何か保存の利く物をお願いできますか?

 今のところは他にありません」


「分かった、明日の出立までに用意させよう」


暫くしてテーブルに出された料理からは香辛料の匂いが立ち込めていた。

最初に出されたのは焦げ目のついた茶色のパン。


「変わったパンですね…」


「魔導王朝と平原同盟では焼き方が違うんだよ。

 こちらでは無発酵のパンが主食でね」


スパイスの香りが漂うスープに漬けて口に運んだ。


「平原同盟から来た人達の多くは、匂いが強すぎて苦手と言っている。

 しかし、この香りが慣れると病みつきになるんだ。

 仕事で平原同盟に長期滞在したりすると、恋しくてたまらなくなるくらいね」


香りは独特であったが、食事をするアキヒトに嫌悪している様子は無かった。

更に鶏の蒸し焼き等も出されたが、全て口の中へ運んでいった。



「アキヒト、散歩に行こう」


食事の後、お茶を飲んでいるとシーベルが窓の外を指さした。


「え…僕は部屋で休むんじゃ」


「兄さんの命令、大切な用事があるの」


席を立ち、支店の人達とは挨拶して別れた。

シーベルに強引に腕を引かれて、アキヒトは魔導王朝の夜の街へ再び向かった。


食後の簡単な運動で良かったかもしれない。

さっきも見ていたが、夜中だというのに街の活気が衰えない。

ボーエン王国の城塞都市に滞在していたアキヒトからすると対称的だった。

城塞都市も多くの人達が住んでいたが、今に思えば物静かだった。

しかし魔導王朝の街は何もかもが熱気に満ちていた。


「なぜ兄さんが街の宿に泊まらせるか分かる?」


夜の街中を散策しながら、シーベルが質問してきた。


当初、アキヒトは兵団と一緒に野宿するつもりでいた。

しかしケーダからは王朝内の宿へ停泊するように強く求められていた。


「食事と睡眠を…十分に休息を取る為でしょうか」


「それは当然。

 あと、魔導王朝の人達の顔を見て欲しかったから」


シーベルに辺りを目配せされて、改めて街の賑わいを確かめさせられた。

敗残兵団が領内へ侵入している知らせは広まっている筈だが、人々の表情に変わりは無い。

ラーセン商会の手回しが上手く行っているのだろう。


魔導王朝の民の生活を乱さぬよう、細心の注意が払われていた。


「王朝はどこも同じ、絶対に壊しちゃダメ」


「…はい!」


アキヒトの力強い返事に、シーベルも満足げな笑みを見せた。


「お土産は買わないの?」


「いえ、僕は遊びに来てるわけじゃないですから」


「ボーエンには帰らないの?」


「そ、それは帰るつもりですけど…」


「お金無かったんだ」


「少しくらいは持ってますよ!」


神官達から支給されていた生活費の一部。

その大半はティアに渡していたが、僅かばかりのお金だけ持参していた。


「いくら?」


「に…200ソラくらいかな」


「他に使い道ある?」


「ん…特に無いですけど…」


「今じゃ無くてもいいから。

 ボーエン帰る前に、お土産買うと良いよ」


シーベルはにこやかに話しかけてくるが、アキヒトの表情は晴れない。

明日もまた魔導王朝軍との戦いが始まるのは間違いない。

その結果、どうなるか分からないのだから。


「…アキヒト、それじゃ生き残れないよ?」


「え…」


「ほらっ!」


突然、アキヒトの手を引っ張るとシーベルは走り出した。

人混みの中を2人は駆け抜けていく。


「わっ!わっ!ちょ、ちょっと!」


「あはは…!」


奇跡的に誰とも衝突せず、少女が笑いながらアキヒトを引っ張り駆けていく。

あちらこちらと2人で駆け回り…宿の前でようやく立ち止まった。


「な、なんですか、一体!」


「さっきのアキヒト、死相が出てたよ」


「え…死相?」


「うん、目が死んでた」


アキヒトは息を切らせながら、窓ガラスに映った自分の顔を見てみた。


「今は少しだけ生き返ってる」


知らず知らずのうちに思いつめていた顔をしていたかもしれないと自覚した。


「…シーベルさん、今度、お土産選ぶのを手伝ってくれます?」


「うんうん♪」


機嫌の良くなったシーベルと一緒に宿へ入ると、カウンターで鍵を貰って部屋に案内された。



「ここ、結構良い部屋だよ」


広めの間取りで天井には眩しい照明、窓からは街並みが見える。

室内には丸テーブルと椅子、そして大きなベッドが備え付けられていた。


「良かった…手足を伸ばせて寝れるんだ」


遠征中、アキヒトはダニーの中で睡眠をとるつもりだった。

ベッドの上で大の字に仰向けで横たわると、身体の沈む感覚が心地良い。


この日は朝早くに起きて城塞都市を出立し、ケート山岳で兵団本隊と合流。

西進して魔導王朝軍と交戦し、第一戦を何とか突破した。

傍目では余裕を持った勝利に見えるが、アキヒト自身の疲労は決して少なくない。

兵団の全47兵種を完全に制御し、犠牲者を一人も出さぬよう全ての神経を尖らせていた。

戦いの後、ダニーの中で仮眠を取っていたが簡単に疲れはとれなかった。



「……ぁ」


気付くと、普段着のままベッドの上で眠ってしまっていた。


「今日は疲れたんだろ、もう少し寝とけよ」


「あ…うん、その前にシャワーを…汗もかいたし…」


シロと言葉を交わしながら、アキヒトは室内を見回した。

出入り口の隣の浴室らしき扉が視界に入る。

寝惚けた目を擦りながら立ち上がり、部屋備え付けの浴室のノブに手をかける。


ガチャッ…


扉を開けた途端、中から湧き出た湯気が視界を覆った。


「あ…」


湯気の中から姿を現したのは、一糸纏わぬシーベルの後ろ姿だった。

シャワーで洗い流される濡れた髪。

背後からも時折揺れる胸元の膨らみが覗く。

くびれた腰から健康的な白く艶やかな太腿が伸びていた。


「ン…?」


扉が開いたのに気付き、シーベルが背後へ振り向く。

慌てて胸元を隠すと豊かな膨らみが腕で押し潰され…困った表情になって口を開いた。


「…見たかった?」


「ご――ごめんなさい!!」


予想外の光景に固まっていたアキヒトが、我に返ると慌てて扉を閉めた。


「あー…シーベルがさっき、シャワー浴びるって…」


「馬鹿!なんでもっと早く言わないんだよ!」


アキヒトとシロが口論していると、間もなく浴室の扉が開いてシーベルが姿を現した。

サイズが大きめのシャツ一枚で、その下からは白い足が伸びている。


「な…!なんでシーベルさんが部屋にいるんですか!?」


「アキヒトの護衛だから」


「必要ないです!」


「ダメ、一人じゃ危ないもの」


「僕は大丈夫ですから!出ていってください!」


「…分かった。じゃ、部屋の前にいるね」


「え…他に部屋は?」


「空いてないから」


アキヒトは頭を抱えた。

こんな夜に今から追い出すわけにもいかないと思い悩む。

その横でシーベルが平然と髪の毛をタオルで拭いて乾かしていた。


「アキヒトも入ってきたら?」


「あ、はい…」


「後で膝枕してあげるから」


「結構です!」


怒りながらシャワー室へ入っていくアキヒトを、シーベルが穏やかな表情で見ていた。


「…ありがとうよ」


不意に傍らのシロが少女にお礼を言った。


「これから厳しい戦いだからな…アキヒトも少しは気持ちが軽くなったろうよ」


「さてさて」


少女は微笑むだけであった。



大陸歴996年10月5日

アキヒト率いる敗残兵団は魔導王朝領内へと侵入した。

その動向に大陸平原同盟各国、南方諸侯連合、そしてパラス神聖法国も目を見張っていた。


特に神聖法国は注目している。

同日、密命を帯びた新騎士団長候補と一行が敗残兵団の後に続いて王朝領内へと侵入していた。


次回 第49話 『 詐欺師イスター 』

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